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Sun, 18 November 2018

スタンダップに学ぶ、ブリティッシュ・ユーモア

らゆる場を盛り上げ、会話の潤滑油となるユーモア。ところが、「ブリティッシュ・ユーモア」と呼ばれる笑いの感覚は日本のそれとは違うらしく、私たち日本人は「?」と戸惑ってしまうこともしばしば。これではいけないということで、今回は英国で活躍するお笑い芸人のネタを参考にしながら、ブリティッシュ・ユーモアの要素を正しく楽しく分析しようと試んでみました。一流のスタンダップ・コメディアンたちを日本の有名タレントたちの芸風に例えて紹介しながら、英国における笑いの真髄に迫ります。(本誌編集部: 長野 雅俊)

ブリティッシュ・ユーモアが分かりにくい理由

仲間と話したりテレビを見ていたりする際、英国人は大爆笑しているのに、自分だけ全く意味が分からず1人取り残されたような思いを経験したことがある日本人は多いのではなかろうか。考えられる理由は主に2つ。英国の笑いはジョークやダジャレなど言葉を題材にしたネタが多く、コメディアンが大袈裟にすっ転んだり叩かれたりといったわかりやすいドタバタ喜劇が比較的少ないこと。さらにはこれら言葉で表現されるユーモアは暗にほのめかされる傾向があり、同じ言語や文化を共有しない外国人にはお手上げな場合が結構ある。「ブリティッシュ・ユーモア」が英文学や演劇文化での言葉遊びの中で培われてきたため、こんな難しいことになったのだという。

スタンダップ・コメディー

英国のいわゆる「お笑い」の王道で、通常は1人の話し手が観客の前に立ち、マイク片手にとっておきのジョークを次々と浴びせかけていくスタイル。話し手は何年もの歳月をかけて練り上げたネタを繰り返し演じることが多いが、その日によって異なるアドリブや観客との掛け合いが展開されることもある。スタンダップ・コメディーの舞台は主にコメディー・クラブと呼ばれる劇場や、パブ、その他のショーの前座など。また毎年8月にエディンバラで開かれるフリンジ・フェスティバルは、たくさんの著名なスタンダップ・コメディアンが出演することで知られている。

ユーモアの要素その① 権威の批判

ブリティッシュ・ユーモアと聞いてまず思い付くのが、風刺(Satire)、皮肉(Irony)、嫌味(Sarcasm)を含んだねっとりとしたジョーク。これらは扱うネタに権威があって憎ければ憎いほど、面白みが増す笑いだ。ただその対象が権威を持つが故にジョークは隠喩的に表現されることがあり、背景知識や茶化したものがそもそも何であるか知らないと、理解できないことになる。近年はスキャンダル続きの英国王室メンバーや、失言多きジョージ・ブッシュ米大統領などが「権威」としてよくネタにされている。

スタンダップは別の顔
リッキー・ジャベイス Ricky Gervais
45歳、レディング出身、ロンドン大学哲学科卒

「The Office」や「Extras」といったコメディー番組のヒットで今や時の人となったリッキー・ジャベイス。これらの番組では典型的な中年太りの体型と豊かな表情を生かしたコミカルな演技が評判だったが、スタンダップ・コメディアンとしての彼はかなり硬派。聖書や百科事典、政治思想といった知的権威を徹底的にこきおろすネタを得意としている。

日本のお笑い芸人に例えると……
知的に世相を斬る爆笑問題

The Bible says, "In the beginning God created the heavens and the earth". Well, it doesn't go into the detail.
聖書には「神は初めに天と地を創造した」と書いてあるけど、詳細が足りないね)
Morale of the tale "the boy who cried wolf" is, never tell the same lie twice.
(狼少年の物語から学ぶ教訓とは? 同じ嘘は2度つくなってことさ)

ユーモアの要素その② 外国人

様々な国籍の人々が集う英国、特にロンドンで活動する芸人たちは、ほぼ必ずといっていいほど1つや2つ外国人を嘲笑するネタを持っている。外国語訛りの英語や、奇異な風習などは格好の標的。スタンダップではないが、最近ではユダヤ系英国人コメディアンのサシャ・バロン・コーエンが演じた「ボラト」という奇異なカザフスタン人を主人公にした映画が人気を呼んだことは記憶に新しい。

イランを笑うイラン人
アミード・ジャリリ Omid Djalili
43歳、ロンドン出身、アルスター大学英語・演劇科卒

英国人が持つ外国人に対する偏見を元にしたネタを、ほぼ専門的に扱うコメディアン。イラン人の両親を持つことから自らを笑いの対象とすることが得意で、肥満体型、濃い顔、大きな声を合わせて出来た暑苦しい存在感を売りにしている。「アルカイダ」「テロ」「ホーム・オフィス」といった言葉から連想されるネガティブなイメージを利用しての笑いを十八番にしている。

日本のお笑い芸人に例えると……
外国人ネタを扱うという点ではパックンマックン

I'm from Iran. It usually gets laugh here.
(私はイラン人です。えっと、普通は英国人の皆さんはここで笑ってくれるんだけどな)
Thanks, keep the laughter coming, it's helping my application to go through.
(いやもっと笑ってくれよ。コメディアンとして働くための労働許可証が下りるかどうかがかかっているんだから)

ユーモアの要素その③ フェミニズム

強情な妻、わがままで自己主張の強い彼女など、「強い女」はブリティッシュ・ユーモアの頻出テーマ。話し手が女性である場合は愚かな男性の行為をねちねちとあげつらい、また男性コメディアンの中には強き女性にまつわる愚痴や鬱積を延々と語ることだけを生業とする者もいる。どちらにしても異なる性別への憎しみを基にした笑いのため、ブラック・ユーモアの体裁を取ることが多い。

秀才コメディアン
ジミー・カー Jimmy Carr
35歳、リムリック出身、ケンブリッジ大学社会政治学科卒

アイルランド生まれのコメディアン。かつては石油会社大手の「シェル」でマーケティング・エクゼキュティブとして働いていたが、リストラにあったためにお笑い芸人になった。とぼけた顔とうつむき加減の上目遣いでシュールな雰囲気を醸し出しながら、短く過激なジョークを1つずつ連ねていくパフォーマンスで人気を集めている。

日本のお笑い芸人に例えると……
挙動不審なふかわりょう

I'm a modern man. I've got no problem buying tampons.. But apparently, they're not a proper present.
(僕は女性に対して非常に理解のある現代的な男性なんだ。彼女のために生理用品を買うのだって厭わない。でも、どうやらプレゼントとしては相応しくなかったようなんだ)
My girlfriend asked me "would you love me if I were crippled?"
I said "yeah, I'd prefer it".

(「私がもし障害を背負って生まれてきたとしても、それでも愛してくれる?」と彼女に聞かれたんだ。だから僕は「うん、その方がいいかも」って答えといた)

ノロノロ話すコメディエンヌ
ジョー・ブランド Jo Brand
49歳、ヘイスティングス出身

前職は精神科の看護婦という特異なキャリアを持つ女性芸人。ステージ上では早口でまくしたてるコメディアンが多い中、彼女の膨れっ面、退屈気でのってりとした口調は際立っている。英国コメディー界随一のおばさんキャラであり、下積み時代には伝説的な海の生物を意味する「シー・モンスター」という芸名が付けられていたほどの個性が光る。

日本のお笑い芸人に例えると……
重鎮の存在感を持つ内海桂子

I put my husband in a small plastic bag, and put them out for charity, with a little note saying "not particularly useful, but you can have it if you want to".
(どなたかに寄付しようと思って、うちの旦那をゴミ袋に入れて道路に出しておいたんです。「大したものではないですが、良かったらどうぞ」と書いた手紙を添えてね)
I have a husband. I'm happily married. He's not, unfortunately.
(私には主人がいます。とても幸せに暮らしています。残念ながら、主人はそうは思っていないみたいですけど)

ユーモアの要素その④ 犯罪・暴力

含みある間接的な表現がより生かされるブラック・ユーモアは、英国のスタンダップ・コメディアンたちにとっての腕の見せ所。殺人や強盗といった残酷な犯罪、さらには家庭内暴力などといった暗く深刻な話題を扱ったジョークは観客の反応も真っ二つに別れることが多いので、挑戦しがいがあるようだ。どんな話題も見事に笑いのネタにしてしまうから、スタンダップ・コメディーっておもしろい。

鋭い眼光からジョークを放つ
ジャック・ディー Jack Dee
44歳、ロンドン出身

ジャック・ディー眉間に皺を寄せて鋭い目つきで観客を睨みつけながら低い声で話す様は、お笑い芸人というよりやくざそのもの。アドリブに滅法強く、ステージ終了後のアンコールで観客からの意見や感想に1つずつ答えていくパフォーマンスが好評を得ている。渋く険しい顔と温かなファン・サービスとのギャップがおかしい、英コメディー界の大ベテラン。

日本のお笑い芸人に例えると…… 
苦虫をかみつぶしたような顔が似ている松本人志

I hate people who think it's clever to take drugs……like custom officers.
(薬物を扱うことに生甲斐を求める人間が嫌いなんだ。特に税関職員とかな)
You cannot smack children. It's wrong, ineffective, cruel, it's just bloody satisfying.
(子供に対する体罰はよくない。間違っているし、効果もないし、残酷だから。そして何よりも叩いた時の爽快感が気持ちいいしな)

美しき太ったコメディアン
ピーター・ケイ Peter Kay
34歳、ランカシャー出身

ピーター・ケイ音楽に合わせながら巨体を動かして笑いを取るのを得意としており、2005年には"Is This the Way to Amerillo"というシングル曲を販売して大ヒットを記録した。しかし彼が真価を発揮するのは、過激なブラック・ジョーク。どんな残酷な発言も、北部訛りと満面の笑みが醸し出す「良い人キャラ」がまろやかな笑いに仕立て上げる。

日本のお笑い芸人に例えると……
太った笑顔が美しいホンジャマカ石塚英彦

I saw six men kicking and punching my mother-in-law. My neighbor said "are you going to help?" I said "no, six should be enough".
(俺の義理の母をボコボコにしている6人の輩を見たんだ。近所の人が「助けなくていいのか」って聞いてきたから、「いやあ、6人で十分だろ」って答えてやった)
My mom was a ventriloquist. For ten years I thought the dog was telling me to kill my father.
(うちの母は腹話術師だったんだよ。それを知るまでの十数年は、うちの犬が父を殺せって言っているんだと思っていた)

ユーモアの要素その⑤ 下ネタ

大きな声であからさまに話すと英国の紳士淑女には顔をしかめられてしまうが、されど笑いのネタとしてはどうしても外せないのが下ネタ。そこで上流階級に対しては、慎ましやかに美しく上品な例えを使ってほのめかすのがセンスあるブリティッシュ・ユーモアの表現ということになった。またそんな建前に対する反動として、欲望を剥き出しにしたようなスタイルも現代では支持を受けている。

婉曲表現の達人
ジュリアン・クラリー Julian Clary
48歳、ミドルセックス出身、ゴールドスミス大学英語・演劇科卒

ゲイであることを売り物にするコメディアン。厚化粧とゴージャスな衣装に身を包んで話すお姉言葉が武器。ネタは様々なものを扱うが、結局は「性」のことをほのめかしてばかりの、下ネタを婉曲的に伝えるプロ。隠喩の度合いが強すぎて誰もジョークであることさえ気付かない場合もある、外国人が理解に苦しむブリティッシュ・コメディアンの代表。

日本のお笑い芸人に例えると……
図太いお姉キャラという点では美川憲一か

I live in a gay house, I drive a gay car. I eat gay food.
(私はゲイの家に住んで、ゲイの車を運転して、そしてゲイが食べるものを食べます)
I'm currently having an interesting correspondence with a nun about forgiveness.
(私は今、修道女と「許しとは何か」について手紙を交換している最中なのです)

ぜい肉と欲望の塊
ジョニー・ベガス Johnny Vegas
35歳、ランカシャー出身

いつでもどこでもギネス・ビールばかりを飲んでいる酔っ払いコメディアン。若き頃は牧師になるため神学校に通ったり、陶器の製作では超一流の腕を持つなどの横顔を持つが、ステージ上ではいつも千鳥足。タバコの吸い過ぎ、酒の飲み過ぎですっかりしゃがれた声を振り絞るように、俗物さを前面に出した粗野で下品な発言で観客を煙に巻く。

日本のお笑い芸人に例えると……
発言が意味不明瞭な立川談志

I wanted to be a priest, but when they told me I could never have sex, not even on my birthday, I changed my mind.
(俺はその昔牧師になりたかったんだ。ただ年に1回の誕生日さえセックスできないと知った時に、気が変わった)
It is easy for me to love myself, but for ladies to do it is another question altogether.
(俺は自分のことを愛しているが、女性陣が俺のこと愛するかどうか、ていうのはまた別の話だな)

ユーモアの要素その⑥

普段は気にも止めない些細な日常風景を独特の鋭い観察眼で切り取り、笑いのネタにしてしまうコメディアンたちがいる。彼らのスタイルは「Observational Comedy」と呼ばれ、誰もが一度は経験したことのある出来事に大胆な脚色を加えるのが特徴。英国に限らず、世界各国で見られる普遍的なテーマであるが故に、外国人に最も受け入れられやすいユーモアでもある。

英国コメディーの金字塔
リー・エバンス Lee Evans
43歳、ブリストル出身

Lee Evans自ら「モンキー・ボーイ」と呼ぶほどのサル顔と、奇怪で激しい動き、そして次々と繰り出す奇想天外な発言を生かした変態キャラで聴衆を魅惑する、英国では異色のスタイルを持つコメディアン。日常の些細な出来事を大袈裟なホラ話に変えるのが得意で、ステージ上ではいつも全力投球。汗でびしょびしょのスーツ姿がトレード・マークになっている。

日本のお笑い芸人に例えると……
大ボラ吹きの明石家さんま

'I actually spent four days in my hotel room because I closed the door and there was a sign on the door saying 'Do Not Disturb'.
(ホテルの部屋に入って振り返ると、「Do Not Disturb」と書いた表札があったんだ。だからずっと外に出られなくて、部屋の中に4日間もひそんでいたことがあったのさ)
I was very superstitious when I was a kid, I never walked on the crack of the pavement. It took two weeks to get to the school because it was crazy paving.
「小さい頃は路面の継ぎ目を踏むのが嫌で、避けて通っていたんだ。でも継ぎ目だらけの道だったから、学校に行くのに2週間もかかってしまった」

市井のスタンダップ・コメディアン
インキー・ジョーンズさんに聞く

プロフィール: 27歳、マンチェスター出身、ギルドフォード・スクール・オブ・アクティング卒。TVドラマ、劇場などでの仕事を経て、2002年よりスタンダップ・コメディアンに。現在ではロンドンのレスター・スクエア駅近くに位置するコメディー・クラブでのパフォーマンスを中心に活動を行っている。

─スタンダップ・コメディーの一番の魅力は何でしょうか。
自分で考えたジョークをその場で観客に披露できることでしょう。テレビとかラジオの番組は、台本作りやらプロデューサーのチェックやらで時間がかかって、かなり面倒くさいんです。さらには観客の反応がその場で返ってくることも魅力ですね。お客はお情けでは笑ってくれません。つまり成功か失敗かのどちらかしかあり得ないわけです。相当エキサイティングな経験ですよ。

─日本のお笑いについてはご存知ですか。
この前「がーまるちょば」というコメディアンのショーを見ました。周りの英国人でも彼らのことをおもしろい、って言っている人はいっぱいいますよ。

─私たち日本人が英国人を笑わすのにはどうしたらいいでしょうか。
あなたが日本人であれば、ブリテッシュ・ユーモアを学ぼうとするより日本人ならではのジョークが喜ばれると思います。概して他人を笑い者にするより、自分の欠点や自国に向けられた偏見をネタにした方が受けはいいですからね。

─例えばどんなジョークでしょうか。
そうですね。"Did you know 'Karaoke' is the Japanese word for a drunk woman with a microphone who is tone deaf"?(「カラオケ」を日本語に訳すと、マイクを持った音痴で酔っ払いの女性、という意味だということを知っていましたか)とかどうですか。


 
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