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ロンドンのゲストハウス
Wed, 17 July 2019

ライフスタイルをデザインする男の哲学とは?
サー・テレンス・コンラン

「ライフスタイルをデザインする」。これがいまや世界を代表するデザイナーとして名を轟かす、サー・テレンス・コンランの人生スタイルだ。家具・キッチン用品・インテリアのデザイン、建築にレストラン事業……。ともすれば節操がないとも思われがちな彼の広義な活動の根底にはしかし、常にこのスタイルを支える独自のデザイン哲学が生きている。今回は、テレンス・コンランの各分野における活躍を、その底流にある哲学を通して追ってみたい。

(本誌編集部: 村上祥子)

デザインに必要なのは「常識」!?
サー・テレンス・コンランの哲学

サー・テレンス・コンラン。日本でも人気のインテリア・ショップ、「The Conran Shop」の創業者にして、モダン・ブリティッシュ料理の流れを生み出した先駆者の一人。彼は数年前、日本のとあるメディアに、こう語ったという。「デザインとは98%が常識、2%が審美的な要素」。唯一無二の芸術作品をつくり出す、そんなアート性とは対極の位置にいるデザイナー、それがコンランだ。デザイン、建築、レストラン事業など、さまざまな分野に進出し、鮮やかなイメージ戦略で話題を呼ぶ事業家としての彼と、頑ななまでにベーシックを守り続けるデザイナーとしての彼。そのすべてを支えるのは、「ライフスタイルのデザイン」というスタイルであり、「常識」を大切にする心である。衣食住という、日常生活すべての質の向上を目指す彼にとって、あらゆる分野に進出する心は、デザインとはあらゆる分野に介在すべき存在だと信じているから故であり、ベーシックを貫くその心とは、日常生活を快適に過ごす上で何より必要なのは、装飾的な美しさよりも、時代を超えて万民に受け入れられるシンプルさであると考えたからではないだろうか。

コンランは1964年、インテリア・ショップ「Habitat」をオープンさせた時にこう言った。「(Habitatは)新しい外見、新しいアイデアで常に変わり続けるためにデザインされた。しかしすべての核となるのは、クラシックなキッチン用品と家具なのだ」。そして、現在。「コンラン・スタイル」とも呼ばれる彼のコンセプトは、「モダン・クラシックと、世界中から着想を得た、新しく、興味深いプロダクトの融合」である。「常識」に、ほんの少しプラスされた個性がつくり出す、最大公約数の上質デザイン。これこそ、コンランを50年もの長きにわたり、英国デザイン界の第一人者足らしめる秘訣なのだろう。

サー・テレンス・コンランの歩み

1931年 イングランド南東部、サリー州イーシャーに生まれる
1952年 「Conran & Company」設立。家具製作や照明デザインなどを手掛ける
1956年 「Conran Design Group」設立。事業規模を拡大
1964年 インテリア・ショップ「Habitat」をオープン。数年のうちに5店舗まで拡張(1990年に売却)
1973年 セレクト・ショップ「The Conran Shop」をオープン
1983年 デザイン産業における啓蒙活動を目的とした「The Conran Foundation」を設立
1990年 The Conran Foundationが「Design Museum」をオープン
1990年 「Mothercare」「BhS」(現Bhs)、Habitatなどを束ねる「Storehouse」グループの会長職を辞任
2000年 ロンドン東部に「Great Eastern Hotel」を開業

現在のコンラン・グループ www.conran.com

Conran Holdings
コンラン・グループの親会社。Conran Limited、Conran & Partners、The Conran Shop、D & D Londonから成る
The Conran Shop
コンラン・デザインの商品と、世界中からセレクトした家具や家庭用 品を扱うショップ。1973年、ロンドン西部フラム・ロードにオープン。その後87年に現在のミシュラン・ハウスに移転する。現在ではロンドン、パリ、ニューヨーク、東京、福岡、名古屋に店舗を持つ 
Conran & Partners
建築や、インテリア/グラフィック/プロダクト・デザインを手掛ける
Conran Limited
家具や本、家庭用品などのコンラン・コレクションのライセンス関係を扱う
D & D London
世界5カ国に点在するコンラン系レストランをまとめる

2008年5月14日時点

コンランと日本の密接な関係

六本木ヒルズ(クラブ)六本木ヒルズ(クラブ)
六本木ヒルズ(レジデンス)
六本木ヒルズ(レジデンス)
The Conran Shop名古屋店
The Conran Shop名古屋店
The Conran Shopと言えば、日本でも誰もが知っている人気ショップ。近年では銀座や六本木にレストランをオープンするなど、日本におけるコンラン人気はとどまるところを知らない。そんなコンランと日本の関係が、ショップやレストラン以外にもあることは、あまり知られていないのではないだろうか。

六本木ヒルズ。2003年に開業したこの複合施設の一部の建築・デザインを、「Conran & Partners」が請け負った。担当したのは住居部分や会員制クラブ。くつろぎが何よりも大切とされる空間のデザインだ。

そして昨年、ロンドンのオックスフォード・ストリートに旗艦店をオープンさせ、注目を集めた「UNIQLO」。本ブランドの2001年英国進出第一号となったショップ数店のデザインを手掛けたのも、実はコンランだったのだ。壁一面にクロム・ワイヤーを張り巡らせ、商品を自在にディスプレイできるようにするなど、余分なデザインを排除した中にも独自の工夫が光る内装は、コンランのデザイン哲学とともに、「シンプル」「高品質」「低価格」というUNIQLOのブランド・イメージをも体現し ていると言えよう。

食の総合空間を演出
Restaurant レストラン

クアグリーノス

Qの文字をモチーフにした階段を下りると、目の前に広がるシックな大空間。新鮮な魚介類をふんだんに 使った料理とともにインテリアも人気の「Quaglino’s」

デザイン・ミュージアム

The Conran Foundationにより設 立されたデザイン・ミュージアム内部には、やはりコンランの手による「Blueprint Café」が併設。見た目も美しいモダン・ブリティッシュ料理を楽しめる(©visitlondonimages/ britainonview)

「高くてまずい」。そんな英国料理の概念を覆したのがモダン・ブリティッシュ料理だ。伝統的な英国料理のレシピに、フレンチや地中海など、世界各国の料理のエッセンスを取り入れ、新鮮な旬の食材を使うという斬新なアイデア。この概念を広く英国に浸透させた先駆者の一人が、テレンス・コンランである。そしてもう一点、レストラン業界における彼の足跡を見て感じるのが、味の追求だけでなく、食を楽しむ人々が心地良く時を過ごせるための、総合空間の演出の上手さ。デザイナーとしての本領が、ここでも発揮されている。

コンランが料理に魅せられたのは1953年、初めてパリを訪れた時のこと。そこで彼は、優れた料理や日常生活品が、いわゆる「普通の人たち」の手に届く存在であることに感動する。そしてもう一つ、彼の心を掴んだのが、ディスプレイの素晴らしさだった。パリで食事とデザインの融合という、その後のレストラン哲学のベースとなる概念を身に付けたコンランは、帰国後、ロンドン中心部に 「Soup Kitchen」というスープ専門店をオープン、話題を呼んだ。

その後、順調にデザイン業界で成功を収めていったコンランは、1990年代に入り、再びレストランに力を入れる。レストランやバー、食料品店など、食品関連のショップを融合させた「ガストロドローム」の概念を提唱。1991年には食の総合空間、「Le Pont de la Tour」を、自身が再開発を手掛けたロンドン東部の元倉庫群、バトラーズ・ワーフにオープンさせる。

この時期、コンランは「Mezzo」や「Quaglino’s」など、ロンドン中に次々とレストランを開店。レストランになる建物と地域色を考慮し、それぞれの店舗のカラーを変えるなど、デザイナーらしさを生かしつつ、現在ではパリ、東京、ニューヨークなど世界各地に事業を拡大している。

歴史的な街、ロンドンに映えるデザイン
Architecture & Interior Design 建築 / インテリア・デザイン

ミシュラン・ハウス

ロンドン西部にあるミシュラン・ハウス。1911年に建てられた歴史的建造物の一角には、現代的なガラス張りの「The Conran Shop」が。2階にはコンラン系レストランのランドマーク的存在である 「Bibendum」もある

Great Eastern Hotel

100年以上もの歴史を持つ、古い駅ホテルを改装した「Great Eastern Hotel」。建物内部を彩るのは、外観からは想像もつかないシンプルモダンな内装

無駄を省いたシャープでモダンなデザインに、色と素材の質を追求したインテリア。人々の生活のベースとなる建築/インテリア・デザイン分野では、コンランのデザイン哲学における「ベーシック」な部分が特に強調されている。そんな「ベーシック」な部分が、逆に独特の趣を醸し出しているのが、昔ながらの建築物が大切に維持されているロンドンにおけるコンラン作品の数々だ。

歴史的建造物の保存に熱心なロンドン。この地では、建築家にとっては枷とも言える、さまざまな景観基準が設けられている。しかしコンランは古い街並みや建築物を生かし、その上で迎合することなく独自のモダン・クラシック様式を取り入れることで、新しい空間を創造。それは新旧の融合、というよりはむしろ、新旧のそれぞれが主張し、その対比が一つの世界をつくり出しているかのようだ。

日の光の当たらない倉庫群だった、ロンドン東部のテムズ河沿いにある地域、シャッド・テムズ。その一角に位置するバトラーズ・ワーフに、コンランは前述の「Le Pont de la Tour」や「Butler's Wharf Chop House」など、数々のレストランを入れた。古いレンガ造りの建物の内部には、河に向かって開放された、広々とした現代的なレストラン。独特の空間が、この古びた地域を明るく、刺激的なエリアへと変貌させた。

そのほか、彼が改装を手掛けたロンドン東部、リバプール・ストリート駅に隣接するデザイナーズ・ホテル「Great Eastern Hotel」(2007年よりThe Hyatt Groupが所有。現ANdAZホテル)は、100年以上もの歴史を持つビクトリア朝時代の建物の外観と一部の内装をそのままに、ミニマリズムが貫かれたシンプルなプロダクトを配置するという、コンラン・デザインの真骨頂とも言える建築物となっている。

生活空間へのこだわりをディテールに
Product Design プロダクト・デザイン

YOTEL とフルーツスタンド

左写真)カラフルな色彩と、シンプルながらユニークなフォルムがかわいらしいフルーツ・スタンド(17.50ポンド)
右写真)狭さを感じさせない、すっきりとした内装のYOTEL

日産とコンランのコラボ

日産とコンランのコラボレーション「+CONRAN」。「MARCH+CONRAN」では、細部のデザインがキュートな、上質な革張りのソファが話題を呼んだ(©NMGB)

The Conran Shopで販売される、機能性とデザイン性が同居した家具やキッチン用品、シンプルながら、色彩やディテールに遊び心のあるギフト用品はもちろんのこと、クライアントから委託されたプロジェクトの数々にも、コンラン哲学は生きている。

Conran & Partnersは2003~6年にかけて、日本を代表する自動車メーカー、日産と「+CONRAN」プロジェクトを企画。日産の人気車、キューブ、マーチ、ラフェスタ各種のインテリア・デザインをコンラン側が担当し、期間限定車を販売した。外観とソファのコントラストを際立たせた色味、重厚な質感を感じさせる本皮ソファなど、コンランならではの生活空間へのこだわりが生かされたデザインが大人気となった。

そしてもう一つ、興味深いのが「YO! Company」との密接な関係。ロンドン中に店舗を持つ回転寿司チェーン「YO! Sushi」、そして2007年、日本のカプセル・ホテルから着想を得た格安ホテルをオープンさせ注目された「YOTEL」、高級感漂うコンランのイメージとは少し異なるようにも思えるが、彼はこのどちらのプロダクト・デザインにも関わっている。

日本の伝統的な寿司、という概念からは外れた、無国籍な雰囲気の漂うYO! Sushiの店内。その中で一際目立つ、色とりどりな食器とカバー、これこそがコンランのデザインによるもの。何でも色だけでなく、料理の温度を保てるよう、工夫されているのだとか。そしてスペースの小さい格安ホテルながら、飛行機のビジネス・クラスをイメージしたというYOTELのコンセプトを実現させたプロダクト・デザインでは、小さな空間の活用法に関する本も出版しているコンランならではのセンスが光っている。

デザイナーならではのビジネス戦略とは
Business ビジネス

NEXTとHabitat

左写真)ロンドン中、至るところにある「NEXT」ショップ。このブランドを立ち上げたのもコンランだ
右写真)「Habitat」ではいまもなお、「シンプル」「機能的」「手頃価格」という、コンランのコンセプトが生きている

デザイナーとしてだけでなく、一流の実業家としても成功しているコンラン。ここでは、彼のビジネスに焦点を当ててみよう。

ロンドンのみならず、世界に点在するインテリア・ショップ「Habitat」。1964年、ロンドンのフラム・ロードに1号店を立ち上げたコンランは、スタッフのユニフォーム・デザインをマリー・クワントに、ヘア・カットをヴィダル・サスーンに依頼するというトータルのブランドづくりで成功を収める。

コンランにとって80年代は、買収・合併による小売事業拡大の時代となった。81年にはコンランが会長を務めていた紳士服メーカー、「J Hepworth & Son」が婦人服チェーンの「Kendall & Sons」を買収、総合服飾メーカーの「NEXT」をつくり上げる。82年には子供用品大手、「Mothercare」を買収、続く86年には「British Homes Stores」デパートを吸収し、そのすべてを束ねた「Storehouse」グループを立ち上げ、会長職に就いた(90年、辞任)。

コンランはこの拡張ラッシュの最中、Mothercareのパッケージ・デザインやタイポグラフィを刷新、まずはイメージ先行の改革を行った後に、赤ちゃんが親の方を向くよう工夫されたベビーカーをつくるなど、プロダクト・デザイン部分の改善に着手するという、デザイナーならではのビジネス戦略を編み出した。

歩みを止めることなく快進撃を続けるコンラン・グループ。そんな彼らが今月15日、グループ内の再編成プランを発表した。プロダクト・グラフィックス・ブランディング部門を統括する「Studio Conran」を設立。The Conran Shopやレストラン、カフェなどが集まった総合施設をロンドン東部のショーディッチに建設予定だという。50年間にわたり、デザイン業界を賑わし続けたコンラン。これからの彼の歩みにも、目が離せない。

 
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