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Sun, 06 October 2024
三澤茂計甲州ワインを生産する「グレイスワイン」社長
三澤茂計さん

[ 後編 ] 「世界に通用する甲州ワインを造りたい」。その思いを胸に、品質を鍛え上げ、ほかの醸造所と連携して海外展開に乗り出した三澤さん。だが甲州ワインは、ほんの10年前まで「海外で評価されるレベルではなかった」と言う。ブドウの栽培方法を変え、欧州の規制条件を乗り越え、国際市場へと参入するまでの歩みを振り返る。全2回の後編。
プロフィール
みさわしげかず - 1948年9月14日生まれ、山梨県甲州市出身。甲州ワインのブランドの一つである「グレイスワイン」を展開する中央葡萄酒株式会社代表取締役社長。仏海軍への納入などの実績を残してきた同社の4代目として様々な改革に着手。83年には国内初となる原産地認証ワインの醸造を開始。2009年に甲州ワインの海外展開を目的とする自主的団体である甲州オブジャパン(KOJ)を設立。14年6月にロンドンで開催された「デキャンタ・ワールド・ワイン・アワード」では、同社の「キュヴェ三澤 明野甲州2013」が日本初となる金賞と、15ポンド以上のアジア地域カテゴリーで最高賞となるリージョナル・トロフィーを受賞した。
www.grace-wine.com

 

甲州ワインが生まれ変わるまで

「言葉は悪いですが、かつての甲州ワインには『おらが村のワイン』といったような側面もあったと思うのです」。今年6月にロンドンで開催された世界的なワイン大会でアワードを受賞した中央葡萄酒の三澤社長が言うように、甲州ワインが「地域特産のワイン」から「世界市場で流通するワイン」へと変化するまでには長い道のりがあった。まずは醸造方法をめぐる試行錯誤。一例を挙げれば、ワインを発酵する過程で生まれる酵母の澱(おり)をあえて取り除かず、ワインと接触させ続けることでうまみを引き出すというシュール・リー製法の導入だ。ワインの名産地であるフランスのロワール地方に伝わるというこの製法を甲州ワインに適用するまでには様々な苦労が伴ったが、そのノウハウを甲州ワインの各醸造所が互いに共有し合ったというところに、生産者たちが一体となった「世界で通用するワイン」造りに向けての心意気を感じる。

甲州ワインと富士山
甲州ワインには、山梨県甲州市で栽培されている 固有種の甲州ブドウが使用されている

またブドウの栽培方法も変えた。中央葡萄酒では1992年から「垣根仕立て」を開始。それまでは、高い位置に木や竹を組んで、そこにブドウのつるや枝などをからませて育てる「棚仕立て」だった。一方の垣根仕立ては、棚を設けず、地面から垂直に枝を伸ばして育てる。「甲州という品種は非常に伸びやすい。よく伸びてしまうと、花や実に栄養が行き渡らない。葉が何枚も重なってしまうと、一番上の葉しか光合成ができない場合もあるわけです。ところが垣根仕立てだと、すべての葉が光合成できる可能性がありますから」。さらにはワインについての研究で名高いボルドー大学教授の指導も仰いだ。世界市場で戦うために、世界の第一線に散らばる知識を貪欲に吸収していったわけだ。こうした過程を通じて、現在の甲州ワインの特徴である、繊細で凛とした、突き抜けるような味わいがより際立つようになった。やがて、その独特の味わいと和食との相性の良さが注目されるようになる。小皿料理が次々と出てくる和食には、一つひとつの味をリセットするようなキレのある甲州ワインがよく合う。しかも鉄分の含有量が少ない甲州ワインは、生魚のお供にしても生臭さを発することがない。折しも今、世界では和食ブーム。伸びしろは大きい。

海外拠点をロンドンに定めた理由

品質に対する確信を得た後は、その品質の良さを広く伝えることが課題となる。志を同じくする甲州ワインの生産者たちとともに設立した甲州オブジャパン(KOJ)では、海外進出の拠点をロンドンに定めた。ロンドンは、世界中のワインに関する情報が集まる、言わばワイン情報の発信地。英国内にはフランスのボルドーやスペインのラ・リオハに匹敵するワインの名産地がない分、各地から情報を取り寄せるノウハウは高度に発達している。  欧州連合加盟国に輸出する上で重要となるフランス・パリの国際ブドウ・ワイン機構への甲州ブドウの品種登録を済ませたのが2010年。ロンドンで試飲会を開催したり、世界的に有名なワインのコンサルタントを日本へ招待したりするうちに、見識者たちが英各紙のワイン批評欄や専門誌で甲州ワインを取り上げるようになった。そして、今回のアワード受賞。

セルフリッジズの店内に陳列された甲州ワインのボトル
ロンドンの大型デパート、セルフリッジズの店内に 陳列された甲州ワインのボトル

「誠実に造らなければいけない。説明することも大事だけど、やはり造る姿勢そのものが誠実でないと。この日本人として誇れる姿勢を通して、甲州ワインを世界に広めたい」。三澤社長は、毎日ワインを1本空けるという。「どれだけ飲んでいるかがばれると本当はあんまりよくないんだけどね」と照れながら、ほろ酔いで描く夢。その思いは、来年もきっと、また実をつける。

 

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