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Tue, 19 March 2024
ヤクルトUK 社長 松原弘泰さん ヤクルトUK 社長
松原弘泰さん

[ 前編 ] 日本人ならば誰しもがその効用を知り、味を知る乳酸菌飲料ヤクルト。長く老若男女に親しまれ続けるこの飲み物が、初めて英国にその姿を現したとき、人々から寄せられた言葉は思いもかけないものだった。ヤクルトが英国の人々の生活になじむまでの道のりをたどる全2回の前編。


プロフィール
まつばらひろやす - 1959年4月5日生まれ。長野県出身。青山学院大学経営学部卒業後、日系証券会社へ入社。国内支店勤務の後、89年から95年までロンドンの現地法人で勤務。95年にヤクルトUK入社。2001年に同社取締役、03年に同社社長就任。英国及びアイルランドでの販売活動とおなかの健康についての啓蒙活動を行う。ヤクルト社は現在、世界33カ国で販売を展開。欧州においてはオランダにあるヨーロッパヤクルト株式会社が有する工場で商品を製造、各販売株式会社へ輸送している。
www.yakult.co.uk
 

1分1秒億単位から、1本数十ペンスの世界へ

子供の片手に難なく収まる大きさに、ちょっとくびれた独特のフォルム、そしてオレンジがかったクリーム色の液体――日本で生まれ育っていれば、誰にとってもなじみのある存在、それがヤクルトだ。学校給食で、自宅で、そしてコンビニで、とにかく日本で暮らす人々の生活の様々な場面に登場するヤクルトを、英国のスーパーでも見かけるようになって久しい。在英邦人としては思わず郷愁にかられてしまうこの飲料、英国人にはどのように映っているのだろうか。

「小さすぎる、色が気持ち悪い、薬っぽいイメージがある、と販売当初は散々な評判でした(笑)。とにかく飲んでいただくために、英国での販売を始めて最初の1、2年は試飲だけで過ぎた印象です」と語るのは、ヤクルトUK社長の松原さん。ロンドンの金融街シティで証券会社の社員として働いた後、1995年のヤクルトUK立ち上げに合わせて転職したという異色の経歴の持ち主だ。「それまでは株を売って、今は乳酸菌シロタ株を売る。一生カブを売るって冗談を言っているんですけれども」と笑うが、新しい職場環境に慣れるまでにはさぞや時間がかかったのではないだろうか。「ともに業務内容はバックオフィスだったので共通点はありましたが、1分1秒で億単位のお金が動く世界から、ヤクルトを1本売って何十ペンスという世界へ。考え方を変えるのに2、3年はかかりましたね」。

2014年に行われた「アンチ・エイジング・ショー」にて
2014年に行われた「アンチ・エイジング・ショー」にて

「バクテリア」を売る商売

2003年、同社の社長職に就任。英国に滞在するようになって、今では合計25年が経過した。かなり長い期間をこの地で過ごしていることになるが、ヤクルト社では駐在員でも10年を超えるような長期間を派遣先で過ごすことがあるという。「日本人がいない場所でも商品を売って歩くものですから、どうやって現地化するかという点が鍵。現場まで入っていって現地のスタッフとコミュニケーションを取りますので、英語圏以外の国ですと、言葉を覚えるのに1年、現地の知識を得るのに1年、3年目からようやく仕事をする形になってきますね」。現在、ヤクルトUKの社員は約20人で、うち日本人は松原さんを含めわずか3人。英国の文化風習に合わせ、マーケティングもPRもすべてこちらの人材を使うというから、いかに現地化に力を入れているかがうかがえる。

ヤクルトUK
昨春、オフィス移転時のハウス・ウォーミング・パーティー

その一方で、「オリジナル」にこだわる部分もある。それが味であり、パッケージであり、シロタ株に対する姿勢だ。英国では1996年3月に商品販売を開始した。現在、販売されているのはヤクルトとヤクルトライトの2種類。ライトは海外独自の商品だが、ヤクルトのレシピは若干の違いこそあれ日本とほぼ同じだという。そして創業者の代田稔(しろたみのる)博士が発見し、ヤクルトが誕生するきっかけとなった乳酸菌シロタ株への思い。「最初から『バクテリア』という表現をストレートに使ったのですが、広告代理店からは英国人はバクテリアという言葉でネガティブな印象を持つからやめた方がいいと言われました。でもうちとしてはバクテリアを売っている会社なので、それで通しています」。

子供も高齢者も飲み干せる大きさをという配慮で作られた小さめの容器、「乳製品なのに白じゃない」摩訶不思議な色。英国の人々にはネガティブに受け止められたそれらを維持しつつ、ハードルを一つひとつクリアしていくことからヤクルトの認知度向上を目指す道は始まった。

 
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