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Fri, 29 March 2024

第51回 簡単に流せない、水洗トイレの歴史

皆さんは「モンキー・クローゼット」や「ジョン」がトイレを意味することをご存知でしょうか。地上では頑強な鉄柵に守られ、地下では優雅なタイルに囲まれた安らぎの世界。そう、ここならもう安心、万人を救う地下の公衆トイレです。前者は1851年、ロンドン万国博覧会の水晶宮に配管工のジョージ・ジェニングスが設置した1ペニー(現在の価値で約£3)の豪華トイレが発祥。彼はこれを「モンキー・クローゼット」と名付けました。

モニュメント駅北側の「モンキー・クローゼット」
モニュメント駅北側の「モンキー・クローゼット」

ジョージはその後、シティのパブ「オールド・ベル」や旧王立取引所に水洗トイレの設置を試みますが大失敗。当時はまだ下水道がなく、維持費用がけた外れでした。そもそも英国初の水洗トイレは1596年、宮廷詩人ジョン・ハリントンが自らの荘園に設置したものとされ、「ジョン」と呼ばれる由縁になります。彼はリッチモンド宮殿の屋上から落水する水洗トイレをエリザベス1世に献上しました。ところがトイレの比喩を使った著作が女王の逆鱗に触れ、宮廷から流されてしまいます。

英国水洗トイレの発明者、ジョン・ハリントンは宮廷詩人
英国水洗トイレの発明者、ジョン・ハリントンは宮廷詩人

世の中を大きく変えた産業革命。ロンドンの大気や水が酷く汚染され、19世紀の中ごろからコレラが猛威を振るいます。国を挙げての衛生改革や下水道整備が始まりました。当時、炻器を作っていたドルトン社が衛生陶器や排水設備を製品化して成功。さらに19世紀後半には水道工トマス・クラッパーが浮き球式の止水栓やチェーン式落水方式のトイレを開発します。その後、今とほぼ同型の水洗トイレが誕生し、一般家庭に普及しました。

クラッパーの水洗トイレ製造会社名から「クラップ」という言葉が普及
クラッパーの水洗トイレ製造会社名から「クラップ」という言葉が普及

水洗トイレが普及すると公衆トイレの需要も増え、1880年代に旧王立取引所の向かいやモニュメント駅の北側に地下トイレが作られました。改善を経たジェニングスのトイレは鉄道駅や海外にも広まり、俗語「スペンド・ア・ペニー」=「トイレに行く」の表現も、万博以来、再び耳目を集めるようになりました。最近の地価上昇の折、地下の古い公衆トイレをブティックやカフェに変えるところも出てきています。まさにこの世は万物流転。

地下公衆トイレ
最近、地下公衆トイレがカフェやブティックに変わっている

最後にトイレを意味する単語「Loo」の語源。一説によれば、中世の英国でゴミ捨て禁止条例が出されても夜間に「Gardyloo!」(仏語「Gardez l’eau!(水に注意!))と叫んでポットに溜めた汚物を捨てる輩が絶えず、Looがトイレを意味するようになったようです。シティにある中世の石畳ではそんな声が聞こえてきそうで、つい走って逃げ去ります。

「Loo!」と上から聞こえてきそうな坂道の中央には排水溝
「Loo!」と上から聞こえてきそうな坂道の中央には排水溝

 
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シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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