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クジラを食べるな特集総括

本誌特集5月17日発行の本誌では、『「クジラを食べるな」その理由』と題した特集記事を掲載。捕鯨賛成派の日本を非難する英国の各環境団体へのインタビューを敢行したところ、読者の皆様からは記事内容に対する抗議を含めた大きな反響が編集部に寄せられた。中でも「日本政府の立場である捕鯨賛成派の意見も紹介するべき」との声が多かったため編集部ではその後、捕鯨を支持する英国の著名人を探すも、英国ではどの分野においても反捕鯨派が支配的であることが判明。取材を進めれば進めるほど、政府間だけではなく市民レベルにおいても認識の相違が顕著であることが明らかになった。今回は、捕鯨賛成派が多数を占めたニュースダイジェスト読者と、英国のいわば「知の権威」と目される2つの博物館に関係する英国人の意見を提示し、改めて捕鯨問題に関する日英の溝に焦点を当てる。 (本誌編集部: 長野雅俊)


在英法人の声

「内容は事実に反することばかり」

5月17日号の捕鯨特集についてですが、ちょっと意見させていただきます。3ページにわたるインタビューの内容は事実に反することばかりです。

まずグリーンピースの「捕鯨再開はクジラを絶滅に追いやる」という主張は、クジラを一括りにすることで議論の対象をぼかしてしまいます。確かにシロナガスクジラは激減していますが、ミンククジラは100年前の10倍にも増えており、増えすぎたクジラがイワシやサンマなどを食い尽くすという事態も起きています。また鯨油だけ採って肉を捨てていたかつての英米の捕鯨ならば乱獲によってクジラが絶滅の危機にさらされることもあるでしょうが、日本のように食用に供する捕鯨では消費量に限りがあります。

次に「国際法に違反しているから」との論拠ですが、国際法に違反しているのは反捕鯨派です。国際捕鯨委員会(IWC)設立の根拠となっている「国際法」は国際捕鯨取締条約ですが、その条文は「捕鯨産業の秩序ある発展」を謳っており、この「国際法」を無視して反捕鯨派が一方的に設置した排他的な保護区に日本が従わなくてはならない必要はありません。さらにこの「国際法」の下で認められた調査捕鯨を、科学的な議論ではなくロビー活動によって妨害しようとするのも、ある意味で「国際法」を蔑ろにしているというべきではないでしょうか。

最後に「捕獲の仕方が残酷だから」とする動物愛護派の意見ですが、これはあくまで人間側の一方的な視点にすぎません。牛や豚は「慎重に管理された方法」で殺しているので問題ないというのは、人間の独りよがりの偽善ではないでしょうか。このような自己基準の押しつけには納得がいきません。

ロンドン在住: 清水健さん(通訳ジャーナリスト)


「捕鯨反対派に反対」

「捕鯨反対派」の主張があまりに不公平、一方的、偽善的であるから「反対派に反対」です。彼らは日本の「ミンククジラ800頭の調査捕鯨」がIWCにおいて賛成過半数を取って民主的に可決されたうえでの「IWC公認捕鯨」なのだ、という事実を隠しています。そもそも、クジラが絶滅寸前の危機に陥ったのは太平洋では米国、北海では英国とノルウェーの乱獲が原因であることは海洋学者の常識です。

1頭で日本の全人口が消費するのと同じくらいの量の魚を食べると言われるクジラが増えすぎれば、魚の量は当然減ります。そうなって得する国の筆頭は、商業捕鯨禁止以来、桁違いに増えてきている日本への牛肉や鶏肉の貿易などで儲ける米国でしょう。また、IWCで日本に味方しているアフリカやカリブ海の小国群が、主要産業であった捕鯨を禁止されてしまったがために、国際通貨基金(IMF)、つまり英米から借金する羽目になっている現状を見れば、捕鯨を禁止して一番利益を得ているのは「捕鯨反対派」の英米などであると分かります。

ロンドン在住: 日本人女性


「キツネ狩りは残酷ではないのか」

王室のキツネ狩りを止められない、闘牛は文化なので牛を剣でじっくり殺す行為は残酷ではないと語っている国々に、残酷であるからという理由で捕鯨禁止とは言って欲しくないです。

(住所、氏名不明)


「英国人と口論になったことも」

ロンドンの美容室で働いているのですが、そこで捕鯨問題やクジラを食べる日本人について実際英国人と口論になった事がありました。捕鯨問題については今まで関心が無かったので、しっかり自分の意見を言う事が出来 ず、今回この記事を読んで勉強が出来ました。

ロンドン在住: 岸田まりこさん(美容師)


*本特集に対してたくさんのお便りをいただき誠にありがとうございました。全て目を通させていただきました。今後とも誌面についてご意見やご感想などございましたら、 までご連絡ください。



デモ隊
IWC総会を前に、商業捕鯨反対を訴え
デモ行進する 環境保護団体のメンバー
対立はより深刻に
2007年度 IWC総会

『「クジラを食べるな」その理由』と題した特集の掲載後となる5月29日から3日間にわたって、国際捕鯨委員会(IWC)総会が開催された。同会において日本を始めとする捕鯨推進派は国内4地域での沿岸捕鯨を含む商業捕鯨の再開を提案したが、英国などの反捕鯨国による非難を浴びるなどして会議は紛糾。日本政府は、会議終了後にIWCを脱退する可能性をも表明した。

 

アレックス・ワーナーさん英国の「知の権威」が語る捕鯨問題 ①

ロンドン博物館グループ
社会・労働・港史統括責任者
アレックス・ワーナーさんの主張

当時の一般市民は捕鯨活動が残酷であるという実態を知らなかったのです


英国は、ハワイと日本の中間点となる海域で捕鯨を行っていました

―現在は反捕鯨国として日本を始めとする捕鯨国を非難している英国ですが、かつては英国も捕鯨活動を大規模に展開していましたよね。英国における捕鯨の歴史はどれくらい古いのですか。

研究者たちの間では、イングランドやスコットランドを侵略したヴァイキングたちが9世紀から10世紀にかけて既に捕鯨活動を行っていたと考えられています。また少なくとも1598年の時点で捕鯨活動を円滑に行うために船を改造したとの記録が国内に残っていて、18世紀になると英国の主要産業になりました。だから英国は、捕鯨に関しては非常に長い歴 史を持っていると言えるでしょうね。元々はオランダから伝わった習慣ではないか、というのが有力な説です。

―英国における捕鯨活動は、どのように行われていたのでしょうか。

Green Quey
ロンドン東部には「Greenland Quay」
と名付けられた道もある
捕鯨活動が最も活発に行われた18世紀には、当時英国の主要港であった英国北部の都市ハルとロンドンが2大拠点となっていました。この2地点から年間何百という単位で捕鯨船が出航し、大きく分けて2カ所に向けて旅立っていったのです。1つはグリーンランドや、カナダ沖のデービス海峡といった北方の海。もう1つは南方の海で、太平洋や南米の海岸部、そしてハワイと日本の中間点となる海域でも捕鯨を行っていました。

今でもロンドン東部のドックランズ地域には 「Greenland Dock」と名付けられた船渠(せんきょ)があります。 この場所から多くの捕鯨船がグリーンランドに向けて出発していたので、その名残ですね。


鯨油は産業革命期の英国において非常に重要な役割を果たしていました

―捕獲したクジラは、どのように利用していたのでしょうか。

当時の英国人が使ったのは、クジラの皮や骨から採取される鯨油です。捕獲したクジラの脂肪を船上や波止場の縁で煮沸して鯨油を抜き取り利用していました。

採られた鯨油は、主に屋内や街頭を照らすランプの燃料として使われていました。また繊維産業で利用する織機に塗る潤滑油としても重宝されたようです。そういった意味で鯨油は、産業革命期の英国において非常に重要な役割を果たしていたと言っていいでしょう。

ただ日本人のようにクジラの肉を食するという習慣はありませんでした。食用として利用した唯一の例外が、パンなどに塗るマーガリンですね。今や世界的なブランドとなった家庭用品メーカーのユニリーバ社は1930年代、販売製品であったマーガリンの原料として鯨油を使っていたようです。


かつて捕鯨産業に携る者は勇者として賞賛さえ受けていました

―それではなぜ、英国は捕鯨を止めたのでしょうか。

様々な理由が挙げられるでしょう。1つは、乱獲によってクジラの生存数が激減し、絶滅の危機にさらされてしまったこと。それからランプの燃料にしてもマーガリンにしても、鯨油に代わる材料が開発されたこと。ホエール・ウォッチングが人気を集め出したこと。英国人が動物好きであることも大いに関係していると思います。またテレビのドキュメンタリー番組などの影響で、自然環境が危険に脅かされている実態が知られるようになったり、実はクジラが可愛くて、そして知能が高い動物であるとの認識が広まってきたりしたことも一因です。英国人が捕鯨活動を残酷に思うようになったというのも大きな理由の一つだと思います。

―それまで捕鯨活動を大規模に行っていた英国人が 「捕鯨は残酷である」と思うようになったのはいつ頃のことでしょうか。

20世紀の中頃だと思います。19世紀の米国人作家ハーマン・メルヴィルが「白鯨」という作品を残していますが、ここで描かれているのは、危険に溢れた状況に立ち向かう勇敢な行為としての捕鯨活動です。このように、かつて捕鯨産業に携る者は勇者として賞賛さえ受けていました。ただ当時の一般市民はクジラの生態や、捕鯨活動が残酷であるという実態を知らなかったのです。近年になってこういった残酷な部分がテレビなどで放映されるようになり、そうした映像にショックを受けた人が多くいるのではないかと想像します。


デモ隊
ドックランズ博物館に展示されている
捕鯨の記録帳 © Museum in Docklands
ドックランズ博物館
1802年にロンドンで初めて作られた船荷専用倉庫の跡地に出来た博物館。捕鯨活動を始めとするロンドン近隣の海洋史やテムズ河周辺で生きた人々の生活を、膨大な資料と貴重な展示物を使って紹介して いる。

デモ隊
Museum in Docklands
West India Quay, Canary Wharf London E14 4AL
Tel: 0870 444 3855
入場料: £5
www.museumindocklands.org.uk


サラ・ラザラスさん英国の「知の権威」が語る捕鯨問題②

自然史博物館出版
「Troubled Waters」著者
サラ・ラザラスさんの主張

80種類に及ぶクジラのうち、
ほとんどの生態がいまだ明らかになっていません


クジラの生態研究を行うのは難しいのです

―商業捕鯨が禁止されてから、クジラの生息数が回復したという説、一方ではいまだに絶滅の危機にあるという説があります。一体どちらの言い分が正しいので しょうか。

現在全部で80種類ほどのクジラ目に属する動物が確認されていますが、それらのうちほとんどの生態がいまだ明らかになっていません。ただ数は少ないですが、科学的な調査記録として残っているものもあります。

例えばタイセイヨウセミクジラは、人間が頻繁に利用する航路の近くに生息しているので、漁船の網にかかってしまったり、船に衝突するなどの事故に遭ったりした結果、生存数は300ほどまで落ち込み、現在は絶滅の危機にさらされています。コククジラは東太平洋では急激な回復を見せて生息数は2万1000頭まで回復、一方で西太平洋では海底油田開発などの影響を受けてその生態系は危険にさらされています。

議論が真っ二つに分かれているのが、ミンククジラです。日本鯨類研究所が南氷洋に76万頭のミンククジラが生息していると発表している一方で、国際捕鯨委員会はその半分程ではないかと見積もっています。*1

*1: 1990年のIWC科学委員会では1982/83~88/89年におけるミンククジラの推計生息数を76万1000頭として合意。しかし近年になってこの数字に疑問を呈す英国人科学者たちが現れ始めたため、クジラの生態に関する議論の混乱に拍車を掛けている。

―科学者の間でもクジラの生息数を巡っては議論が分かれているようですが、これはなぜでしょうか。

クジラの生態研究を行うのが難しいというのが一番の理由だと思います。クジラは沖合いで生活していますし、行動範囲も広く、またほとんどの時間を水面下で過ごしています。ただ最近になって衛星システムを使った追跡調査や、深海でも使用できるビデオ・カメラ、特製の針を使って皮膚や脂肪のサンプルを抽出する方法、DNA鑑定法なども出ているの で、研究は確実に進歩していると思います。

そういった意味で、日本のように必ずしもクジラを捕獲せずとも多種の科学的調査を行うことは可能です。例えばクジラが何を食べているかを知るには、クジラの胃を開かなくても排泄物を調べることで分かるはずです。

クジラと人間が同じ魚を食い合うということはないというのが、私の考えです

―クジラの生息数が増加していることにより、人間が食用とするその他の魚の数が減っているとの議論がありますが、これに関してご意見をいただけますか。

日本の捕鯨活動の対象となってきたミンククジラやザトウクジラは、オキアミなど甲殻類を食べています。その他の種類のクジラにしても、人間が食用とする魚を食べるということはない、ゆえにクジラが増えたから食用の魚が減るという図式は成り立たないというのが私の考えです。*2

*2: ラザラス氏は「クジラはまだ人類がまだ誕生していない約5000万年前から存在している生物。人間が捕鯨活動を行わないとの理由で、生態系が乱れることはない」とする。この主張はクジラの生息数増加が原因となり人間が食用とする魚の数が近年減っているとする捕鯨賛成派の意見と真っ向から対立することになる。

―捕鯨が残酷であるとの意見もよく聞きます。捕鯨に限って残酷な面があるとお考えですか。また痛みや残酷性を科学的に計測する方法はありますか。

少なくとも現在のところ、科学的に痛みを測定する方法は存在しません。ただ捕鯨は残酷だと思います。捕獲するまで長時間にわたって追い掛け回してクジラに多大なストレスを与えますし、銛が打ち込まれてから死を遂げるまでに1時間以上もがく時もあります。また鹿のように敵対する捕獲動物の存在に慣れていないという面もあります。ただ一方で促成養鶏舎に代表される近代的農業も残酷であるとも思いますし、どちらがより残酷であるか、というのを判断するのは非常に難しいと思います。

クジラの知能が高いかどうか、という質問に答えるのは非常に難しいです

―クジラは知能が高いという意見も時々耳にしますが、科学的に見てどうですか。

人間とクジラの棲む環境は異なり、知能の構造も全 く違うものなのでその質問に答えるのは難しいです。そもそも人類においても特定の人間が果たして知能が高いかどうか、という質問に答えるのさえ非常に難しいですよね。ただ例えばクジラはエサを探す時に仲間同士で協力し合ったり、複雑なコミュニケーションを取ることが可能だったり、社会的な関係を構築したり自意識を持つなど「知能が高い」と示唆できるだけの能力を持ち合わせていることは確かです。

―賛成するにしても反対するにしても、捕鯨問題はなぜここまで議論が分かれてしまうのでしょうか。

過去、実際に絶滅の危機にさらされたことがあるというのが一番大きいのでしょうね。また牛や鶏のように家畜動物ではないので、食用にすることに対して見解が分かれるという面もあるのだと思います。


Troubled Waters
サラ・ラザラス
ロンドン中心部に立つ自然史博物館、科学博物館所属の自然科学ジャーナリスト。オーストラリアのメルボルン大学名誉客員教授。著書に「Troubled Waters~The Changing Fortunes of Whales and Dolphins~」など。 右写真)サラ・ラザラス氏著書の 「Troubled Waters」。 クジラの生態や捕鯨の歴史などについて著した

Natural history Museum
www.britainonview.com
自然史博物館
17~18世紀にかけて陸軍軍医総監として活躍した ハンス・スローン卿のコレクションをもとに、大英 博物館の一部門として出来た博物館。館内には4億 点に上る動植物の標本が存在しており、クジラに関 する展示もある。
Natural History Museum
Cromwell Road London SW7 5BD
Tel: 020 7942 5000
入場料: 無料
www.nhm.ac.uk


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