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Wed, 17 January 2018

侍の国、最先端の科学技術が発展している国、マンガやゲームの傑作を次々と生み出していく国・・・・。世界が抱く日本のイメージには様々なものがあるが、中には「(食べてはならぬ)クジラを食べている国」という、日本人にとってはちょっと意外な印象を持っている人々がいる。この傾向は環境保護運動が活発に展開されているここ英国では特に顕著であり、各メディアの報道によって日本の対応が痛烈に批判されることもしばしば。しかし、そもそも「日本=クジラ」といったイメージはどうやって作られたのか、さらには数ある動物の中でなぜクジラだけを食べていけないかという疑問が頭をもたげる。そこで今回の特集企画では、2007年5月28日に開催される国際哺鯨委員会(IWC)総会を前にして、反哺鯨キャンペーンに力を注ぐ環境団体の人々にインタビューを敢行。対話を通じて拾った彼らの日本に対する主張を、元の発言にできるだけ忠実な形でウェブサイト上に再現した。クジラを食うべきか食わざるべきか、最後はあなた自身で判断を下して欲しい。(本誌編集部: 長野雅俊)

捕鯨問題にまつわる4つの基礎知識

まずは予備知識として、クジラにまつわる国際事情を簡単におさらい。以下に示したような状況の中で、一度は禁止された捕鯨の再開を求めている日本は世界の注目を浴びている。

1. クジラって、捕獲してはいけないの?

人類による乱獲のためにクジラの生存数が激減したため、この流れに歯止めをかけようと国際捕鯨委員会(IWC)総会が1982年に商業捕鯨の一時停止(モラトリアム)を採択した。モラトリアムは1985年に施行されてから現在まで継続されており、いくつかの例外を除いて捕鯨活動は禁止されている。

2. IWCとは?

イングランド中部のケンブリッジに本部を置く国際機関。国際捕鯨取締条約に基づき1946年に設立された。年に1回総会を開催し、クジラの生態に関する報告を基に、クジラ資源の活用についての協議を行っている。またIWC加盟国である日本政府は、長年にわたって捕鯨の再開を訴えている。

3. 日本は今、クジラを一切捕獲していないの?

日本はクジラの生態調査を目的とする「調査捕鯨(Scientific Whaling)」という形で一定数のクジラを現在でも捕獲している。これについて日本政府はIWCで取り決められた規約の範囲内であり、クジラの生態を確かめるために必要な措置であるとの見解を示しているが、捕鯨反対派からは「事実上の商業捕鯨」だとして強い批判が向けられている。

4. 日本以外で、クジラを捕獲している国はないの?

グリーンランドやアラスカといった食糧資源に乏しい北極圏などにおける捕鯨活動は、原住民生存捕鯨(Native Whaling)と呼ばれ、各環境団体は例外的な事情として理解を示すことが多い。またIWC加盟国であるノルウェーとアイスランドは商業捕鯨を既に再開しており、国際社会から非難を浴びている。

クジラに関する年表

9世紀頃 ノルウェー、フランス、スペインなどで捕鯨が始まる
12世紀頃 日本で手銛(もり)による捕鯨が始まる
1853年 米国提督ペリーが捕鯨船の寄港地を求めて黒船で上陸
1948年 国際捕鯨委員会(IWC)設立
1982年 IWC総会において商業捕鯨一時停止「モラトリアム」を採択
1985年 モラトリアム施行
1994年 南氷洋クジラ保護区の設置を採択
2001年 ロンドンで第53回IWC総会が開催
2002年 下関で第54回IWC総会が開催
2006年1月8日 南極海で日本の調査船団とグリーンピースの船の接触事故が発生
2006年1月25日 日本の捕鯨活動に対する抗議として英国の環境団体が日本製品の不買運動を呼び掛け「在英日本大使に抗議文を送れ」と書かれた意見広告が「インディペンデント」紙などに掲載される
2006年1月26日 ドイツのベルリン中心部にある日本大使館前にグリーンピースがナガスクジラの死骸を置いて捕鯨反対運動を展開
2007年5月28日 米国アラスカ州のアンカレジで第59回IWC総会が開催

✔ 捕鯨賛成派
日本、ノルウェー、アイスランド、デンマーク、ロシア、モロッコ、カンボジアほか

✘ 捕鯨反対派
英国、米国、ブラジル、オーストラリア、ニュージーランド、フィンランド、フランス、スペイン、ドイツ、イスラエルほか

環境団体が語るクジラを食べたらいけない理由①

グリーンピースUK 海洋キャンペーン担当
ジョン・フリゼルさんの主張

「クジラを絶滅に追いやるから」

「商業捕鯨がクジラを絶滅に追いやることは、歴史が証明しています」

―反捕鯨団体の代表として、まずはグリーンピースの声を聞きたいと思っています。グリーンピースの過激な反捕鯨キャンペーンは今ではすっかり有名になりましたね。

はい。グリーンピース設立直後から商業捕鯨には反対との立場を取っています。今日本などは数種あるクジラのうちいくつかの種の生存数が回復しているとの理由で、商業捕鯨の再開に向けて動いていることに危惧を覚えています。いまだ危険な状態に置かれている種類も多くあるのです。

―捕鯨に反対する主な理由は何ですか。

商業捕鯨がクジラを絶滅に追いやることは、これまでの歴史が証明しているからです。さらには、我々がクジラを食べなければいけない理由というのがそもそもないからです。

―でも実際、IWCの科学委員会は1990年に「ミンククジラは増加している」と報告しています。

その質問に答える前に、これまでの捕鯨の歴史を振り返る必要があります。これまで人類はクジラの生存数が減ると捕鯨を一時停止し、「もう大丈夫」と思って捕鯨を再開すると、すぐにまたクジラが絶滅の危機に瀕する、ということを繰り返してきました。まして現代では海の汚染や騒音など、クジラの生存に対するかつてない脅威がたくさん存在しています。調査によると、ここ50年ほどでマグロを含む大魚が90%も激減したそうです。それだけ海の生態系がひどく乱れていると想像できます。このような状態で捕鯨活動を再開するのは、賢明とは言えません

質問に戻ると、あなたは1990年のデータを引用しましたが、2000年にIWCはクジラ生存数の回復具合は実はよくつかめていないと発表しています。日本は自分たちに都合の良い数字だけを用いて、ごく最近の報告については言及すらしないのです。

―「実態がつかめない」というのはどういうことですか。

クジラの生態調査は、例えば人間が玄関のインターホンを押してアンケートに答えてもらう意識調査のようにはいきません。通常はボートの上から一瞬見えたクジラを記録し、発見した位置や状況から数学的に割り出した生存数を「見積もる」のです。しかしこの方法だと実際の数字と乖離している可能性が非常に高い。同じクジラを2回カウントしている場合もあり得ますからね。豊富な経験を積んだベテランの研究者でも、クジラの生存数に関して確実なデータを取ることはできないのです。

―海洋生物の中で、なぜクジラだけ捕獲しては駄目なのでしょうか。

その他の魚は何十万、何百万という卵を一斉に産むことができます。しかしクジラは哺乳類なので、少しずつしか子どもを産めないのです。だからクジラの子ども世代が親の代の総数を抜くことは非常に稀で、それだけ頭数の維持が難しくなっています。

―ただクジラは体に合わせて魚の消費量も巨大なので、頭数ばかり増えると今度はその他の魚が絶滅の危機にさらされてしまう。そういう状況を防ぐために、クジラを「間引く」必要性があるとの議論についてはどうお考えですか。

第一に、人間が生存する前からクジラは生存していました。だからといって人類の誕生以前に海の魚が絶滅の危機に瀕していたという話は聞いたことがありません。第二に、クジラは例えばマグロのような、人間が食用とする大きな魚を食べません。こういった食用の魚を最も消費するのは実はシーバスなんです。でも誰もシーバスを間引いた方がいいとは言いませんよね。

「クジラを食べたいという日本人は、実は非常に少ないのです」

―先ほど「クジラを食べなければいけない理由はない」と仰りましたね。でも、例えば英国人だって、フィッシュ&チップスを食べなくても生きていけると言われたら、原料となるタラを食べるのを止めますか。

第一に、日本は裕福な国です。その点で、エスキモーやアラスカの原住民など食糧資源に乏しいため捕鯨を行っている人々との違いがあります。またよく捕鯨が日本の伝統文化だと言う人たちがいますが、捕鯨の慣習が根付いていたのは仙台とか勝山とか、日本のごくごく一部の地域だけで、全国規模で広まったのは第二次世界大戦で食糧難に直面してからです。

そしてもっと重要なことは、クジラを食べたいという日本人は、実は非常に少ないのです。グリーンピースなどの調査によると、95%の日本人はクジラの肉を特別食べたいとは思わないと答えています。あまりに需要が低いので、日本政府はクジラを食文化として浸透させることを目的とするマーケティング会社さえ設立しました。そして反捕鯨派の日本人は、まるで非国民であるかのようなメッセージを伝えています。なぜ日本政府がそこまで捕鯨にこだわるのか、私には分かりません。ただ聞いた話によると、国としてのプライドを守る、みたいな感情論が関わっていると指摘する声もあるようです。

「直接行動がなければ、関心さえ払ってくれない」

―グリーンピースといえば、過激な抗議活動で知られていますね。

勘違いしないで欲しいのは、私たちの抗議活動は、過激であっても暴力的ではなく、人間に危害を加えるようなことは決してしないということです。また派手さでいえば、IWC議会の外では、反捕鯨派だけでなく、捕鯨派もかなり騒々しくやっていますよ。

ただ議会の中では、騒ぐと追い出されてしまうので、私も静かにしています。事実を書き連ねた文書を出席者に配布し、私たちの考えを伝える。いわゆるロビー活動ですね。あと、日本を訪れた際に水産庁の漁業交渉官である森下丈二さんとも討論しました。彼は私が意外にも冷静に論理で攻めてきたことに驚いていたみたいです。

―それだけ論理的に説明する能力を持っていながら、なぜクジラの死骸を日本大使館の前に置くような極端な行動に走るのですか。世間の注目を集めることはできても、それだけ非難も受けるでしょう。

少なくとも、日本からは非難を受けやすくなるかもしれませんね。ただ、日本人の方々に捕鯨問題についてメッセージを伝えるのは非常に難しいことなんです。過激な行動を起こせばメディアに取り上げられるが、非難も受ける。でもそういった行動なくしては、日本のメディアは関心さえ払ってくれない。そもそも、日本が捕鯨活動を行わなければ、私たちは抗議活動などする必要もないんですよ。
Photo: Rie Izawa

◆ グリーンピースUK
1971年に設立された国際環境団体の英国支部。「直接行動」と呼ばれる過激な抗議活動で知られており、捕鯨問題に関しては「レインボー・ウォリアー」と名付けられたボートを使って捕鯨船の進行を止める抗議や妨害活動が有名。


 
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