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Thu, 02 April 2020

作家 西 加奈子さん

何かに対して「なぜ」と問う勇気を

昨年、英西部チェルトナムで毎年10月に開催される文学の祭典「チェルトナム文学祭」に招待され、英国を訪れた西加奈子さん。その際にはロンドンでも国際交流基金の主催でトークが行われ、日本人だけでなく、初めて西さんの作品に触れる文学ファンの英国人たちが多く集まった。今回は、著書の英訳が待たれ、今後欧米での活躍も期待される西さんへのインタビューに加え、訪英時に王立芸術協会(RSA)で行われた翻訳家ポリー・バートンさんとの作品にまつわるトークの概要をお届けする。

西 加奈子

Kanako Nishi 1977年、イラン・テヘランに生まれ、エジプトのカイロと大阪で育つ。「あおい」で2004年に文壇デビュー。2007年「通天閣」で織田作之助賞、2013年「ふくわらい」で第一回河合隼雄物語賞、2015年には「サラバ!」で直木三十五賞を受賞した。

RSAでのトークでは、多くのベストセラー作品があり、中国、韓国、タイなどでも翻訳出版されている西さんの著書が、欧米ではまだ1冊も英訳されていないことに関して聞かれ、「ぜひ英訳出版をしてほしくて待っています。ずっと1番前で手を挙げているのに、なかなか指してもらえない生徒のような気持ちです」と笑った西さん。インタビューでは英米文学についてもお話を伺った。

米国やニューヨークがお好きであるとお話しされている記事を拝見したのですが、英国の小説もお読みになりますか。

日本語に翻訳されたものを読むので、英米の区別がそんなにはっきり付いているわけではないのですよ。英国の作家ではゼイディー・スミス*1、イアン・マキューアン*2、ジャネット・ウィンターソン*3などが好きです。作家として影響を受けたというよりも、シンプルに読者として英米文学の大ファンなのです。

*1ロンドン生まれ。代表作に「ホワイト・ティース」がある
*2「アムステルダム」や「贖罪」などで知られるベストセラー作家
*3「オレンジだけが果物じゃない」でデビュー。ジェンダーを主題にすることが多い

アフリカ系米作家で、差別などをテーマにすることが多いトニ・モリソンのファンでいらっしゃいますね。それは西さんが子供の頃に海外で暮らしたことと何か関係はあるのでしょうか。

確かにモリソンの作品の多くは、人種的なことがテーマになっていますが、私が一番最初に読んでショックを受けた本は、「青い眼がほしい」でした。これは美醜がテーマで、社会の弱者が自分よりさらに弱者を虐げる仕組みについて書かれたものです。当時私は17歳で、ちょうど周囲や男性の目を気にし始めた頃だったので、とても大きな影響を受けました。自分の価値観や、何かに対して「なぜ」と問う勇気を持っていなかったのですが、モリソンにその勇気をもらったと思います。

では女性に関して、現在は西さんが17歳だった頃に比べて変わったと思いますか。

#metoo運動など、女性が声を上げやすくなったのはとても良いことだとは思うのですが、一方で、少女に対して性的価値を置くという状況は、もしかしたら日本では昔よりひどくなっているかもしれません。特にアイドルの扱いに納得がいきませんね。私が17歳のときにしたように、アイドルたちは男性の視線を内面化し、ランク付けされることに慣れてしまっている。しかも大人の男性たちにプロデュースされるので、その基準で容姿をジャッジされているように思います。もっと個性があってもいいんじゃないかと思いますね。

これから書きたいテーマは何でしょうか。

今書いていることでもあるのですが、学生ローンなど、若者の貧困についてです。正確な統計かどうかは分からないのですが、日本では子供の6分の1、独身女性の3分の1が貧困状態にあるとされています。だけどそれは絶対的貧困ではないから外からは見えない。ご飯も食べられて、なんだったら携帯も持っているので、一見貧しいように見えないのですよね。しかも本人がそれを隠す傾向にあります。なぜかというと、貧困であることが「自己責任」だと言われてしまうから。でも私はそうではないと思います。皆一生懸命頑張っているのにシステムが悪くてうまくいかないのです。それが今、私の書きたいことです。


インタビュー後に行われたトークで、バートンさんや観客からの質問に次々に答えた西さんだが、自分の作風を一言で言うなら? という問いに、世界の悲劇を目にしたとき、いつも「なぜ自分ではなく、その人に起きたのか」という視点から話を組み立てる、と語ってくれた。そして、「自分が自分であることの逃れられなさ」を、あくまでも肯定的に、1冊ずつ違う方法で描いているのだと思うと述べた後、自分も含め、誰もが経験や偏見によって感性のフィルターに根詰まりを起こしてしまうけれど、それを取り除くために「書く」のだろう、視線のクリアな人が増えれば、世界は変わるのではないだろうか、とも語った。

また、プロレス・ファンで知られる西さんは、小説を書くことをプロレス競技に例えてみせた。全日本プロレスの棚橋弘至選手の受け身プレーや、リングで愛を叫ぶパフォーマンスなど、「恥ずかしいことを全力でやる勇気」の大切さはプロレスから学んだと皆を笑わせた。

世界を変えるだけではなく、全てを受け入れることもときには必要だと思う、と言う西さん。かつて17歳のときに自分がトニ・モリソンからもらった勇気を、英国のティーンエイジャーたちに与える日も近いかもしれない。

 
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