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Sun, 05 July 2020

ギャングたちの命を懸けた人生ゲームに釘付け! ドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」はなぜ世間を熱狂させるのか

最近、英国では街中でバックを短く刈り込んだヘア・スタイルにハンチング帽をかぶっている男性をよく見かける。そのスタイルの火付け役となったのが、1920年代の英中部バーミンガムを舞台にしたBBCの犯罪ドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」だ。一度見たら止まらなくなるストーリー展開や独特の世界観、スタイリッシュな映像と音楽、豪華キャストの競演などで高い評価を集める本ドラマは、視聴者が人気作品を選出する「ナショナル・テレビジョン・アワード」で、2020年1月に最優秀ドラマ賞を受賞するなど、単なる「格好良いギャング集団の立身出世物語」を超え、一つの社会現象となって英国を席巻している。なぜこのドラマが注目されるのか。その人気の秘密をさまざまな観点から検証してみた。(文:名取 由恵)

ギャング団の長、トーマス・シェルビーギャング団の長、トーマス・シェルビー

ピーキー・ブラインダーズとは
THE STORY OF PEAKY BLINDERS

第一次世界大戦後のバーミンガムでギャング集団「ピーキー・ブラインダーズ」を率いるトーマス・シェルビー(キリアン・マーフィー)の活躍を描く。シェルビー家の次男、トーマスはカリスマ性にあふれた一家をまとめる実質のリーダー。頭脳明晰、冷静で非情だが、家族思いな一面もある。長男アーサー(ポール・アンダーソン)は大戦による戦争後遺症を抱えており、三男ジョン(ジョー・コール)は妻を亡くして4人の子持ち、妹のエイダ(ソフィー・ランドル)は共産主義活動家と交際中など、家族をまとめるトーマスの悩みは尽きない。シリーズ1は、武器工場から銃が盗まれた事件をめぐり、捜査のために派遣されたキャンベル警部(サム・ニール)、潜入捜査官としてスパイ活動をするグレース(アナベル・ウォーリス)との駆け引きを中心に展開される。シリーズ5まで放映されており、シリーズ6は撮影間近。

ドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」の背景

「ピーキー・ブラインダーズ」は、第一次世界大戦出征で人生が一変したギャングのトーマス・シェルビーが、ライバルを倒しながら立身出世していくBBCのテレビ・ドラマである。物語の始まりは大戦直後の1919年。第一次世界大戦といえば、総力戦により多大な犠牲者を出した戦争で、英軍の戦死者だけでも88万人*を超えた。その影響で、欧州の帝国が崩壊、ソビエト連邦が生まれ、世界は大きな混乱状態にあった。戦後、財政が困窮していた英国は少しずつ回復に向かうものの、それも束の間、1929年に世界恐慌が起こり、世界は全体主義の不穏な空気に包まれていく。「ピーキー・ブランダーズ」は、近代史に大きな爪痕を残したこの2つの大戦に挟まれた変化の時代に焦点をあてている。*英国立公文書館「ナショナル・アーカイブズ」調べ

戦争直後の鬱々とした雰囲気戦争直後の鬱々とした雰囲気も、本ドラマの重要なバックグラウンドとなる

実在の犯罪集団「ピーキー・ブラインダーズ」がモデル

1870年代ごろのバーミンガムの都市部にはスラムが広がり、極貧の生活を余儀なくされる子どもたちが次第に自分のテリトリーをかけて争うようになっていた。1890年代、同地にあるスモール・ヒースでは、通行人を標的にスリや盗みを働く少年たちが現れる。この少年たちが徐々に組織化され、窃盗、恐喝、暴行などの犯罪を行い、「ピーキー・ブラインダーズ」と名乗るようになったという。メンバーは労働者階級や下層階級の若者たちが中心で12、13歳の子どもも混じっていた。ピーキーたちは地元のライバル・ギャングと抗争しながら、20年あまり町を支配していたが、やがてビリー・キンバー率いるバーミンガム・ボーイズとの争いに負けて衰退。しかしその後も、ピーキー・ブラインダーズの名前は、バーミンガムのストリート・ギャングを指す言葉として残ったという。

実在の犯罪集団「ピーキー・ブラインダーズ」リアル・ピーキー・ブラインダーズのハリー・フォウルズ、アーネスト・ベイルズ、
スティーヴン・マクニクル、トマス・ギルバート

1914年のボーデスリー・グリーンスモール・ヒースから少し東に位置する1914年のボーデスリー・グリーンの様子。
ドラマの設定は実際のピーキー・ブラインダーズが活躍した時代とおよそ20年のずれがある

名前は都市伝説?

名前の由来については、「ハンチング帽の先端(peak)にカミソリの刃を縫い付け、それで相手の目を攻撃していた」「相手の額を切り、流血で目を見えなくさせた」など諸説ある。歴史学者でバーミンガム大学名誉教授のカール・チン氏は、英国に安全カミソリが入ってきたのは1900年代初頭のことで、少年たちには手の届かない高価すぎる品だったはずだとし、「当時バーミンガムでは、ツバのある帽子はピーキーと呼ばれていた」と説明。また、ウォルヴァーハンプトン大学のローラ・ウゴリーニ教授は、「ブラインダーは『しゃれた格好をした人』を意味するバーミンガムのスラングである」としている。

2020年とのシンクロニシティ

今から約100年前の話であるにもかかわらず、不思議と現代社会に酷似する点も多い。本作の生みの親である脚本家スティーヴン・ナイトは、英国で働くナイジェリアからの不法移民の人生を描いた映画「堕天使のパスポート」でアカデミー賞脚本賞にノミネートされた社会派だが、ナイトは本ドラマの構想について、「(設定された時代は)ファシズム、国粋主義、人種差別主義が台頭し、世界中で自分たちにとっての敵を排除する動きがあった」「英国の現代社会と似通う部分もかなりある」と昨年7月のプレミア上映会で語っている。作中で垣間見える深い洞察、また現代社会への警鐘を鳴らす本作に、欧州連合から離脱したものの、移民問題、貧富の格差などで人々が分断され、国粋主義の動きすら感じられる2020年の英国の現状と重ね合わせている視聴者も少なくない。

また、昨年国家統計局が行った「赤ちゃんの名前人気ランキング」では、トーマスの兄の「アーサー」が1920年代以降初めてトップ10に、妹の「エイダ」もトップ100位に初めてランクイン。専門家もドラマが赤ちゃんの名付けに影響を与えた可能性を指摘するなど、ドラマ人気の余波が英国人の暮らしにも広がりつつるあることが伺われる。

キリアン・マーフィー主人公のトーマス・シェルビーを演じるキリアン・マーフィーはアイルランド出身の俳優。
同役で2つの演技賞に輝いた

これまでのギャング映画になかった人物描写

米作品「ゴッドファーザー」「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」など、ギャングやマフィアを描いた人気作品はこれまでにもいくつも存在する。堅気な人間には無縁の世界だが、私たちは裏社会で生きる男たちの姿にロマンを見出すのかもしれない。本作も同様だ。トーマス・シェルビーは大戦後の不安定な時代を利用し、共産主義者、労働組合、アイルランド共和軍(IRA)、ファシスト党など、次々に現れる組織と対決、さまざまな戦略を使い、権力も地位もない状態から国会議員へと昇りつめる。その一方で、冷静沈着で非情なトーマスにも迷いや悩みがあり、「自分は何のために生きるか」と自問し葛藤する。視聴者はその姿に次第に共感していく。

また、本作が際立っているのはパワフルな女性たちの描写だ。これまでのギャング映画と異なり、労働組合のゼネストに参加し男と対等に渡り合うシェルビー家の女たち、周囲から怖がられているトーマスを一喝できる叔母、敵のギャング団を目の前にしても一切ひるまないトーマスの妹など、女性たちのしたたかな姿を描いたところが、今の社会情勢に図らずもマッチしている。

Peaky Blinders女性の権利がまだ制限されていたこの時代、女性たちの暗躍は物語の鍵となる

1920年代の労働者風ファッション

1920年代の英労働者階級の男くさいファッションが英国男子の間でトレンドに。ヴィンテージ・ファッションを好む若者たちにも、このスタイルがはまり、ドラマ人気の一端を担う。一方で、中高年にも取り入れやすいスタイルとあって、コスプレ感覚で楽しむ男性も増えているようだ。ここではピーキーたちになりきるための必須アイテムを紹介しよう。(図・解説:英国ニュースダイジェスト編集部)

ピーキーブラインダーズのファッション

ハンチング帽 サイドとバックを短く刈り込んだヘア・スタイルにハンチング帽(ベイカー・ボーイ・ハット、フラット・キャップとも呼ばれる)がトレード・マーク。生地はツイードで色はグレー、ネイビー、ダーク・グリーンなどが人気。

ウェストコート 第二次世界大戦まで背広は常に三つ揃えで着用されていたので、ウェストコートはこの時代の必需品。もしもディテールにこだわるならば、ボタンの数が6個でV ゾーンが浅めのもの、ポケットは4つ。

懐中時計 懐中時計はこの時代の実用的な必須おしゃれアイテム。スーツからのぞく懐中時計の鎖はアルバート・チェーン、ブラス・フォブなどが使われ、ウェストコートのボタン・ホールに通してからポケットへ。

ミリタリー・コート オーバーサイズのミリタリー・コートで、襟にヴェルヴェットかコーデュロイの襟が付くのがピーキー・ブラインダーズ風。主役のトーマスのコートは第一次世界大戦時に軍から支給されたスタイルがモデルだそう。

オックスフォード・ブーツ スーツにミリタリー・スタイルのブーツを加えることでピーキー・スタイルが完成。足首までのブーツで靴の先は丸くてがっしりしており、できれば色は黒で。あえて磨かずにラフなエリアを闊歩してきたように見せる。


セレブにも人気
David Beckham

ファッション・リーダーのデービッド・ベッカムもこのスタイルを積極的に取り入れている。英デパートのジョン・ルイスではハンチングの売り上げが急上昇した。

ファッションを楽しむイベントも

ピーキー・ブラインダーズをテーマにしたライブやそのファッションを楽しむイベントも英国各地で行われ、昨年はバーミンガムでレジティメート・ピーキー・ブラインダーズ・フェスティバルが開催された。

ドラマの世界をもっと知るために

過去のシリーズを観る

2013年にシリーズ1がスタートし、現在まで5シリーズ(全30話)が放映済み。現時点でストリーミング配信「Netflix」で視聴できるほか、DVD/Blu-ray、BBC iPlayerにて不定期に公開中(現在はシリーズ5のみ公開)。

バーミンガムの「聖地」を訪問する

ドラマ人気により、バーミンガムの観光客数は2018年に4280万人を突破し、シリーズ1が放映された2013年からの5年間で26パーセントも増加した。休暇を使って映画やドラマのロケ地を巡るこの動きは英国で「スクリーン・ツーリズム」(日本でいう聖地巡礼にあたる)と呼ばれ、近年活発になっている観光の在り方の一つだ。同地は再開発されてヒップなエリアに移り変わった市内中心部ディグベスをはじめ、ピーキーゆかりのスポットが点在するファン垂涎の聖地となったが、お勧めはバーミンガム郊外ダドリーにあるブラック・カントリー・リビング・ミュージアム。18世紀から1960年代までの町の歴史を再現した体験型の野外博物館で、ドラマの一部シーンはこの場所で撮影されている。毎年行われるピーキー・ブラインダーズ・ナイツも大盛況で、次回は今年9月に開催。

ブラック・カントリー・リビング・ミュージアム26エーカーの広大な敷地を持つブラック・カントリー・リビング・ミュージアム

Black Country Living Museum
Tipton Road, Dudley, West Midlands DY1 4SQ
Tel: 0121 557 9643 
入場料:£19.95
オープン:水~日 10:00-16:00 (3月30日以降は毎日10:00-17:00)
最寄駅:ナショナル・レールTipton駅 
https://www.bclm.co.uk

公式ブック「By Order of the Peaky Blinders」を読む

オフィシャル・ブック「By Order of the Peaky Blinders(バイ・オーダー・オブ・ザ・ピーキー・ブラインダーズ)」ではメイキングの秘話をあますことなく紹介している。

By Order of the Peaky BlindersBy Order of the Peaky Blinders
編著:Steven Knight, with Matt Allen
発行元:Michael O'Mara Books 

 
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