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Thu, 21 January 2021

知っているようで知らない イングランド国教会と
クリスマス

英南部ワイト島にあるイングランド国教会の聖トマス教会とクリスマス・ツリー英南部ワイト島にあるイングランド国教会の聖トマス教会とクリスマス・ツリー

現在の英国の国教であるイングランド国教会(Church of England)。ローマ・カトリックやルター派のプロテスタントと異なり、国家元首を首長とする、キリスト教のなかでも特殊な教派だ。ロイヤル・ウェディングや女王の即位記念式典など、華やかな式典においても重要な役割を果たしているイングランド国教会。とはいえ、「カトリックやほかのプロテスタントと何が違うのか」といった疑問を抱く人も多いだろう。今回は、イングランド国教会の成り立ちや特徴、伝統的なクリスマスの過ごし方について紐解いてみよう。(文・英国ニュースダイジェスト編集部)

イングランド国教会を知る4つの基礎知識

1成り立ちの歴史ある王様のわがままが始まりだった

イングランド国教会は、チューダー朝の第2代国王、ヘンリー8世の離婚騒動をきっかけに成立した。カトリック教徒であったヘンリー8世は、新興貴族の娘アン・ブーリンと結婚するため、妻であるキャサリン・オブ・アラゴンを離縁しようと試みる。ローマ教皇クレメンス7世に婚姻無効の宣言をするよう求めたものの、認められなかった。

業を煮やしたヘンリー8世は、英国国内における教皇の霊的首位権を否定し、国王こそが宗教的な首長であるという主張を展開した。参謀であったケンブリッジ大学の教授、トマス・クランマーをカンタベリー教会の司教に任命し、アン・ブーリンとの再婚を実現したが、結果としてローマ・カトリック教会から破門されてしまう。これを受けたヘンリー8世は1534年、国王至上法(首長令)を発令し、イングランド国教会の礎を築いた。

イングランド国教会が正式にローマ・カトリックから独立したのは、エリザベス1世時代の1559年だ。英国議会が国王を「信仰の擁護者」として認め、首長令を採択。ついに英国国教としてのチャーチ・オブ・イングランドが誕生した。

イングランド国教会成立のきっかけを作ったヘンリー8世イングランド国教会成立のきっかけを作ったヘンリー8世

2主な教派さまざまな考え方を受け入れる柔軟性

現在のイングランド国教会は、「国教会」と「非国教会」の2種類に大別される。国教会のなかには、カトリック的な伝統を重んじる「ハイ・チャーチ」と、聖書の内容のみを信仰の柱とする「ロウ・チャーチ」の2派があるが、明確な組織として分かれているわけではない。

非国教会は、「ピューリタン」(清教徒)の呼称でも知られ、清教徒革命のきっかけになった「独立派」と、経験豊富な信徒を教会の導き手として選出する「長老派」の2派に分かれている。そのほか、さらに「クエーカー」、「メソジスト」なども生まれたが、英国国内での弾圧をきっかけに、米国をはじめとする世界各国に散らばっていった。

日本国内では、英国海軍の宣教医師だったバーナード・ジャン・ベッテルハイムが、1846年に沖縄で布教を開始。1887年に日本聖公会が設立され、立教大学や桃山学院大学などをはじめとする教育機関も開校した。上皇の教育役として来日した米国人司書、エリザベス・ヴァイニングも、熱心なクエーカーであったことが知られている。

清教徒革命の様子を描いた「ネイズビーの戦い後の風景」清教徒革命の様子を描いた「ネイズビーの戦い後の風景」

3特徴カトリックとプロテスタントのいいとこ取り?

ローマ・カトリック教会から独立したイングランド国教会は、理論的にはプロテスタントに該当する。とはいえ、実質的にはカトリックの伝統を踏襲している点が特徴。聖書のみを信仰の対象とし、教会を権威とみなさない一般的なプロテスタントとは異なり、「聖書の内容と矛盾しない限りは、カトリックの伝統も容認する」という、中道的な立場を取っている。一般的なプロテスタントでは禁止されている偶像崇拝やマリア信仰も、イングランド国教会では許容されている。

また、国家元首であるイングランド国王を宗教的首長とし、上院には聖職者議員が所属するといった、政教不分離の体制も独特だ。

近年注目されているマイノリティーへの対応については比較的寛容で、2010年には女性叙任者の人数が男性のそれを初めて上回った。同性婚に対しては、表向きは反対の姿勢をとっているものの、個別の教会においては同性同士の結婚式を執り行っているところもあるなど、裁量に任せられている。

同性婚の式を行う教会もある同性婚の式を行う教会もある

4代表的な教会ロンドン市内ならここが有名

ロンドン市内にある、イングランド国教会に属する代表的な教会といえば、チャールズ皇太子と故ダイアナ妃の結婚式でも有名な聖ポール大聖堂だろう。ロンドン教区の主教座聖堂であり、聖ポール大聖堂の主教は、聖職貴族(Lord Spiritual)の地位を与えられている。現在の主教はデイム・サラ・ムラーリー。前職は国民保険サービス(NHS)のイングランド主任看護師というユニークな経歴の持ち主で、2018年に主教に任じられた。

ロンドン西部のスローン・スクエアにあるホーリー・トリニティー教会も、イングランド国教会に属している。19世紀から20世紀にわたって英国で一斉を風靡したアーツ・アンド・クラフト運動の影響を受けた建築が特徴で、エドワード・バーン・ジョーンズやウィリアム・モリス、ウィリアム・ブレイクなど、当時活躍したアーティストが手掛けた、壮麗なステンド・グラスを見ることができる。

聖パウロを祭る聖ポール大聖堂聖パウロを祭る聖ポール大聖堂

イングランド国教会の司祭に学ぶ
クリスマスの伝統的な祝い方

日本人にはなかなか馴染みのないイングランド国教会。教徒たちは、どのようにクリスマスを祝っているのだろうか。ロンドン西部のホランド・パーク地区の教会区司祭、ジェームズ・ハード氏にお話をうかがった。キリスト教徒ではない日本人がイベントに参加するときのアドバイスもご紹介しよう。

ジェームズ・ハード司祭ジェームズ・ハード司祭

Revd Dr James Heard
Vicar, United Benefice of Holland Park

ホランド・パーク周辺にある聖ジョン・ザ・バプティスト教会と聖ジョージズ教会で司祭を務める。チェルシーの聖ルーク教会の教会区副司祭を経て2013年より現職。2教会は、16年にユナイテッド・ベネフィス・オブ・ホランド・パークとして共同活動を行っている。

聖ジョン・ザ・バプティスト教会St John the Baptist

Holland Road, London W14 8AH
Tel: 020 3602 9873

St George’s Church

Campden Hill, London W8 7JG
Tel: 020 3602 9873

https://hollandparkbenefice.org

イングランド国教会のクリスマスにとって最も重要なこととは何でしょうか。

イングランド国教会のクリスマスの精神は、基本的にはカトリックやほかのプロテスタントのそれと大きく変わらないと言っていいでしょう。つまり、神が私たちと一緒にいるために、人の姿で地上に生まれてくださったことを喜び、祝うことです。また、神が人間のために与えてくださった愛、共感、寛容の精神を思い出し、それを自分もほかの人に対して分け与える、ということも、重要な要素です。クリスマスの慈善活動や募金などは、この精神に基づいています。

特に、ホームレスの人や、貧困に苦しむ人へのクリスマス・チャリティーが多いのは、イエス・キリストが、何も持たない貧しい難民の両親の子として生まれたことに意味があると考えるためです。最も弱い者の形で地上にもたらされたイエス・キリストの誕生を祝い、「私たちは神に愛されている」ということを再認識し、その愛を人にも分け与える。それが、教会が大切にしているクリスマスの心だと言えると思います。

クリスマス礼拝のポスター。幼子イエスの絵が描かれているクリスマス礼拝のポスター。幼子イエスの絵が描かれている

国教会のクリスマスならでは要素はありますか。

アドベントやクリスマス礼拝など、基本的な儀式は、カトリック教会とほぼ同様だと言えます。リースやツリーなどのクリスマス・デコレーションは、教派というよりも、各教会によって違いますね。私たちの教会は建物自体が比較的豪華なので、派手な飾り付けはほとんどしていませんが、イエス・キリストの誕生の場面を表現した「クリブ」と呼ばれる人形飾りを、教会内に出しています。

教徒に定着している民間の慣習としては、アドベントの前の日曜日にクリスマス・プディングを作る、「スター・アップ・サンデー」が挙げられます。「混ぜる」を意味する「Stir」と「星」を意味する「Star」が掛かっており、クリスマス・プディングのタネをかき混ぜるごとに、心にクリスマスの星を灯していく、という意味合いがあるのです。家族がキッチンに集まって、交代でプディングを作り上げる、だんらんの機会でもあります。

教会での催しとして独自なものは、「ナイン・レッスンズ・アンド・キャロルズ」。クリスマス・イブの礼拝で、聖書の9つの箇所を読み上げ、9つの聖歌を歌うイベントです。19世紀に英南西部コーンウォールの教会で始まり、今では全国的に広まっています。ケンブリッジ大学のクリスマス礼拝で行われるものが特に有名ですね。

スター・アップ・サンデーに作るクリスマス・プディングスター・アップ・サンデーに作るクリスマス・プディング

洗礼を受けていない日本人がクリスマス礼拝に参加しても大丈夫ですか。どんな準備をしたらいいでしょうか。

教会にもよると思いますが、私たちを含む教会ネットワーク「インクルーシブ・チャーチ」に参加しているところでは、あらゆる人種、性別、文化的背景の人を歓迎しています。ロンドンには、世界各国から人が集まります。そんな人たちが、「安全な場所」として訪れられる教会であることを目的としているためです。

イングランド国教会の礼拝では、参加者に「サービス・シート」と呼ばれる小冊子を配っています。進行プログラムや聖歌の歌詞はもちろん、どこで立つ、どこでひざまずくなど、詳しい案内も書かれているので、初めて参加する人でもサービス・シートにならって行動すれば大丈夫です。ですので、礼拝が始まる10分前くらいに到着して、席に座り、サービス・シートを確認することをお勧めします。座る席は特に決められていないので、好きな場所を選んで構いません。とはいえ、ソーシャル・ディスタンシングにだけは気を付けてくださいね。

礼拝の途中に聖餐式がある場合、すでに洗礼を受けた人だけがパンとぶどう酒をもらうことができます。もし洗礼を受けていない人が何らかの形で参加したいと思うなら、聖餐の代わりに「祝福」(ブレッシング)を受けるのもいいでしょう。司祭の前に出たら、胸の前で両手を交差させ、お辞儀をすることで、祝福を求めているというサインになります。

読者の皆さんへのメッセージをお願いします。

メリー・クリスマス! 教会のイベントは誰でもウェルカムです。ルールが厳しいのではないか、失敗したらどうしよう、などと怖がらずに、気軽に訪ねてくださいね。クリスマス・キャロル・コンサートなどは、ソーシャル・ディスタンシングのため、参加人数を例年の半分に制限することになりますが、自宅から参加できるオンライン・ストリーミングも予定しています。

今年は新型コロナウイルス流行の影響で、大変な1年になりました。さまざまな理由でクリスマス礼拝に来られない方々にも、「素晴らしいクリスマスをお過ごしください」とお伝えしたいです。全ての方々が、心安らかに、温かいクリスマスを過ごすことができるよう、心から祈っています。

イエス・キリスト誕生の場面を演じる子どもたちイエス・キリスト誕生の場面を演じる子どもたち

 
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