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Fri, 02 May 2025

温泉地もご紹介!英国の風呂事情

日本人にとって入浴行為は体の汚れを落とすだけでなく、心や身体をも癒やす大事な習慣だ。一方の英国では、実際にバスタブ付きの住宅は多いものの、湯船に浸かりながら髪や体を洗うなど、その使い方には異なる部分がある。今回は、英国の風呂文化の歴史やお勧めのスパ・タウンまで、お風呂にまつわる情報について調べてみた。
(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.independent.co.ukwww.historic-uk.comwww.english-heritage.org.uk ほか

英国の風呂事情

数字で見る英国の風呂事情

入浴はシャワー派57%
風呂派32%

シャワー派の約75%は水が溜まるのを待つ必要がなく、手早く浴びられるためにシャワーを好む

英国人は月に20回シャワーを浴び、
8回入浴する傾向がある

シャワーに費やす時間は9分20秒
入浴は25分4秒

シャワー派の41%が毎日シャワーを浴び、
入浴派は日曜日に入浴する傾向がある

シャワー派の約33%
入浴派の25%が最中に歌を歌う

28%が入浴の際に
体を洗わずに浸かるだけ

時短を好む男性はシャワー派
リラックスのために 女性の方が入浴をより好む

参照: ヴィクトリアン・プラミング社が委託した2000人の成人を対象とした調査、ソーク&スリープ社が行った2300人の成人を対象とした実態調査

水の量はシャワーも風呂も同じくらい?

水の効率的な利用と保全を推進する独立系非営利団体ウォーターワイズの調査によると、平均的なサイズの浴槽に並々と水を入れるとその容量は約180リットルになるが、実際の入浴時には約80リットルの水を使っているそう。シャワーの場合はタイプによるが、10分間使用すると120~150リットルを消費する。どちらを使用すると安いかに関しては水道代の請求がメーター制か否かによって変動するものの、シャワーや入浴などお風呂にかかわる水は、家庭における全水道代の33パーセントを占めているそうだ。

公衆浴場は古代からあった 英国と風呂の歴史

ローマ人が誇りを忘れないために導入

現在では昔ながらの公衆浴場を英国で見ることは難しいが、20世紀中ごろまでは存在していた。英国と公衆浴場の歴史には、古代ローマ人が深く関わっている。その中心地は英西部バース。43年にブリテン島に上陸したローマ人は、バース周辺に自軍の拠点を構えていた。その近くには、すでにこの地に住んでいたケルト系のブリトン人が崇拝する女神スリスの神殿としていた天然温泉があり、ローマ人はこの女神を自分たちが信仰する知恵、正義、芸術の神ミネルヴァに重ね合わせ、ブリトン人にスリス・ミネルヴァとして崇拝することを奨励した。この温泉地から、大規模な古代ローマの公衆浴場、テルマエ(Thermae)が作られたという。この時代の公衆浴場は、共有の浴槽と温度の異なる部屋を備えており、家族や友人、そして地域社会の人々の語らいの場として機能していた。ブリトン島全域では、大規模な公衆浴場からローマ人の上流階級の個人浴室まで、さまざまな形式の公衆浴場の遺跡が発見されている。基本的には、非ローマ人と差別化し「ローマ人であること」への意識付けのために、ローマ人のみが利用していたが、英西部のロクシター(Wroxeter)などには公営の大浴場があり、安い料金設定で一般の市民が利用できるように開放している場所もあった。

英北部チェスターに残る古代ローマ時代の浴場英北部チェスターに残る古代ローマ時代の浴場

バースにある冷水浴槽。火照った体を冷ますのに使われたバースにある冷水浴槽。火照った体を冷ますのに使われた

公衆衛生上の懸念

ローマ帝国崩壊後の英国の入浴事情に関する詳細な情報は残されていないが、1138年ごろの文献にイングランド全土から病人や癒やしを求めた人々がバースの温泉を訪れたことが記されている。また、カトリック教徒が英国国教会に反旗を翻す陰謀を企てることを恐れたヘンリー8世が公共温泉での入浴を禁止する令を1537年に出したが、74年にバースを訪れたエリザベス1世が温泉を再び市民に開放するよう宣言したことも、歴史の一端として現在に伝わっている。

こうした公衆浴場は1660~1815年に多数作られ、イングランドでは48以上の温泉施設が開業。その周囲には劇場や商店、宿屋などが立ち並び、訪れた観光客を楽しませた。この時代の浴場は貴族と庶民が等しく利用したが、一方で英国の温泉の原点ともいえるバースでは、富裕層や権力者がその恩恵を受けていた。やがて1846年に浴場と洗濯場法(Baths and Washhouses Act)が制定され、貧困層が洗濯できる公共施設のネットワークが整備されたことで状況は一変。この法は主に病気の撲滅を目的とし、同時により幅広い社会層に入浴の機会をもたらしたほか、公共プールが生まれるきっかけとなった。その後英国全土に公衆浴場やライド(遊泳施設)が見られるようになったが、1970年代後半以降、公共サービスの削減が進み、全国の公衆浴場は次々に閉鎖されていった。

かつて英東部マーゲートにあったライドのサインは今も残されているかつて英東部マーゲートにあったライドのサインは今も残されている

英国の風呂、温泉にまつわる豆知識

1. スパと温泉の違い

スパと温泉の違い

英国の温泉地はスパ(Spa)として知られ、水着を着用して男女兼用の温水・冷水のプールやジャクジーで楽しむことが基本。また、エステやマッサージなど、リラクゼーション効果を高めるための施設が併設されていることが多い。日本の一部の源泉は水温が100度を超えるが、英国は11~46度とかなりぬるめ。熱い湯に浸かる体験はできないものの、家族で一緒にプールに入り、疲れたらジャクジーやマッサージで心身を癒やすというレジャー的な楽しみ方ができる。なお、スパでは土足と裸足エリアが曖昧なので、気になる場合はサンダルなどを持参すると良い。

2. 風呂の入り方の違い

風呂の入り方の違い

英国のお風呂はシャワー・ブースのみ、浴槽付きなど住宅によってさまざま。日本式ならまず浴槽に入る前にシャワーで汚れを落とす洗い場があるが、このタイプの浴室はほとんど見られない。では、英国人はどこで体を洗うのか。個人差はあるものの、①お湯を張った浴槽の中で体を洗って水を抜き、シャワーを浴びて終了、②浴槽の中で体を洗って水を抜き、再度新しいお湯を張ってしばしリラックス。その後、シャワーを浴びて終了、というパターンがメジャーな模様。なお、体を洗った浴槽のお湯を抜かずに次の家族の誰かが使い回す、という場合もあるようだ……。

3. 英国発のLUSH

英国発のLUSH

日本でも人気のある、バス用品やハンドメイドの化粧品を取り扱うLUSH(ラッシュ)は英南部ドーセットで1995年に創業。店の主力商品であるバスボムは浴槽に入れて楽しむ入浴剤で、肌の調子を落ち着かせる効果があるほか、万華鏡のような鮮やかな色彩で五感を高揚させて入浴時間をより有意義なものにするために誕生した。開発のきっかけは解熱剤として使用される錠剤で、水に溶かすとシュワシュワと弾ける様子からインスピレーションを受けたそう。なお、この発砲がバスボムに配合されたエッセンシャル・オイルをお湯に溶かすのにベストな方法なのだとか。

4. 多様なお風呂スタイルが集結する英国

多様なお風呂スタイルが集結する英国

1940~50年にはまだ入浴設備が整っていない家庭も多く、簡易なブリキの風呂にお湯を溜めて入ったり、子どもならシンクで体を洗ったりと、まだまだ公衆浴場は必要とされていた。その後、風呂付きの新興住宅が開発されるに従い公衆浴場は姿を消していくが、このときにはすでに英国はロシアやトルコ、モロッコから多くの移民を受け入れており、多様な文化背景を持つ人々が共に暮らす社会へと移行していた。そうした影響もあり、ロンドンほか英国の都市部ではバーニャやハマムなど、各国の伝統的な浴場文化に根ざした公衆浴場が現在も利用できる。

英国にあるスパの街

バース Bath

バース Bath

英西部にある街で、46度の天然温泉の周りに築かれた史跡のローマ浴場(Roman Baths、見学のみ)とその神殿は必見。浴場はほぼ完全な状態で残っており、彫刻や貨幣、宝飾品、そして女神スリス・ミネルヴァのブロンズ像の頭部など貴重な遺物も展示されている。神殿の上階にある18世紀にできたポンプ・ルームはぜひ訪れたい。現在はカフェになっており、ジョージアン王朝時代の娯楽の中心地であったこの場所で、ドリンクや軽食を楽しむことができる。スパ体験を楽しむなら、テルマエ・バス・スパがお勧め。

行き方
ロンドンのPaddington駅からBath Spa駅まで約1時間20分

バクストン Buxton

バクストン Buxton

英中部ダービーシャーにある温泉地。古代ローマ人はこの地の天然の温泉に惹かれ、70年ごろにバクストン周辺に定住し、森の女神アルネ・メティアを祀る神殿と温泉浴場を建設した。その後、スチーム風呂を好んだ第5代デヴォンシャー公爵が1780年にジョージアン王朝様式で三日月状の建物を作り、そこにスパ・ホテルを建築。現在はバクストン・クレセント・ホテルと呼ばれ、化学処理を施していないミネラル豊富な水を注入した温水プールや、アロマのスチーム・ルームを楽しむことができる。

行き方
ロンドンのEuston駅からStockport駅で乗り換え、Buxton駅まで約3時間

グレート・マルヴァーン Great Malvern

Great Malvern

英中西部ウースターシャーにあり、マルヴァーン丘陵の岩で濾ろか過された湧き水を求め、フローレンス・ナイチンゲールやチャールズ・ダーウィンなど著名な人物も訪れた街。ヴィクトリア朝時代には、裸の状態で湧き水に浸したシーツにくるまり、冷たい風呂に横たわる「水療法」を求めて多くの人々が訪問したという。街は数多くの泉に囲まれており、そのうちの一つセント・アンズ・ウェル(St Ann’s Well)では飲泉も可能。また、ザ・マルヴァーン・スパには天然の湧き水を利用したスパ施設がある。

行き方
ロンドンのPaddington駅からGreat Malvern駅まで約2時間20分

ハロゲート Harrogate

Harrogate

1571年に硫黄泉が発見された街。1700年代までには、井戸や装飾的な浴場が数多く建設された。当時の裕福な湯地客は、現在博物館となっているロイヤル・ポンプ・ルーム(Royal Pump Room)という八角系の独特なデザインが目を引く建物で、ハロゲートの水を飲んでいたという。現在湯浴みを楽しむなら、1897年に開業した旧ロイヤル・バスの複合施設内にあるトルコ風呂がお勧め。ヴィクトリア朝時代のトルコ風呂は国内で七つしか残っておらず、その中でもここは特に保存状態が良好とされている。訪問には事前予約を。

行き方
ロンドンのKings Cross駅からHarrogate駅まで約2時間50分

 

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*本文および情報欄の情報は、掲載当時の情報です。

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