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ロンドンのゲストハウス
Sat, 20 July 2019

ジョルジオ・セルモネータおじさんの手袋

外気の冷たさが骨身に沁みる、英国の12月。
この時期、街中を過ぎ行く人々の手は、手袋で覆われるようになる。
クリスマス・シーズンのプレゼントとしても人気のアイテムであることから、
店頭にはそれこそ何百種類もの手袋が並べられる中で、
「手袋の哲学」なるものを追い求める人に出会った。
英国のどんよりとした空の下でも華やぐカラフルなデザインの手袋には、
多数の職人の手がかけられているという。
イタリア生まれの手袋ブランド「セルモネータ・グローブス」を
経営するジョルジオ・セルモネータさんに、手袋の哲学について聞いた。

Sermonetaジョルジオ・セルモネータ
手袋を専門に扱うブランド「セルモネータ・グローブス」の創始者。1964年に、ローマのスペイン広場の近くに1号店を開店して以来、自身の妻や子供と共に、同ブランドの経営を続けている。ローマ在住の66歳。
セルモネータ・グローブス
1964年にイタリアのローマで創業された手袋ブランド。原色を使ったカラフルな色づかいのデザインを特徴とする。裁断や縫製などの制作過程に携わる職人の数は、最低でも26人。本国イタリア各地で展開するほか、ロンドンでは2009年1月、中心部メイフェア地区のバーリントン・マーケット内に第1号店を出店。また日本でも東京、大阪、名古屋の3都市に店舗を構えている。

手袋とは、手軽に購入できる非常に便利なお土産なのです

そもそも、なぜ手袋作りを始めることになったのですか。

手袋作りを仕事として始めたのは、私が21歳のときです。当時、イタリアの男の子たちは、軍隊で訓練を受けることが義務になっていました。私も高校を卒業後、すぐに入隊です。1年半にわたる訓練を終えて、何か商売を始めようと思っていたら、私の家族が、ローマの観光名所であるスペイン広場に空いた敷地を見つけたんです。だから、その場所に自分の店を構えることにしました。そして何のお店を開こうかと考えていたときに、当時はまだ恋人として付き合っていた私の妻の叔父が、手袋作りをしていることを知りました。それで、私も手袋作りを始めようと思ったのです。

恋人の親戚が仕事にしているというだけで、手袋作りが本職になったということですか。

もちろん、それだけが理由ではありません。この仕事を始めてから、かなり早い段階で、ローマのスペイン広場で手袋を販売することへの大きな可能性を感じました。「スペイン広場」はご存知ですよね。映画「ローマの休日」の中で、主演のオードリー・ヘップバーンがジェラートを食べていたシーンの舞台ですよ。この場所には、一年を通じて本当にたくさんの旅行客が訪れます。そして彼ら観光客はいつだって、母国で帰りを待つ家族や友人そして恋人のために、お土産を買うでしょう。でも、スーツケースには重量制限があるから、あまり重たいものは持ち帰りたくない。また旅行中に壊れやすい高級品を買いたいと思う人もそんなに多くいないんじゃないかな。そうした観光客たちにとって、手袋とは、手軽に購入できる非常に便利なお土産なのです。

商売を始めてから事業が軌道に乗るまで、どれくらいの時間がかかりましたか。

自分の店を開くまで、私には手袋作りの経験が全くありませんでした。何しろ高校を卒業して、軍隊での訓練を終えたばかりです。だから妻の叔父さんに頼み込んで工場の中を見学させてもらったりして、勉強しましたよ。私は仕事を覚えるのはとても早かった。比較的短い時間で、制作から販売まで手袋作りに関するあらゆるノウハウを吸収することができました。

事業が軌道に乗り出したのは、開業から5、6年経ったぐらいの頃でしょうか。その頃までにはおおよそのことを把握できるようになったので、自分の商品をもっと良くしたいと考えるようになりました。言い換えると、手袋作りに対する自分の哲学を持てるようになったのです。

スペイン広場
世界中から観光客が集まる、ローマのスペイン広場

第一号店
ローマのスペイン広場にある第1号店

お客さんの喜ぶ顔って、 何度見てもいいものですよ

セルモネータさんにとっての「手袋作りの哲学」とは、 一体どのようなものなのでしょうか。

例えば当時、手袋といえば、黒か茶色を基調とした地味なデザインのものがほとんどでした。そこで、私はカラフルな色のデザインを作るようにしたんです。というのも、手袋は寒さをしのいだり、手軽なおみやげとして機能するだけではなく、持つ人の個性を表すアクセサリーにも成り得ると思ったから。寝ている間に新しいデザインの手袋ができた夢を見て驚いて起き上がり、忘れないようにメモしてからまた寝る、なんて日が何度もありました。

販売価格も、できるだけリーズナブルに抑えようと色々と努力しました。今でも私のモットーは、「1ペンスでも、0ペンスより高い」です。1ペンスでも削れるよう、なるべく薄利多売して、低価格に抑えました。初めに売り出した商品の価格は、950リラ(約1ユーロ)だったんですよ。品質が良くて、価格が安ければ、お客さんは当然喜びます。

お客さんの喜ぶ顔って、何度見てもいいものですよ。今はブランド構築の必要性なども考慮に入れるようになりましたが、この仕事を始めて最初の25年間は、広告なんて全く打たなかった。広告を出さなくても、お店の評判が口コミで広まっていったからです。かつてのスペイン広場には、手袋を販売しているお店が他に5、6店舗あったので、そりゃもう、競争は非常に厳しかったです。でも、それらの店舗は、今ではすべて潰れてしまっています。私の店は、生き残った。この事実には誇りを感じています。

一つのオーケストラに、指揮者は2人も要らない

先ほど奥様の親戚の影響でこの仕事を始めたと仰いましたが、その奥様は現在、手袋作りにはどのように関わっているのですか。

初めは妻も私と一緒に店の仕事をしていました。でも、毎日のように侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論というか口喧嘩をやってきて、もう懲り懲りになってしまって。2人とも、個性が強いですからね。結局、私と妻が同じ仕事をしようとすると、お互いぶつかるだけで、上手くいかないのです。一つのオーケストラに指揮者は2人も要らないということでしょうか。結局、妻は経営の第一線から退くことになりました。

ただ私は米国のハーバード大学で3年間、経営を学んだことがあったのですが、その間は店をすべて妻に任せきりにしていました。あと最近は少し人手不足になったので、またミラノの店を見てもらっていますけど。喧嘩はいまだに絶えないですね。41年前に始まった喧嘩が、今までずっと続いている状態です。これじゃ、喧嘩するために結婚したようなもんですよ。

商品の陳列
商品の陳列にも、趣向が凝らされている

色とりどりの手袋
パレット上の絵の具のように配置された、色とりどりの手袋

日本人って、手のひらの面積が狭くて、指が長い

日本でも店舗を持っていますね。

本国イタリアに加えて日本、米国に数店舗、あとモスクワとウィーンにも出店しています。良き出会いに恵まれて、今年の初めには、ロンドンのメイフェア地区にあるバーリントン・マーケットに出店し、近々ロンドン西部に2号店もオープンします。どこの国に出店するにしても、私の哲学を変えるつもりはありません。だから、その哲学を理解してくれる人との出会いというのは本当に大切ですね。

実は昨日、日本出張から帰ってきたばかりなんです。今回は、1週間半の滞在でした。長い出張だと思いますか。私は短過ぎると思っているんですが。販売関係者の方々と挨拶したり、店舗の視察も兼ねていましたが、最大の目的は、日本人の皆様の手を研究することでした。皆さん、普段はそこまで気を払わないかも知れませんが、国によって、人の手のサイズや形って随分と違うのですよ。あなたは自分の手のサイズが分かりますか。分からないでしょう。そんなあなたのために、セルモネータ・グローブスはあります(笑)。

日本人の手は、性別に関わらず、概して手のひらの面積が狭くて、指が長い傾向にあります。私たちが作る手袋は、世界各国で同じ種類のものを用意していますが、サイズは国ごとに微妙に変えています。そのために、各国に住む人々の手の形を調査する必要がある。

最近はあまりなくなりましたが、かつては日本人のお客様に「手の形を調べさせてください」と頼んだときは、恥ずかしがったり、困惑されたりすることがたくさんありましたよ。でもそうした蓄積があって、今は日本人の手の形に合う手袋を作れるようになったのです。

セルモネータさんの手袋
左)セルモネータさんの「手袋の哲学」を反映した、カラフルな手袋
右)様々な用途に合わせて、生地もデザインも、豊富な種類を用意している

ファッションアイテム
手袋は防寒目的のために着用するものだけではなく、
いまや貴重なファッション・アイテムとなった

顧客の笑顔を見るのが幸せ
「顧客の笑顔を見るのが一番の幸せ」というセルモネータさん

手袋は、いつもどこかで誰かに、 必要とされているのです

一つの手袋を作るために、何人の手が必要ですか。

手袋作りには、26の異なる行程があります。そして、それぞれの行程で専門の職人さんたちが働いている。つまり、少なくとも26人の職人さんの手がかかっている。この数を多いと思いますか。でも、それが本来あるべき手袋の作り方なのです。そりゃ、もっと行程を端折ることもできますよ。ただ、私は本物の手袋を作りたい。

あえて名は挙げませんが、大手服飾ブランドの中には、手袋を販売しているものが多くあります。でも、そうしたブランドのほとんどが、最後の仕上げの段階で自社のブランドを貼り付けているだけで、それ以前の制作過程には関わっていないのです。対して私たちは、自分たちの工場で、自分たちで作る。それが何を意味するかというと、商品をさらに良くしたいと思ったときに、自分たちが思い描いた形を実現できるということなんです。

夏は手袋の売れ行きが悪くなると思うのですが、その間、それだけ大勢の職人さんは、何をしているのですか。

さっき言ったでしょう。スペイン広場には、夏期に世界中から観光客が押し寄せます。そしてまさしくその観光客たちが、お土産として手袋を買っていくのです。だから、私たちが作る手袋って、夏の方が冬よりも売れ行きはいいのです。

また時代が変わり、手袋に対する新たな需要も増えてきました。私が商売を始めた40年前とは、もう何もかもが違いますよ。何しろ、その当時、ロンドンからパリに行こうとすれば、電車やら船やらで1日半かかりましたからね。今はユーロスターで2、3時間ですものね。生活が豊かになって、おしゃれ目的に手袋を着ける人の数も増えました。

また冬でなくても、手袋を着用する人って結構いるんですよ。例えば、バイクを運転する人。車を運転するときに必要とする人もいますしね。あとゴルフをする人や、狩りを楽しむ人たちも手袋を着けますよね。手袋って、いつもどこかで誰かに必要とされているのです。

はがして、洗って、切って、縫い付けて セルモネータおじさんの手袋ができるまで

一つの手袋ができるまでには、染色や裁断、縫製といった様々な手間がかけられている。セルモネータおじさんの手袋を作る工場での行程は、全部で26。そして、それぞれの行程において、専門の職人さんが働いているという。イタリアにあるこの工場の中の様子を、少しだけ覗いてみよう。

手袋作りがスタート 手袋作りがスタート
作業に入る前の状態。生地の材料となる、ヤギ、シカ、トナカイなどの動物の皮を倉庫に保管しておく。
洗濯 洗濯
皮を巨大プールのような装置の中に入れ、15日にわたって浸け置きする。汚れを取り除くのと、後に作業を行いやすいように、生地を柔らかくするという目的も兼ねている。
毛を除去 毛を除去
専用の機械を使って毛の部分を取り除くと、準備が完了。
脱色 脱色
毛を取り除いた皮をプレスした後、化学薬品が注入された樽の中で、3日にわたって保存する。脱色を行うための作業。
乾燥 乾燥
脱色された生地をハンガーにかけて乾かした後に、アイロンがけを行う。
染色 染色
脱色作業を経て白色になった生地に染色する。色付けが行えるのは、1日につき1色のみ。
磨く 磨く
車輪式の機械を使って磨き(①)、生地を仕上げる(②)。
裁断 裁断
型を利用しながら、専門の職人が生地を裁断する(①)。様々な手形にフィットするようにと、人種や性別などによって異なるサイズの型が用意されている。(②)
縫い付け 縫い付け
手首回りの縫い付けを終えると(①)、出来上がり(②)。

ShopSermoneta Gloves
Sermoneta Gloves
51 Burlington Arcade London W1J 0QJ
Tel: 020 7491 9009 / Fax: 020 7355 3291
www.sermonetagloves.co.uk
 
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