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Sat, 13 July 2024

坂本龍一インタビュー「音楽というのは、楽しければ楽しいほどいいというもの」

「教授」という愛称が連想させる、あらゆる音楽についての膨大な知識。コンサートの世界同時中継を実現させた、インターネットの動画配信技術への飽くなき探究心。原発問題への取り組みを始めとする、高い社会意識。そうした一連の、音楽家としての範疇に収まり切らない広範な活動を展開しながらも、音楽という原点は決して見失わない。その座標軸は、どのように構成されているのか。11月1日に行われる世界ツアーのロンドン公演を前にして、坂本龍一氏に話を聞いた。

さかもと りゅういち
1952年1月17日生まれ。東京藝術大学音楽学部作曲科卒、同大学院音響研究科修士課程修了。78年結成の音楽グループ「イエロー・マジック・オーケストラ」のメンバーとして、一世を風靡する。87年公開の映画「ラストエンペラー」で、日本人初のアカデミー賞オリジナル作曲賞を受賞。92年開催のバルセロナ五輪にて開会式の音楽を担当。2010年には、動画配信サービス「ユーストリーム」を通じてのコンサート映像の同時無料配信で話題に。地雷除去活動や、原発問題に関する社会活動にも積極的に参加。米ニューヨーク在住。

「ロンドンでコンサートを開いた その日から、
たくさんの友達ができたのがうれしかったな」

1979年に、イエロー・マジック・オーケストラの一員として、初めて世界ツアーを開始した場所がロンドンでした。当時の想い出を語っていただけますでしょうか。

僕たちのコンサートに、当時流行していたニューウェーブ系の音楽を好んだり、そうした音楽の制作に携わったりしている人たちが随分とたくさん来てくれたことが印象に残っています。ロンドンでまさに初めてのコンサートを開いたその日から、そうした多くの音楽関係者と友達になることができたのが、本当にうれしかったな。

米国と比べると、英国の音楽市場は小さいというか狭いというか、きっと集中しているんですよね。日本でも何か新しいことを始めようと思って東京に上京するという人は多いと思いますが、そうした現象とよく似ていて、あのころの英国では、いわゆる有名人とかアーティストとかいった人たちは、ほとんど皆ロンドンにいたんじゃないかな。逆に、今はむしろブリストル在住のアーティストとかの方が、ローカル色があって面白い存在だな、と思われるのでしょうけれど。

パンクやニューウェーブといった流行が生まれたころのロンドンの音楽シーンを懐かしむ音楽ファンは多いと思います。翻って、現代のロンドンは音楽都市としてどのような魅力を持っていると思いますか。

どうかな。昔はロンドン、ベルリン、東京、ニューヨークといった街単位で個性ある音楽が生まれて、そうした音楽を通してそれぞれの街に対しても憧れを持つといったことがあったけれども、ここ10年ぐらいは、恐らくインターネットの発達によって、特定の街と音楽の流行の関係性というのは薄れてきてしまっているのかもしれませんね。ロンドン出身の面白いミュージシャンというのはたくさんいますけれど、彼らが「ロンドンという街から発信する音楽」の担い手である、という意識は、聴き手は持っていないんじゃないかな。僕自身、インターネットを通じて新しいアーティストを発見した際に、そのアーティストがロンドン在住であることが分かったとしても、「これが今のロンドンで流行している音楽なのか」といった印象を持つことはなくなってきていますね。

11月1日に開催される、世界ツアーのロンドン公演では、コンサートの前後に、ロンドン観光や郊外への小旅行に出掛けるご予定などありますか。

仕事で海外を訪れたときは、仕事以外の予定を入れるだけの時間を確保できないというのが悲しい現状です。特に今回は世界ツアーの一環としてロンドンへ行くことになるので、コンサートが終わると、すぐに次の国なり街に移っていかなければならず、仕事以外のことはほとんど何もできないですね。といっても、仕事以外で海外に旅行したことがないのですが。

デュラン・デュラン
1970年代後半から80年代にかけて、デュラン・デュラン(写真)を始めとするアーティストたちが
手掛けるニューウェーブ系の音楽が流行した

ただ海外ツアーでは、コンサートの前後などに、各地の色々な人々と出会えることが楽しいです。音楽業界に限らず、様々なアーティストや友達と再会したり、また新しく出会ったり。今年5月、アルヴァ・ノトというドイツ人アーティストと一緒にロンドン公演を行ったときは、エイフェックス・ツインのメンバーなどが観に来てくれて、うれしかったです。やはり、ほかのアーティストたちと話を交わしたり情報交換したりといったことが、何よりも楽しいですよね。

「自分の仕事のあり方をもう少し よく考えたら、
英国や欧州に住む方が良かったかもしれない」

アーティストに限らず、「海外で活躍する」という目標を掲げる日本人は多くいます。坂本さんは、いつごろから海外での活動を本格的に計画するようになりましたか。

こういう言い方をしてかっこつけていると受け取られてしまうと嫌なのですが、「海外で働く」ということについて、特に計画的に何か努力してきたつもりはなくて、本当に自然に、気付いたら海外を拠点として音楽活動をするようになっていたという感じです。  

ただ非常に漠然と、根拠もなく、日本以外の国でいつか仕事をするだろうということは、もう10代のころから思っていました。都市だけではなく、自然が厳しい場所、例えばアラスカなど、地球上のどこででも暮らしていけるような人間になりたいなあと。まあそれは計画というよりも、冒険に対する憧れのようなものだったのかもしれませんね。

現在、米ニューヨークに生活の拠点を置かれていますが、これは米国で音楽活動を行うことを念頭に置いての決断だったのでしょうか。

正直なことを言うと、僕の音楽活動に対する市場は、現在は米国にはないに等しいのです。海外では、米国よりも欧州の方がずっと多くの仕事をいただいている。毎年のように欧州でコンサートを開催していますし。だから、純粋に音楽活動の都合を考えると、僕にとって、米国は在住地としては適した国ではなかったのかもしれません。ニューヨークに住み始めてからもう21年になるのですが、自分では「失われた21年」と言っているぐらいで。  

ただ21年前の時点で僕がニューヨークで暮らすことを選んだ理由の一つは、なじみの音楽スタジオが既にそこにあって、顔なじみのミュージシャンやエンジニアもそこにいたということです。日本で暮らしていたころから、ニューヨークのスタジオはよく使っていたので。だから引っ越してきても特に支障がないと思ったんですよね。でも、もう少しよく考えておくべきだったな。自分の仕事のあり方をよく考えたら、英国や欧州に住む方が良かったのかもしれない。まあ、今となってはもう遅いですかね。

「僕は『作曲家がピアノを弾いている』だけで、
『ピアニスト』にはなれないんですけど」

昨年のツアーでは、動画配信サービスの「ユーストリーム」を使ったコンサートの生中継が話題になりました。今回の世界ツアーでも、同様の試みを行う予定なのでしょうか。

今回の世界ツアーでも、ユーストリーム中継は行います。少なくともコンサートが始まってしまえば僕は中継の作業に関わることはできないので、スタッフの一人にお願いできるような簡単な仕組みにしてもらって。ロンドン公演も中継するつもりです。会場によってはそういう試みを断られることがあるかもしれないですけれど、ロンドンでは、まあ大丈夫だと思います。

今回の世界ツアーに参加するヴァイオリニストも、インターネットを通じて募集したとうかがいました。

はい。オーディションをするに当たって、応募者が演奏している様子を録画した映像を動画サイトの「ユーチューブ」に投稿してもらいました。二次選考の時点で10人ぐらい残ったんですけれど、皆さんすごく優秀な方ばかりで、選考はかなり難しかったですね。そこから3人に絞って、最終選考ではニューヨークにまで来てもらいました。たまたま、3人のうち2人はニューヨーク在住だったのですが、一人はポルトガル在住の方でしたね。結局、一番、表現力があるというか、表現の幅があるジュディ・カン氏に決定しました。  

またツアーのもう一人のメンバー、以前から一緒にツアーを行っているチェロのジャック・モレレンバウム氏に関して言えば、彼は自分で作曲するし、編曲家として譜面を書くことができて、ハーモニーについてなど音楽的知識も深いのに、演奏家としても一流、というところが素晴らしいと思います。僕自身も作曲と演奏を両方やりますが、僕の方は「作曲家がピアノを弾いている」というイメージが強くて、僕自身は「ピアニスト」にはなれないんですけど。

インターネット技術を使った音楽や映像の配信サービスについて、「こういうことが可能になったらいいな」と思うような技術はありますか。

ロイヤル・フェスティバル・ホール
坂本氏が11月1日にロンドン公演を行う
ロイヤル・フェスティバル・ホール

ユーストリーム中継でライブを観る人が、ライブそのものやアーティストに対して働き掛けるチャンスを与えられるような仕組みができたら良いなあと思っています。僕は常々、「おひねりを投げる仕組み」って言っていますけど。分かりやすい例を挙げれば、コンサートの生中継を行っているアーティストの映像を観ながら、そのアーティストの曲を買うことができるような仕組み。その映像を流している画面にリンクを貼って、CDの販売サイトとかiTunesに飛んでもいいのだけれど、そのまま同じ画面で、つまりハードルがもう少し低い状態でおひねりを投げられるといいなあと。そういうのを作ってくれともう何年も頼んでもいるんですけど、あまり広がらないですね。  

ただ技術的には、例えばインターネット上の決済サービスであるペイパルを使ってできないこともないはずなのです。東日本大震災の発生直後には、ニュース映像を観ながら、同じ画面上でクリックすれば寄付ができるという仕組みをユーチューブで見かけましたし。それが早く普及するといいですね。

「例えば音楽を使って世界平和を構築しようとは考えない。
音楽で人の心を動かそうなんて考えは止めた方がいい」

坂本さんは、東日本大震災からの復興に向けたチャリティー活動を始めとして、様々な社会活動に対して積極的な取り組みを行っていらっしゃいます。アーティストとして社会活動を行う場合、チャリティー・イベントを企画して寄付金を集めたり、その社会的影響力を生かして政治に参与していくなど色々な方法があると思いますが、どのような活動の方法がご自身に最も適していると思われますか。

今年の東日本大震災そして原発事故に関しては、できることは何でもやるというスタンスです。一人の人間としても、音楽家としても。個人として寄付もしていますし、寄付金を集めることを目的としたチャリティー・コンサートも行っていますし、社会的発言もする。特に被災地に行くと、メディアが集まってくれて、伝えるべき被災地の状況を書いてくれるということがあります。  

こうした活動を行うようになったのは、もしかすると、米国に住んでいることが影響しているかもしれないです。米国では、アーティストだけではなく、スポーツ選手でもなんでも、積極的に社会活動を行っていますよね。もう流行現象と呼んでもいいくらいに頻繁に。ときにそれを軽薄な風潮として揶揄(やゆ)する向きもあるけれど 、いずれにせよ、それぐらい活発に社会活動が行われているということです。  

また東日本大震災に関しては、地震と津波に対しては世界中の人がシンパシーを感じてくれたと思うのだけれど、その後の原発事故で放射性物質の被害が報じられるようになって、例えばハリウッドのスターたちからの支援の熱が少し冷めてしまったような印象を持っています。

坂本さんが、一連の社会活動に深く関与することによって、ご自身の音楽活動が、収益金の金額やキャンペーンの成果によって評価されてしまう可能性についての心配はありませんか。

もともと、そういうことに対する懸念をとても強く持っていて、今でも持ち続けています。坂本龍一という名前を使っての社会活動は積極的に行っていきたいと思いますけれども、音楽そのものに社会的メッセージを乗せて、プロパガンダするというのはあまり好きじゃないですね。仮に僕が震災のために音楽を書いたとしたら、震災のために書いたから良い音楽として評価されるというのではなくて、音楽は音楽として判断されるべきだと思います。作曲する目的が良いからといって、できあがった音楽が良いとは限らないわけだから。その辺りは厳しく判断してもらって構わない、という気持ちで音楽作りを続けています。  

僕は、例えば音楽を使って世界平和を構築しようとは考えない。音楽がそういう力を持つという考えは、むしろ危険だと思っています。音楽で人の心を動かそうなんて考えは止めた方がいい。音楽というのは、本来楽しければ楽しいほどいいというもの。僕の曲を聴いて幸せな気持ちになって楽しんでくれる人がいればそれで十分だし、それこそ僕がやりたいことです。

メッセージ
東日本大震災発生後、坂本龍一氏の公式ウェブサイト上に発表されたメッセージ

坂本龍一トリオ 世界ツアー ロンドン公演
Ryuichi Sakamoto Trio 2011 World Tour

2011年11月1日(火)19:30 / £40、£32.50、£29.50
Royal Festival Hall, South Bank Centre,Belvedere Road London SE1 8XX
Tel: 0844 875 0073
www.southbankcentre.co.uk
www.ticketmaster.co.uk

 

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