ロンドンのゲストハウス
Wed, 18 October 2017
特集
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ロンドンの本屋で過ごすひととき

インターネットで世界中から手軽に本を取り寄せられる時代。もはや、わざわざ本屋まで足を運ぶ必要はなくなったのだろうか。今回は、ロンドンにある個性的な本屋を紹介。店主の本への愛情とこだわりが詰まった小さな世界に足を踏み入れれば、そこにはどことなく懐かしい空気と新しい発見が待っている。たまには本屋という空間で、店主、そして本とのコミュニケーションを、心ゆくまでゆったりと楽しんでみよう。(本誌編集部: 村上 祥子)

世界各国から車・鉄道ファンが訪れる
Motor Books

Motor Books
Motor Books
13/15 Cecil Court, London WC2N 4AN
Tel: 020 7836 5376
www.motorbooks.co.uk

ロンドン随一の繁華街、レスター・スクエアの駅近く。駅前の喧騒とはうって変わって静寂が辺りを包み込む小道、セシル・コートには、演劇や音楽など、それぞれの専門書を扱う、こじんまりとした本屋が並ぶ。その 一角にある「Motor Books」は、創業1950年、世界最古の自動車・バイク専門書店を謳う本屋だ。過去数度の移転を繰り返し、2007年にセシル・コートに落ち着いたこの本屋は2軒続きになっていて、左手には自動車やバイク、右手には鉄道、そして地下には航空・軍事関連の書籍が揃っている。

「ヨーロッパだけじゃなく、世界各国からバイヤーが訪れたり、メールでの注文が入るんだよ。もちろん、日本からもね」とちょっぴり自慢気に語ってくれたのは、鉄道関連の販売担当者のジョンさん。ここではエリアごとに担当者が決まっていて、書籍に関するどんな質問にも淀みなく答えてくれる。特にお客さんに人気なのは、ポルシェやメルセデス・ベンツなどのスポーツ・カー関連の本、そしてクラシック・カーや蒸気機関車などを取り上げた「少しノスタルジックな本」なのだとか。

Motor Booksちょっととっつきにくそうな店員さんも、車や鉄道の話になるや、物静かな口調ながら次から次へとお勧めの本を語り出す。こんな本屋では、本を購入するだけでなく、いかにも英国らしい、ちょっとシャイで頑固な店員との会話を楽しみたい。

上写真:セシル・コートには「Motor Books」のほかにも専門書を扱う古本屋が軒を並べている
下写真:鉄道と本への愛情を、軽妙な語り口で滔々と話してくれたジョンさん

Last Steam on the Undergroundジョンさん一押し。現在はロンドン交通局が所有するグレート・ウェスタン鉄道のタンク式蒸気機関車の物語。実はジョンさんの共著本だ
Red Panniers: Last Steam on the Underground
John Scott-Morgan, Kirk Martin (Lightmoor Press)
「世界で最も優れた本屋」トップ10 にランキング
Hatchards

Hatchards
Hatchards
187 Piccadilly, London W1J 9LE
Tel: 020 7439 9921
www.hatchards.co.uk

Hatchards2007年度「ガーディアン」紙が選ぶ「世界で最も優れた本屋」において、英国内の本屋で唯一トップ10にランク・インしたのがこの「Hatchards」。創業1797年、3つの王室御用達の称号を持つこの書店にはかつて、オスカー・ワイルドやバイロン卿も通ったとか。

敷地面積はさほど広くはないものの、入ってすぐの螺旋階段を上に行けば、アートから文学、ビジネス書に至るまで、さまざまな分野の書籍が階ごとに整然と並べられている。磨きこまれた木の階段に、深緑を基調にした落ち着いたインテリア、そして慇懃な店員のサービス̶̶ほかのどの書店よりも「英国らしさ」を感じさせるこの場所では、店内を漂う歴史の重みを感じてみたい。

写真上: お勧めコーナーにも、英国の歴史と伝統を感じさせる本が。写真下: 伝統と格式を感じさせる外観

The Church Mouse美しい装丁が魅力の教会ねずみシ リーズ絵本。クリスマス・プレゼ ントにもぴったり
The Church Mouse
Graham Oakley (Atheneum)
店主の思い入れが詰まったミステリー専門書店
Murder One

Murder One
Murder One
76-78 Charing Cross Road, London WC2H OBD
Tel: 020 7539 8820
www.murderone.co.uk

鬱蒼とした曇天に石畳の道、暗く長い冬̶̶ロンドンは、幽霊や犯罪といった、少々物騒な物語を生み出す要素に満ちた街だ。そんな場所にぴったりな本屋がここ、「Murder One」。ミステリー関連の専門書店で、特にシャーロック・ホームズに関する本の品揃えには定評がある。

とはいえ、中はいたって普通の書店の構え。1階には新旧問わず、あらゆる犯罪小説が置かれており、右手には、何故かロマンス関連の本がぎっしり。そしてミステリー・ファン垂涎の本が並ぶのが地下。切り裂きジャックなどノン・フィクションの犯罪本と、ホームズ専門コーナーがある。

「元々は出版社に勤めていたんだ。会社を辞めた後、作家になったんだけど、ずっと机にかじりついているだけの生活に嫌気が差してね。それで始めたのがこの本屋だったんだ」。書店経営のみならず、ミステリー作家としても活躍中の店主マキシムさんは、ミステリー・ファンの間では名の知れた存在。店をこのような形にしたのは、勤めていた出版社がミステリー書籍を扱う会社だったことと、米国に旅行した際、ミステリーの専門書店を数多く目にし、「ロンドンでも需要があるはず」と確信したから。その読みは当たっていたようで、「売上は順調だよ」。

Murder Oneロマンスも扱っているのは、「もちろん、私がロマンス本も書いているからさ(笑)」。マニア向けと思いきや、マキシムさんの個性が反映された、ちょっぴりお茶目な本屋だった。

写真上:ホームズ関連書籍はさすがの充実度。戯曲や注釈本も数多い
写真下:簡単に1冊の本を勧めることは難しいと語るマキシムさん。「日本のミステリーと言っても、江戸川乱歩と桐野夏生じゃ、全然テイストが違うだろう?」

The Church Mouseホームズの物語に詳しい注釈を付けた研究者向けの本。著者は弁護士でシャーロキアン
The Sherlock Holmes Reference Library: The Memoirs of Sherlock Holmes
Leslie S. Klingers(Gasogene Books)
「ロンドンで最も美しい本屋」が内包する世界
Daunt Books

Daunt Books
Daunt Books
83 Marylebone High Street, London W1U 4QW
Tel: 020 7224 2295
www.dauntbooks.co.uk

お洒落なカフェやショップが並ぶマリルボン・ハイ・ストリートにあって、一際目立つエドワード調の建物。「ロンドンで最も美しい本屋」とも言われるこの店は、トラベル関連の書籍を主に扱う本屋だ。入ってすぐのエリアには一般書の新刊が美しく陳列されているが、何といっても圧巻なのが、右手の旅行関連コーナー。大きな天窓から差し込む柔らかい陽射しが、実に居心地の良さそうな、優しい空間をつくり出している。

Daunt Booksそしてもう一点、特筆すべきなのが本の配列。旅行書のみならず、小説などすべての書籍が国ごとにまとめられているのだ。本棚を眺めただけで、それぞれの国の文化や歴史まで見えてくるような、時間や空間を超える広がりを持つ本屋である。

写真上:新たな装丁で生まれ変わった英国文学の傑作たち
写真下:「JAPAN」の棚には、遠藤周作や村上春樹ら日本人作家の小説とともに、「Memoir of Geisha」など外国人作家が描く日本の小説も

Journey Through a Small Planet作家エマニュエル・リトビノフが、ロンドンのイーストエンドで暮らした自身の少年時代を振り返る
Journey Through a Small Planet
Emanuel Litvinoff (Penguin Modern Classics)
コレクターとの絆を守り続ける希少本の専門店
Gekoski

Daunt Books
正面の棚の上に並べられているのは、ウェールズ人作家ディラン・トーマスの著作コレクション。値段はまとめて25万ポンド。

Gekoski
Pied Bull Yard, 15A Bloomsbury Square, London WC1A 2LP
Tel: 020 7404 6676
www.gekoski.com

ビジネス街、ホルボーン駅近くにある小さな公園から続く小道を行くと、パブやカメラ屋が軒を並べる中庭に出る。そのなかにある、一見すると何の店か分からない、個人宅の書斎のような小さな店。「Gekoski」という、店主の名前が付けられたこの店は、英国の近代文学の初版本や希少本を扱う本屋だ。

店内に入っても、ここは本当に本屋なのか、との思いは消えない。入り口には重厚なデスク。壁沿いに置かれた棚には、一目で年代物と分かる本が並べられているが、その数は驚くほど少ない。

「ここにあるのはだいたい500冊くらい。多くはありませんが、どれも選りすぐりの良書ばかりです」。いかにも英国紳士然とした店員のピーターさんの言葉は、サマセット・モームやグレアム・グリーンなど、英国を代表する現代作家たちのサイン入り本の数々に裏打ちされている。価格は数百ポンドから数十万ポンドまで。とても素人が手の出せる金額ではないが、ピーターさんは驚くほど気軽に次々と貴重な本を見せてくれる。

Daunt Books「普通の本屋だったら、本が一番大切でしょう。でも私たちにとって何より大切なのは人との関係なのです」。顧客はほとんどがコレクター。彼らとのコネクションを通して、本を購入し、販売する。長年培ってきた彼らとの関係性を守り続けること、そして「あまり欲深くならないこと」、こうした姿勢を貫くことで、「Gekoski」は希少本の世界における確固たる地位を保ち続けている。

写真上:ここだけ時が止まったかのような静謐な佇まい
写真下:「笑った方がいい?カメラを向かない方がいい?」と何度も確認。真面目な人柄が滲み出るピーターさん

Graham Greeneグラハムには珍しいこの詩集は、現在では世界に数冊しか残っていない貴重なもの。何とグラハム本人から購入したという本の最後には、直筆の詩も書き加えられている
After Two Years / For Christmas
Graham Greene (The Rosaio Press)
粒揃いの良書に店のセンスを見る
Koenig Books

Koenig Books
Koenig Books (Charing Cross Road)
80 Charing Cross Road, London WC2H 0BF
Tel: 020 7240 8190

Koenig Booksヨーロッパ最大の独立系本屋と言われるドイツのWalther Koenig Books。そのロンドン支店としては、ケンジントン・ガーデン内のサーペンタイン・ギャラリー店が知られているが、チャリング・クロス・ロードにも今秋、新たな店舗がオープンした。黒で統一されたシンプル&シックな店内はさほど大きくないが、アートや建築、写真の分野では定評のある書店の支店だけあって、選び抜かれた本はどれも店のセンスがキラリと光るものばかり。また、店独自で出版しているものもあるので要チェックだ。人気の現代作家のアート本や写真集が置かれた1階をゆっくり楽しんだ後は、ぜひ地下へ。分野を問わず、さまざまな本が大幅に値下げされていて、思わず目移りしてしまう。

上写真:お洒落な外観に目をとめる人も多い。
下写真:店のショーウィンドーには日本人作家、村山知義の本も

Albumスーパーのチラシから電話ボックスに貼られた女性のヌード写真まで、さまざまなチラシをユニークなアレンジでまとめたスクラップ写真集
Album
Hans-Peter Feldmann (Walther Koenig)
冒険家気分で店内を探索
Stanfords

Stanfords
Stanfords
12-14 Long Acre, London WC2E 9LP
Tel: 020 7836 1321
www.stanfords.co.uk

コベント・ガーデンの駅から歩いて数分。「世界最大の地図&旅行関連の本屋」と謳うこの本屋の魅力は、「とにかく旅行に関する本なら何でもあるよ」と店員が胸を張るのも納得の品揃えだ。研究者や地図マニアが国内外から訪れる有名店だが、それとともに注目したいのが「遊び心」。巨大な地球儀に世界地図を敷き詰めた床──店内では、あちらこちらで座り込みながら本を眺める子供の姿が見られる。同じ旅行関連と言っても先述の「Daunt Books」とは全く異なる雰囲気を持つ、胸がワクワクするような、冒険心溢れる本屋だ。

Stanfords

A to Z of Georgian Londonロンドンの街を網羅した詳細な地図を時代別にまとめたシリーズの1冊
A to Z of Georgian London
John Rocque (London Topographical Society)
新しい文化を生み出す元祖アート系本屋
Magma Covent Garden

Magma
Magma Covent Garden
8 Earlham Street, Covent Garden London WC2H 9RY
Tel: 020 7240 8498
www.magmabooks.com

Magma本屋という枠組みを超え、新しい文化の発祥地として若者を中心に絶大な人気を誇るショップ。本のみならず、Tシャツやキャラクター・グッズ、文房具などが販売されている店内には、混沌としながらもどこか統一感を覚えさせる不思議な空気が漂う。ありとあらゆる分野の人々がドアを開けて店内に入り、何かを求めるという行為はとても人間的に豊かなこと、とはオーナーの弁。客からのフィードバックを大切にし、そのアイデアを取り入れることで進化し続ける空間に、今後も目が離せない。

This Diary Will Change Your Life 2009「MI5の職員をスパイせよ」などユニークな指示が挿入されたダイアリー・シリーズの2009年版
This Diary Will Change Your Life 2009
Benrik Ltd
店舗がなくても本屋はできる
Southbank Centre’s Book Market
サウスバンク・ブック・マーケット
Southbank Centre's Book Market
BFI Southbank(South Bank Waterloo, Lambeth, London SE1 8XT)の
向かい側
営業時間: 年中無休。時間は季節によって異なる

テムズ河沿いに伸びる散歩道、クイーンズ・ウォークをそぞろ歩くと、橋の下に本がずらりと並べられたストールに大勢の人が群がっているのが見えてくる。BFIサウスバンクのカフェの向かいに広がるこの空間は「サウスバンク・ブック・マーケット」、そう、店舗を持たない青空本屋だ。

「毎日毎日、雨の日も風の日もオープンしてるよ」と語ってくれたのは、ストールの一つを「経営」するアダムさん。このマーケットは1982年から、サウスバンク・センターの親会社であるサウスバンク委員会により運営されていて、アダムさんらストールの経営者は、同委員会にお金を支払って場所を確保している。

「厳しいのは雨より風だね。横なぐりの風なんかが吹くと、本が台無しになってしまう」。冬場には凍えるような寒さのなか、何時間も河辺にアダムさんじっと留まっていなければならないこの仕事は、かなりの重労働に違いない。それでも彼らが毎日、本を売り続けていられるのは、「本が好きで、このエリアが好きだから」。時には馴染み客が本を売りにやって来ることもあるという。本を好きな人と人が集まれば、そこにはもう、「本屋」という空間が存在しているのかもしれない。

右写真:「僕なんかでいいのかい?」とはにかみながらポーズを取るアダムさん

 
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