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ロンドンのゲストハウス
Mon, 15 July 2019

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

過激派組織「イスラム国」の妻の運命、英国への帰国願いはどうなる?
- 子供を亡くし、市民権も剥奪

最近、黒い装束で全身を包んだシャミマ・ベガムさん(19)の姿がテレビや新聞で連日のように報道されました。英国出身のベガムさんは、イラクやシリアを拠点とするイスラム過激派勢力「イスラム国(IS)」の戦士の妻となりましたが、 ISがほぼ壊滅状態となり、先月「サンデー・タイムズ」紙の取材に応じたときはシリアの避難民キャンプで暮らしていました。

筆者が思い出したのは、2015年2月、ロンドンに住む3人の少女が家族や友人に真相を知らせないまま、IS戦士と結婚するためにシリアに向かう様子を、ロンドン郊外ガトウィック空港の監視カメラが捉えた画像です。べガムさんは友人である2人の少女(15歳と16歳)と一緒でした。家族が「行かないで」と涙ながらに訴えた映像を思い出します。「あの時の少女が」と筆者は胸を突かれる思いがしました。

オランダ人のIS戦士と結婚後、ベガムさんは2度出産しましたが、子供2人は既に死亡。メディア取材が始まった当時は3人目を身ごもっていました。子供を安全な環境で育てるためにも、ベガムさんは英国への帰国を願っていると語りました。

「過激派研究国際センター(ICSR)」の2018年7月の調査によると、ISに参加するため海外からイラクやシリアに渡った人は4万1490人です。西欧からは5904人で、うち英国からは850人ほど。米軍の支援を受けたクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍(SDF)」が設置した拘置所には2019年2月の時点で、800人の外国人戦士、避難民キャンプには700人以上の女性、約1500人の子供たちが収容されています。トランプ米大統領は、拘束中のIS戦闘員を欧州諸国が引き取ることを求めており、ICSRによると、これまで425人の元兵士やその家族が英国に帰国しました。

ベガムさんが3人目の子を出産して間もなく、帰国による治安上のリスクを考慮した内務省は、ベガムさんの市民権を剥奪しました。1981年の国籍法では、内相が「公共の利にかなう」と判断し、かつ当事者が無国籍にならない場合、政府は個人の市民権を剥奪することができます。ベガムさんの母親はバングラデシュ出身で、バングラデシュ国籍・市民権の法律では、同国の国籍を持つ人から生まれた子供は自動的にバングラデシュの国籍を取得できるそうです。ただし、21歳以降もバングラデシュ国籍を保持したい場合は、申請する必要があります。内相は、19歳のベガムさんから英国の市民権を剥奪しても、「無国籍にはならないと考えた」ようです(BBCニュース、2月21日付)。しかし、バングラデシュ政府によると、彼女は二重国籍を持っておらず、「バングラデシュ国民ではない」そうです。

3人目の子供はベガムさんの市民権剥奪の前に生まれたために英国籍を持つことになりました。しかし今月上旬、肺炎で亡くなり、サジド・ジャビト内相への批判が一斉に噴出しました。

ベガムさんの両親は娘が英国へ帰国することを望んでいます。しかし夫の元IS戦士(シリアの拘置所に収監中)は、ベガムさんとともにオランダで生活することを願っているようです。

ベガムさんが英国に帰国した場合、反テロ法を含め何らかの違法行為を行ったことを裁判で証明するのは難しい見込みです。ベガムさん自身はメディアに「シリアへの渡航は後悔していない」と述べ、2017年にマンチェスター・アリーナで発生した爆破テロ事件(ISが犯行声明)を「間違いだ」としながらも、IS掃討作戦でも女性や子供が殺されていることを指摘し、「ある種の仕返し」と述べて、ISの行為を正当化するような発言もしています。

筆者は、ベガムさんの境遇に同情を感じる一方で、帰国すればIS支持者のアイコン的存在になる可能性を懸念しています。ただ、英国への帰国はいつか実現するのではとも思っています。人道的見地からの帰国支援の運動が続きそうだからです。

キーワード

イスラム国(Islamic State(IS))

2014年6月、イスラム国家としての樹立を宣言した国際テロ組織アルカイダ系の過激派組織。イラク西部からシリア東部を拠点とし、最盛期には両国の3分の1の領土を支配。米国を中心とした有志連合や少数民族クルド人を中心とする武装組織「シリア民主軍(SDF)」のIS掃討作戦によって、壊滅状態にあるとされる。
 
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