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Wed, 12 August 2020

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

新型コロナウイルスNHSは感染者急増に対処できるか - 政府はスタッフ増強、緊急病院設置を確約

新型コロナウイルスの感染拡大がなかなか止まりません。国内の感染者数は1万9522人(3月29日時点)で、死者は1228人(同28日時点)に上りました。英政府は、防止策として国内に住む人に他者との接触機会を減らす「社会的距離戦略(Social distancing)」に沿った行動をするよう求めていましたが、これを守らない人もいたため、3月23日、ボリス・ジョンソン首相は官邸からテレビ演説を行い、国民に向けて不要不急の外出禁止を発表しました。レストラン、パブ、スポーツ・クラブ、小売店舗(医薬品や日用品を扱う場合を除く)には閉鎖令、働く人にはできうる限り自宅勤務をする要請が出ました。また、咳が止まらない人、発熱などの症状を持つ人やその家族は自宅待機(Stay at home)によって社会から隔離(Social isolation)する必要があります。完全な封鎖(Lock down)とまではいきませんが、かなり厳しい行動制限と言えるでしょう。

このような感染防止策を取る理由として、首相は一度に多くの重症者が出れば国民医療制度(NHS)が対応しきれなくなり、そのために亡くなる人が増えると警告を発しました。

英国に住む私たちにとってNHSはとても身近な存在ですが、近年は財政難や人手不足が指摘されてきました。果たして、新型コロナウイルスの感染による医療需要の増大に十分に対応できるのでしょうか。心配されている点を見てみましょう。

まずNHSスタッフ自身が感染しないための医療用マスク、体全体を覆うガウン、保護用メガネ、手袋の一式(Personal Protective Equipment = PPE)が十分に行き渡っていないそうです。ソーシャル・メディア上にはゴミ袋をガウンの代わりにしたNHSスタッフの姿がアップされました。これを受けてマット・ハンコック保健相は同24日、750万個に上るPPEをNHSスタッフ用に調達し、不足の場合は配布依頼を受け付ける24時間対応の専用電話も準備したと発表しました。

感染を判断する検査件数が十分ではないことも懸念です。保健・ソーシャルケア省と公衆衛生庁の調べによると、29日時点で国内で検査を受けた人は12万7737人。検査機材や人的資源に限界があり、1日の検査数は5000から6000にとどまっています。また、検査対象は入院している人に限っていましたが、数日前にようやくNHSスタッフへの検査が始まったばかりです。

そして最大の懸念は病床と人員の不足です。対策としては、NHSは緊急ではない手術に関しては先延ばしにするとともに、早めの退院を奨励しています。また、新型コロナウイルスの感染で入院した場合、患者は集中治療室に入ることになりますが、現在、NHSにある集中治療室のベッド数は約4000。3月上旬時点、その80%が使用中です。加えて、新型コロナ感染者の症状は発熱や咳から始まって肺炎や急性呼吸器症候群、多臓器不全などの重症に推移していきますので、人工呼吸器は必須の医療器具なのですが、国内にある現在の8000台では不足するといわれています。民間の病院から調達、あるいは自動車メーカーを含む医療機器以外の企業が製造に取り組むなどの努力が始まっています。

政府は、ロンドン東部にあるイベント会場「エクセル・ロンドン」に最大で4000人の患者を収容できる簡易施設「NHS ナイチンゲール病院」を準備しています。一方、退職した医療関係者に再度現場に戻ってほしいというハンコック保健相の呼びかけに、約1万2000人が応じたそうです。さらに、食料や医療品の配達のために25万人のボランティアの募集を開始したところ、1日で50万人以上から応募がありました。医療体制の充実化が感染者の増加の速度に追いつくのかどうか。時間との戦いになってきました。

キーワード

Public Health England(公衆衛生庁)

保健・ソーシャルケア省の執行機関の一つ。公衆衛生についての科学的な専門知識を政府、地方自治体、NHS、国会、企業、一般市民に提供する。2013年、公共衛生関連の組織を統合して発足し、5500人のスタッフを抱える。管轄はイングランド地方だが、ウェールズ地方、スコットランド地方、北アイルランド地方の同様の組織との連携を密にする。新型コロナウイルスによる感染者情報をまとめ、公表している。

 
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