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日経電子版Pro
Thu, 26 November 2020

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

「フィンセン文書」大手金融機関の資金洗浄疑惑を暴露 - 英HSBC、バークレイズが不正を看過?

世界でも有数の大手金融機関が、総額2兆ドル(約210兆円)に上る不正資金の資金洗浄(マネーロンダリング)に手を貸していたことを示唆する資料が暴露されました。金融機関が米当局に報告した「疑わしい取引」についての文書が流出し、9月20日前後から大々的に報道されるようになりました。

一連の文書は「フィンセン文書」と呼ばれています。「フィンセン」とは聞きなれない言葉ですが、米財務省の金融犯罪取締ネットワーク(Financial Crimes Enforcement Network、=FinCEN)のこと。流出した2657件のファイルはそのほとんどが2000年から2017年のもので、この中の2121件が不審行為報告書(Suspicious Activity Reports=SAR)でした。世界の金融機関は顧客が不審な動きをしていた場合、資金洗浄やテロ組織への貸し付けなどの犯罪を防ぐため、SARを規制当局や犯罪撲滅機関に提出しなければなりません。

通常は極秘資料になりますが、まず米バズフィード・ニュースがこれを入手。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が共有して、世界の108の報道機関の記者が1年4カ月をかけて難解で技術的な文書を読み解きました。英国の報道機関ではBBC、日本でも朝日新聞や共同通信が参加しています。なお、FinCENはSARを許可なく開示することは犯罪であると9月1日付の声明文で述べており、1月には元米財務省官僚がバズフィードに文書を違法開示した罪で有罪になりました。バズフィード側は情報源を明らかにしていません。

「疑わしい取引」自体が犯罪や過失を証明するものではありませんが、これまでに報道された事例を見てみましょう。SARの大部分はドイツ銀行が出したもので、総額は1.3兆ドルに。そのほとんどはロシア人の富裕層顧客の資金洗浄をほう助した事件に関わるもので、ドイツ銀は内部統制の不備に対する処分として2017年に総額6億3000万ドルもの制裁金の支払いを科されています。数年間にわたり、100件以上のSARを提出していたにもかかわらず、ドイツ銀はほう助を止めませんでした。

英HSBC銀行は、米捜査当局が投資詐欺を指摘していた顧客による数百万ドル規模の海外送金を承諾していました。ロシアのウラジミール・プーチン大統領の側近の1人は、米国や欧州連合(EU)が科した金融資産の凍結やほかの制裁を避けるため、バークレイズ銀行のロンドンの口座を利用して資金洗浄をしていました。フィンセンの情報部は英国をキプロスなどと同列となる資金洗浄の高リスク区域と見ています。フィンセン文書に出てくる英国企業は3000社を超えており、ほかのどの国よりも多いのです。日本関連では、東京五輪・パラリンピックの招へい委員会がコンサルト業務を委託した会社から、国際オリンピック委員会の有力委員の息子とその会社に約37万ドルを送金していたこと分かりました。招へい委員会の資金が不正に使われた可能性が出ています。

近年、大規模な金融情報のリークを基にした報道が続いています。2016年に各国首脳人や著名人らの資産運用を暴露した「パナマ文書」や、2017年に政治家や著名人、企業の経営者などが多額の資産を租税回避地に置いていることを暴露した「パラダイス文書」などが有名です。ただし今回は、一つか二つの組織からの情報ではなく、数多くの金融機関が作成した報告書の情報を基にした点が異なります。「疑わしい取引」に気付いていたはずの各銀行がなぜすぐに行動を改めなかったのか、大きな疑問が出てきますよね。9月18日、政府は詐欺や資金洗浄を防ぐため、「企業登記局による身元確認が行われた人物でない限り経営陣に就任できないなど経営の透明性を高める」、「犯罪捜査局の捜査力を強化する」などの施策を発表していますが、果たしてどれほど効き目があるでしょうか。

キーワード

Money Laundering(資金洗浄)

犯罪行為によって得られた資金の出所を消し、正当な手段で得た資金と見せかけること。英犯罪資産法ではあらゆる種類の犯罪資産の処理およびこれを補助することを含む。具体例として租税回避、窃盗、詐欺、収賄、密輸、人身売買、違法な武器売却など。またテロ法によってテロ行為に資金を提供することが禁止されている。いずれの場合も、金融機関には疑わしい案件を当局に報告する義務がある。

 
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