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Thu, 28 March 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

難民申請者をルワンダへ移送新政策に非難殺到 - 首相は「卑劣な人身売買業者」から守るためと説明

「1月1日以降英国に不法入国した人は、今日からルワンダに移送される可能性があります」。4月14日、ボリス・ジョンソン首相が議会でこう述べたと知り、思わず「ルワンダ?」と耳を疑いました。英国から約6500キロも離れたアフリカ東部の国への移送とは、一体どういうことなのでしょう。

背景にはジョンソン政権の頭痛の種となっていた、小型ボートで英仏海峡を渡って英国に不法入国しようとする人々の存在がありました。2020年、密航者数は約8400人でしたが、21年には2万8500人超に増加(政府調べ)。国境警備隊によると、今年は6万人近くに上る見込みです。昨年11月、ゴムボートの一つが沈没して27人が死亡する悲劇も発生しました。英仏海峡は世界でも特に往来が多い航路で、英国に密航しようとする移民や難民申請者が転覆死亡事故に遭う例が多発しているのです。

内務省の調べによると、昨年はこの航路を使って英国を目指す密航者の75%が18歳から39歳の男性でした。30%がイラン、21%がイラク、11%がアフリカ大陸北東部のエリトリア、9%がシリア出身者です。密航者の中にはよりよい生活を求めて国を離れた人、あるいは紛争や迫害など自発的でない理由で移動を強いられた人などが混在しているとみてよいでしょう。後者の条件を満たす「難民」として認定されると、扶養家族とともに5年の滞在資格を得ることができます。難民認定が得られなくても人身売買の犠牲者であった、あるいは帰国すれば死刑の宣告を受けるなどの理由でも滞在が可能です。

英国の欧州連合(EU)からの離脱を達成させたジョンソン政権にとって、密入国問題の解決は大きな政治課題です。不法入国者を阻止できないようでは離脱の主目的の一つ「自分たちの手による国境管理」を実践したことになりません。昨年来、政府は難民申請体制をより公正にし、密入国を阻止するための「国籍及び国境法案」の法制化に力を入れてきましたが、この流れで英政府とルワンダが交わしたのが5年の期限付きの「移民及び経済開発協定」で、独身男性が対象です。英国はルワンダ経済に1億2000万ポンド(約200億円)を投資し、移送された人々はルワンダで亡命申請手続きを行います。申請関連の費用は英国が負担し、危険な渡航を停止させるための抑止効果を狙っています。

難民申請者を第3国に移送するのは英国が初めてではなく、オーストラリアやイスラエルも実行していますが、今回の移送政策が発表されて間もなく、160を超える慈善団体が「残酷」と非難しました。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「十分な安全対策や基準がなく難民や申請者を第3国に移送することに反対する」と表明しています(声明文)。移送は難民申請者に対する「庇護義務を単に移動させるだけであり、国際的な義務を回避し、難民条約の精神に反する」と。

ジョンソン首相は「ルワンダは世界で最も安全な国の一つ。移民受け入れの実績もある」と強調しました。実際に、人口1300万人のルワンダは隣接するコンゴ民主共和国、ブルンジとともにリビアやアフガニスタンなどからの約13万人に上る難民・移民申請者を受け入れているのですが、UNHCRはルワンダは長年にわたって難民の「安全な避難場所となってきたが、収容所滞在者の大部分には経済活動への十分な機会が与えられていない」と指摘しています。

UNHCRはまた、「戦争、紛争、迫害を逃れてやってくる人には思いやりと共感が与えられるべき」で、「モノのように取引され、海外で処理されるべきではない」、そして「富裕な国はルワンダやルワンダ内の難民を支援するために連帯するべき」で、その逆であってはならないと警告しています。読者の皆さんはどう思われますか。

キーワード

難民条約(Refugee Convention)

「難民の地位に関する条約」(1951年)と「難民の地位に関する議定書」(1967年)を合わせた名称。難民の定義は「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員、または政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために国籍国の外にいる者で、その国籍国の保護を受けられない者、またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者」。

 
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