2023年の流行語「rizz」「hallucinate」 - オックスフォードとケンブリッジ辞書の見立てとは
毎年恒例の「今年の言葉」が発表される時期となりました。最も著名なのはオックスフォード大学出版局の辞書部門「オックスフォード・ランゲージ」による選出です。その年の価値観やムードを代表し、今後も文化的重要性が継続すると思われる言葉や表現が選ばれます。昨年からは、辞書部門の専門家たちが22億もの単語のデータベースから複数の言葉をリスト化し、読者がこれに投票。その結果を見て最終的に判断が下されます。今年は約3万人が票を投じました。最多の票を集めた四つの中から最終的に選ばれたのは「rizz」。皆さんはこの言葉をご存知でしたか。言語学的には「charisma」(カリスマ)が短くなったもので、独特の様式、魅力、人を惹きつける能力などを指します。10代を中心とした若者層がネット上でよく使う言葉だそうです。最後の四つに残ったほかの言葉は「Swiftie」(米歌手テイラー・スウィフトのファン)、「prompt」(AIに与える指令)、「situationship」(まだ固定化していない恋愛関係)でした。投票対象となったほかの言葉は、「beige flag」(パートナーあるいは潜在的パートナーが退屈な人であること)、「parasocial」(著名人などに一方的な愛情を抱くこと)、「heat dome」(特定の地域での高気圧の天候)、「de-influencing」(特にソーシャル・メディア上で製品の購買を止めるよう奨励すること)。など、若者層がネット上で使う言葉がますます英語の語彙に入ってきたようです。
一方、「世界の英語学習者の中で最も利用されているオンライン辞書」を自負するケンブリッジ・ディクショナリーも今年の言葉を発表し、2023年を代表する一語として「hallucinate」を選んでいます。通常は「健康上の理由などから幻覚が起きる」という意味に使われますよね。でも、最新の文脈では「AI が幻覚を起こし、間違った情報を生み出すこと」も指すようになったのです。この「AIによる幻覚」が発生すると、ばかげた回答が出たり、一見もっともらしく見えても、事実に反する、あるいは論理が整合しない答えとなったりすることがあります。実際に、ある米国の法律事務所がChatGPTを使って調査をし、その結果、架空の事例が法廷で引用される事態が起きています。
ケンブリッジ・ディクショナリーによると、AIについての議論が盛んに発生した今年は、非人間的存在を擬人化する(「anthropomorphise」)行為がよく行われるようになったそうです。この場合の擬人化とはAI技術を私たち人間のように話し、書き、考える存在として捉えることです。ケンブリッジ大学のAI倫理の専門家は以下のように説明しています。まず、噂やプロパガンダ、偽情報など不正確なあるいは間違った情報が広まることは、これまでにもありました。でも、AIが間違った情報を生み出してしまうとき、「AIによる幻覚」であると認識するということは、普通は幻覚を起こす主体は人間ですので、AIを擬人化していることになるというのです。確かに、私たちはAIを人間のような主体的意志を持つ存在として認識するようになってきました。
コンピューター関係では、ほかに人間の自然な会話に近い流ちょうなやり取りや、自然言語のさまざまな処理を高精度で行う「LLMs」(Large Language Models=大規模言語モデル)、「GenAI」(生成AI)などが時代を表すものとして紹介されました。
コンピューター関係以外では、「implosion」(何かが突然完全に失敗する状況)、「ennui」(アンニュイ、面白いことがなく退屈していること)、「grifter 」(だましてお金を取る人)、「GOAT」(Great Of All Time=これまでで最高の略語。特にスポーツにおいて誰よりも素晴らしい成績を残した人)などが挙げられました。筆者はAIやChatGPなどが今年を代表する言葉になるだろうと予想したのですが、オックスフォード・ランゲージズの選択した「rizz」には驚きました。来年も予想外の言葉が出てきそうですね。
Rizz(リズ)
独特の様式、魅力、恋愛相手の心を捉える力を指す。「rizz up」で「魅惑する、誘惑する」に。ゲームやインターネット上で10代を中心とした若者層が使う。昨年、米ユーチューバー、カイ・スナットが視聴者にどうしたら「rizz」を持てるかを指南して広がり出した。「charisma」の中ほどにある「ris」が転用されている。