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Mon, 19 August 2019

知って楽しい建築ウンチク
藍谷鋼一郎

ザ・ウォッピン・プロジェクト

ロンドンの魅力の一つとして、古いモノと新しいモノが、それぞれの個性を主張しながらも上手く共存していることが挙げられる。建築や街並みにおいても然りで、古い時代の建築と新しい時代の建築はときに融合、ときに反発を繰り返しながら、時代の流れを感じさせる味わい深い都市空間を築いている。

ザ・ウォッピン・プロジェクト内部
発電所の機械設備などが剥き出しになった内装

感覚を刺激する空間

ロンドン東部のテムズ河沿いにウォッピンという地区がある。かつての倉庫街が集合住宅やレストラン・バーに改造されて、ホットな地区になりつつある場所だ。ノスタルジックな雰囲気が漂うこのエリアの一画には、とりわけ異彩を放つ建物がある。1977年に閉鎖された水力発電所を、アート・ギャラリーやレストランとしてリニューアルした「ウォッピン・プロジェクト」だ。

ザ・ウォッピン・プロジェクト内部
店内には現代アートが飾られている

オーストラリア人のアート・ディレクター、ジュールズ・ライト女史が400万ポンド(約8億円)をかけて、廃屋となった発電所をインダストリアルなテイストで感覚を刺激する空間へと変換した。1993年にパフォーミング・アートの舞台としてこの建物を利用した時に得た強烈な空間体験を、継続的な舞台装置として再生させる想いに駆られた。そのためには、食とアートを複合させることが理想と判断したそうだ。実際、同店が提供する豊富なオーストラリア産ワイン、モダン・ヨーロピアン・フードの味は絶品だ。そこは食やお客までもがアートの一部となった、クリエイティブなショーケースになっている。

工場の中に現代アート

ウォッピン・プロジェクトと似たような建物として、ロンドンにはかつての火力発電所を現代美術館に改造したテート・モダンがある。同美術館は既存の建物の外観を残し、内部に展示空間を挿入させることで、発電所が美術館として生まれ変わった。そのテート・モダンと比べると小振りだが、ウォッピン特有の魅力とは内部において過去の面影が随所に見られる点だ。

ザ・ウォッピン・プロジェクト内部
トイレにも変わった趣向が凝らされている

内部では、発電所で使用されたタービンや機械設備が、一つのアート・ショーとして視覚に訴えかけてくる。天井から吊り下げられた鎖やフック、工場の建築に多用された天窓。そこに配置された色鮮やかなデザイン・チェア。奇抜なフォルムが特徴的な家具メーカー、ヴィトラのコレクションから選ばれた斬新な家具は一見ミスマッチに思えるが、工場という過去の遺物の中に溶け込み、現代アートのインスタレーションと見事に調和している。機械オイルの匂いがかすかに残っている演出もシュールで良い。また地下に降りると、薄暗い大空間が本格的なギャラリーになっており、定期的に企画展示が行われている。

建築で歴史を再生する

ザ・ウォッピン・プロジェクト内部
かつては水力発電所だった建物

新しい建物で、時代の流れを感じさせるモノを作ることは、不可能に近い。当たり前のことだが、新築建築に時代をさかのぼる力は存在しないからだ。しかし、古い建物を再生させると、これがいとも簡単に達成される。

ロンドンには再生させるに値する古い建物がたくさんある。新旧あいまった味わい深い都市景観が築き上げられていることこそ、ロンドンの本質であり最大の魅力と言えるだろう。

 
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藍谷鋼一郎:九州大学大学院特任准教授、建築家。1968年徳島県生まれ。九州大学卒、バージニア工科大学大学院修了。ボストンのTDG, Skidmore, Owings & Merrill, LLP(SOM)のサンフランシスコ事務所及びロンドン事務所で勤務後、13年ぶりに日本に帰国。写真撮影を趣味とし、世界中の街や建築物を記録し、新聞・雑誌に寄稿している。
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