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Wed, 09 October 2024

Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 小林ひかる

第8回 ピーターラビットとの意外な接点 小林ひかる

「ビアトリクス・ポターの物語」では、黒ぶたのピグウィグちゃんを演じています。

第8回 ピーターラビットとの意外な接点

6 January 2011 vol.1282

幼い頃の思い出。ピーターラビットと一緒に 幼い頃の思い出。
ピーターラビットと一緒に

大忙しなオペラ・ハウスの冬シーズン。クリスマスから新年にかけての2カ月間は、特に公演回数が増える時期です。子供たちも大人たちも(私たち以外……)休暇に入るので、オペラ・ハウスはここぞとばかり、毎日のように連日、何かしらの演目を上演しています。

クリスマスはともかく、大晦日、正月三が日にゆっくり……などとんでもない! のんきにお酒など飲んでいられません(今年は幸運なことに、オペラ・ハウスを共有しているオペラが元旦、2日と働いてくれます!)。公演も、2演目、3演目と重なってしまい、「あれ、今日は何のバレエで何の役だっけ?」と自分で混乱してしまうときもあるくらいです。

公演だけならばまだしも、リハーサルも過激になり、とんでもない日は、1日に6演目もの異なる作品のリハーサルを行い、その上に公演をこなさなければなりません。体だけではなく、頭もパンクしそうな毎日ですが、やはりみんな踊ることが好きなのですね、文句を言いながら、がんばっています。


このシーズンの恒例といえば、「くるみ割り人形」「シンデレラ」などがありますが、ロイヤル・バレエ独特の出し物、「ビアトリクス・ポターの物語」は、大いに子供たちに受けます。あの有名なピーターラビットのキャラクターたちが、まるで絵本から飛び出したように舞台で舞うのです。私もその登場キャラクターの一人(一匹?)、「こぶたのピグリン・ブランド」の恋人、黒ぶたのピグウィグちゃんを演じています。

自分の3倍ぐらいある着ぐるみと、頭からすっぽりかぶる動物のマスクを着けて踊るこのバレエは、私たちに言わせると、いわゆる苦悶です。特に黒ぶたちゃんは、ただでさえマスクの視野が悪いのに、色はもちろん黒いため、よけい見づらくなるのに加え、手にはぶたの3本指の手袋も着けなければならないので、愛のパドゥドゥ(男女2人で踊ること)を踊るにもひと苦労です。


昔、日本でモデルをやっていたとき、キューピーマヨネーズの広告モデルに起用されたことがあります。なぜいきなりそのような話に飛んでしまったかというと、実はピーターラビットがそのキューピーマヨネーズ広告のイメージ・キャラクターで、私はぬいぐるみのピーターラビットと一緒に、にこやかにポスターの中で笑っているのです——これは運命なのでしょうか?

ピーターラビットは男性の役なので残念ながら私は踊ることができませんが、昔からピーターとは縁があるみたいですね。舞台でもさすが人気者、出て来たとたん、客席から歓声が上がります。


このように日々違う演目を踊っているので、きっと皆さんは、どのように頭の切り替えをしているのだろうかと思われるのではないでしょうか。人それぞれだと思いますが、やはり最後は衣装と音楽の力でしょう。不思議と曲を耳にすると、すっと頭がその役に切り替わり、衣装を着ければすっかりその雰囲気に飲み込まれるのです。

よく考えると、日常生活でもそのようなこと、ありませんか? おしゃれなスーツを着るとジェームス・ボンドになったような気分に陥ったり、セクシーなドレスを着けると、ボンド・ガールになったような気持ちになったり。まるで魔法にかかったように……。

 

小林ひかる
東京都出身。3歳でバレエを始める。15歳でパリ、オペラ座バレエ学校に留学。チューリッヒ・バレエ団、オランダ国立バレエ団を経て、2003年から英国ロイヤル・バレエ団に入団。09年ファースト・ソリストに昇進した。
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