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Wed, 12 December 2018

Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 蔵 健太

第31回 もう一つの「目」

6 December 2012 vol.1376

以前このコラムで、自分らしさと感覚を大事にして舞台に立っていきたいと話したことがあったが、そういった感覚を養うためにはどうしたらいいのかと尋ねる質問が、自分のブログにくることがある。個人で行っているワークショップなどでもこうした質問をもらうことが多いのだが、決まって同じような答えをしている。「まず目を養いなさい」。そして「何が良くて何が悪いか、自分自身で判断出来る目を養いなさい」と、何度も繰り返す。

まずは踊りの上手なダンサーを見つけて、その踊り手の何が良いのか、どう踊っているのか、きちんと判断する。世界共通だが、バレエの稽古場ならばどこにでも鏡が置いてある。それは自身の姿を自分の目で見て、自らの良し悪しを判断しなければならないからだ。

しかしその一方で、きちんとしたやり方を身に付けなければ、どんなに上手になろうと思っても技術が発達しないというのもまた事実。そこで必要になってくるのがコーチの存在だ。自分は小さなころから女性の先生の下でバレエを勉強したので、男女共通の基礎ステップを学ぶまでは問題なかったが、男性専門のジャンプや回転テクニックを学ぶのに苦労した。ビデオを何度も観て、ほぼ独学で勉強したが、大会などで男性のコーチに指導してもらったときには、自分でも分かるくらい実力が伸びた。

先日までロイヤル・オペラ・ハウスで上演されていた「白鳥の湖」のリハーサルでの話。自分は1幕のパドトロワ(3人の踊り)にて男性のソロの役を任されていたのだが、ソロの最後にステージ上を円形にジャンプする技がうまく出来ずに悩んでいた。何度もやり方を変えてみたが本番一週間前まで上手くいかなかったので、コーチに相談してみた。

「バレル・ターン」と呼ばれるその技には、空中で上方向に視線を向けるのと下方向に向けるのと、2通りのやり方がある。今まで自分は前者だったが、コーチの進言に従い、後者に変えることに。するとそれまで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなるくらい、すっと出来るようになった。コーチはそのとき、こう言った。「どの人間も容姿が異なるし体力や筋力も違う。自分自身に合うやり方できちんと表現できればそれでいい」と。すぐに自分の足りない点を指摘できるコーチの「目」に感服した。

「白鳥の湖」のパドトロワ役 コーチのアドバイスを基に踊った「白鳥の湖」のパドトロワ役

ステージに立つまでのプロセスは大きく分けて3通りに分かれる。まずは基礎体力作り。ダンサーには開脚などのストレッチが欠かせない。そして次にバレエ・クラスでのレッスン。音楽とともに基本から応用までのステップに磨きをかける。そして最後にリハーサル。クラスで学んだことを実際の踊りに当てはめて完成度を高めていく。

ロイヤル・バレエ団には、これらプロセスのそれぞれに専属コーチがいる。どのコーチも考えるところは一緒。ステージでダンサーが自分に合ったやり方で自由に自己表現できるようにするには、どうしたらよいのか。ダンサー自身がどれほど良いと思っていても、他人が観たときにそれが良いとは限らない。だからこそ、「客観的に判断する目を持った指導者」という存在がなくてはならないのだ。自分が大好きなロシア人のコーチは、「バレエは自分が求めるものではなく、客席から求められるもの」だと言う。自分らしさを無くしてはいけない、しかし自己満足になってもいけないということを分かってほしいというコーチの願いが、いつも伝わってくる。

プロ・シーズン16年目が始まったばかりだが、今日も学ぶことばかりだ。現役をどれくらい続けていけるか分からないが、これからも自分らしさと感覚を大事にしてくれるコーチとともにステージを楽しんでいこうと思う。

 
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蔵 健太
1978年8月2日生まれ。北海道旭川出身。95年にローザンヌ国際コンクールに出場し、スカラーシップ賞を受賞。ロイヤル・バレエ学校で2年間学んだ後、97年にロイヤル・バレエ団に入団する。現在、ソリスト。http://kentakura.exblog.jp
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