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Thu, 28 March 2024

第21回 頭と刃は切れるうちに

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聖ポール駅の西側にあるウォーリック・レーンに、カトラーズという刃物職人組合のホールがあります。ホール正面にはテラコッタで刃物の製造場面が描かれており、見るたびに「頭とカッターは切れるうちに使ってね」と子供のころに言われたことを思い出します。カトラーズの紋章に象が使われているのは、昔から象牙が刃装具に使われているからですが、よく見ますと「エレファント & キャッスル」、象の背中にはお城がのっています。

「象と城」の看板「象と城」の看板

古代ローマでは戦車の代わりに象を利用したといいますし、とてもパワフルなイメージが欧州に定着しているようです。本来、象の背中にはお城ではなく、ハウダー、つまり、天蓋のある象カゴがのせてあるはずですが、シティの刃物職人には、ニシン御殿の様に、象牙のおかげでお城が建った象牙御殿のイメージの方が合うのかもしれません。古くから刃物は道具にも武器にも使われ、カトラーズは指折りの老舗ギルド=職人組合です。

正面玄関のテラコッタには刃物製造場面正面玄関のテラコッタには刃物製造場面

彼らは13世紀に組織され、15世紀に勅許状を獲得。17世紀初めに「象と城」の紋章が認められました。刃物の生産はイングランド北部のシェフィールドに任せ、業界規則や品質の管理を請け負ったといいます。17世紀に設立された王立アフリカ会社も紋章に「象と城」を使い、ギニア産のゴールドから作られたギニー金貨にその姿が彫られたことで一躍有名になりました。ロンドン南部の地名、エレファント & キャッスルも18世紀の旅籠屋の名が直接の由来ですが、この旅籠屋が建つ前には鍛冶場があり、カトラーズと関係がありました。

切れる刀を作るには熟練の技が必要切れる刀を作るには熟練の技が必要

カトラーズ・ホールが今の場所に移転してきたのは1888年。それまでは王立内科医協会がここにありました。王立内科医協会の建物の設計者は科学者ロバート・フック。彼は物理学者にして博物学者、かつ天文学者でもあり、国王の測量官として1666年のロンドン大火後のロンドンの復興を導いた人物です。

玄関の取っ手も象だゾウ玄関の取っ手も象だゾウ

王立内科医協会の前にこの地に存在した建物は、ウォーリック伯爵の邸宅(のちに宿屋)でした。これがウォーリック・レーンの名の由来になります。特に第16代伯爵はバラ戦争で活躍し、ヘンリー6世とエドワード4世の王位を操ったキング・メーカーと呼ばれ、非常に頭の切れる人物でした。ですからここは、切れ者伯爵邸→天才科学者と医療メス→刃物職人組合と、「切れ味」が専売特許の場所というわけです。どうぞ、頭と刃は切れるうちに……。

王立内科医協会の跡地の印王立内科医協会の跡地の印
 
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シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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