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Thu, 28 March 2024

英国の政治スキャンダル史 - 「パナマ文書」だけではない賄賂、愛人、スパイ、利益相反行為……

租税回避地を利用する顧客の情報を記載した
「パナマ文書」の流出をきっかけとして、
キャメロン首相に退陣を求める声が出始めている。
日本でも「政治とカネ」に関する話題は尽きないが、
もちろん英国の政治家も、
金や愛人に絡んだスキャンダルと無縁なわけではない。
現政権を担う保守党議員が過去に関わった事件を中心として、
英国の政治スキャンダルを紹介する。

*本文中に記載の役職名は事件当時のもの

パナマ文書流出とは

キャメロン首相2010年に政権の座に就いて以来、コーヒーのチェーン店スターバックスやインターネット検索大手グーグルといった国際的な企業の課税逃れを徹底的に追及してきたデービッド・キャメロン首相。英国内だけでなく、主要8カ国(G8)首脳会議(サミット)などを通じて、課税逃れを防ぐ枠組み作りにおける国際協調を呼び掛けてきた。しかし、「パナマ文書」と呼ばれる、パナマの法律事務所が保有していた顧客情報が流出したことにより、亡父が租税回避地に設置したファンドに首相自身が投資していたことが発覚。このファンドを通じて利益を上げ、また両親から計50万ポンド(約7500万円)に及ぶ資産を受け取るために節税対策を取っていたことも判明した。

これら一連の行為は合法ではあったものの、同じく合法的に節税していた国際的企業は厳しく批判していただけに矛盾が露わに。さらにはキャメロン首相の親族が資産家であるとの事実が改めて浮き彫りとなり、低所得者層からの反発を呼んでしまった。

1923年

現在なら完全に違法な取引
石油会社から金銭授受
ウィンストン・チャーチル 自由党、保守党

ウィンストン・チャーチル

第二次大戦で英国を勝利に導いた名宰相、ウィンストン・チャーチル。BBCが集計した「100名の最も偉大な英国人」ランキングで第1位に輝いた、英国で最も尊敬を集める政治家の一人である彼にも金銭スキャンダルが。

チャーチルは、自由党政権の海軍相を務めていたころに、イランにある油田の利権を買い上げるよう政府を説得した(この利権の保有会社が現在の石油大手BP)。この一件などがきっかけとなり、内閣の役職を外れた後も、石油関連政策に通じた政治家として周囲から認知されるようになる。これに目を付けた2つの石油会社が、5000ポンドを支払い、チャーチルをコンサルタントとして雇用。チャーチルは、現在の価値に換算すると約2000万円に相当する大金を受け取った上で、この2つの会社と、英政府が事実上保有する大手石油企業が合併できるよう政府に働き掛けたという。チャーチルはこの翌年に保守党へと鞍替え。やがて首相へと上り詰めるまでになるのは、周知の通りだ。

チャーチルが行った取引は、現在の観点で言えば明らかな収賄行為となるが、当時はまだ「政治とカネ」に関する法制が整っていない時代。違法ではなかったものの、BBCは「チャーチルの経歴に関する問題点」の一つであったと述べている。

1963年

20世紀最大の政界スキャンダル
プロヒューモ事件
ジョン・プロヒューモ陸軍相 (ハロルド・マクミラン政権)

「20世紀最大の英政界スキャンダル」として語り継がれる事件。1961年のある日、プロヒューモ陸軍相は、イングランド中部バッキンガムシャーにある大邸宅のプールで開催されたパーティーに参加していた。彼は、このプールで裸になって水泳を楽しんでいた売春婦のクリスティーン・キーラーに惹かれてしまい、やがて彼女と肉体関係を持つようになる。しかし、キーラーは当時、駐英ソ連大使館付海軍武官のエフゲニー・イワノフ大佐とも関係を持っていた。当時は、英米を始めとする西洋諸国とソ連が対立していた冷戦時代の真っただ中。キーラーを通じて国家機密が漏えいする恐れがあるとして、この三角関係は政府諜報機関などから問題視されるようになる。

左:ジョン・プロヒューモ陸軍相  右:ハロルド・マクミラン首相
写真左:ジョン・プロヒューモ陸軍相  同右: ハロルド・マクミラン首相

2人の不倫関係は間もなく解消されたものの、英ソの政治家が同時期に同じ売春婦と関係を結んでいたとの事実は世間の耳目を集めるようになり、63年には政治問題へと発展。妻帯者であったプロヒューモは当初、キーラーと深い関係に陥ったことを否定していた。しかし、間もなくしてこの発言が虚偽であったことが明らかになり、責任を取って辞任。結局、プロヒューモが国家機密を漏えいしたとの事実は確認されなかったが、議会は混乱し、その半年後にマクミラン首相も退陣。保守党は翌年の総選挙で敗北するに至った。

1983年

家族愛を訴える男の不倫
パーキンソンの愛人問題
セシル・パーキンソン貿易産業相 保守党
(マーガレット・サッチャー政権)

写真左: セシル・パーキンソン貿易産業相 写真右: マーガレット・サッチャー首相
写真左: セシル・パーキンソン貿易産業相 写真右: マーガレット・サッチャー首相

今どき不倫など決して珍しくないが、清廉なイメージで知られる人物が実は不倫をしていたとなると、世間の目は一層厳しくなる。日本では、男性議員としては初めて育休を取得した政治家の不倫が発覚し、大きな批判にさらされたことが記憶に新しい。「鉄の女」との異名で知られたマーガレット・サッチャーの腹心、セシル・パーキンソン貿易産業相をめぐる不倫問題も、同様の構図を持つスキャンダルだった。

顔立ちが美しく、野心家でもあったパーキンソンは、一時はサッチャー首相の後継者とさえ噂されていた。しかし、サッチャー率いる保守党が総選挙で地滑り的勝利を収めることになる選挙当日になって、パーキンソンは自身には家族とは別に愛人がいると同党首に告白する。しかも、その愛人の父親は、娘がパーキンソンの子供を身籠っていると書いた手紙をサッチャーに送付。スキャンダルへ発展する可能性を危惧したサッチャーは、事前に予定していた最重要ポストの一つである外相への任命を撤回し、代わってパーキンソンを貿易産業相とした。

パーキンソンにとって追い打ちとなったのは、サッチャー政権が家族愛の尊さを盛んに訴えていたこと。パーキンソンの愛人が詳細を英紙に暴露してしまうと、もはや万事休す。辞任に追い込まれ、サッチャーは大切な側近を失った。

1995年

きな臭い中東マネーの行き先
エイトケン事件
ジョナサン・エイトケン財務副大臣 保守党
(マーガレット・サッチャー政権)

写真左: セシル・パーキン ソン貿易産業相 写真右: マーガレット・サッ チャー首相
写真左: ジョナサン・エイトケン財務副大臣 写真右: ジョン・メージャー首相

金銭・性的スキャンダルが相次いだジョン・メージャー政権の汚職ぶりを象徴する収賄事件。同政権で財務副大臣を務めることになったジョナサン・エイトケンは、同ポストに任命される以前に、武器輸出企業の取締役や英政府の武器調達閣外相を務めるなどして、軍需産業と深い関わりを持っていた。問題視されたのは、武器調達閣外相時代におけるサウジアラビアの王族との「黒い交際」。エイトケンがパリの高級ホテルに滞在した際、この王族らが宿泊費の支払いを行っていたとの容疑が取り沙汰されたのだ。

同疑惑は、「ガーディアン」紙とグラナダ・テレビの共同取材により発覚した。一方のエイトケンは、疑惑の詳細を暴くドキュメンタリー番組の放映3時間前に記者会見を実施。報道内容が全くのでっち上げであると訴えた。

しかし、同副大臣の妻が支払いを行ったという主張とは裏腹に、実際には1000ポンドに及ぶパリでの宿泊費はサウジアラビアの王族が支払っていたことが判明。エイトキンの家族はそもそもパリに帯同さえさせていなかったという。同氏は偽証罪と司法妨害で有罪となり、18カ月の実刑判決が下された。また偽証を行った同氏の娘も司法妨害で逮捕されるという憂き目に遭っている。

1997年

献金と引き換えに例外措置適用?
F1のタバコ広告規制問題
トニー・ブレア首相 労働党

写真左: トニー・ブレア首相 写真右: バーニー・エクレストン氏
写真左: トニー・ブレア首相 写真右: バーニー・エクレストン氏

労働党が政権を奪還した1997年の総選挙。同党は選挙期間中、欧州連合(EU)の指令を受けて、英国内でもタバコの広告を禁止することを公約として掲げていた。しかし、タバコ会社のスポンサーを多く持つ自動車レースの最高峰フォーミュラ1(F1)界は猛反発を示す。そこでトニー・ブレア首相は、労働党に対して既に100万ポンドの献金を行っていたF1運営組織のCEOを務めるバーニー・エクレストン氏と会談し、妥協策を模索。その後、同党は公約に反して、F1にはタバコ広告規制の例外措置を適用するよう主張し始めた。英国の自動車業界を保護するための措置であると説明したが、実際には「政策をカネで買う」行為であるとの批判が集中。最終的にはF1への例外措置を維持した上で、エクレストンから献金を返金するに至った。

2006年

愛する夫は詐欺師だった?
ジョウェルゲート事件
テッサ・ジョウェル文化相 労働党
(トニー・ブレア政権)

テッサ・ジョウェルリチャード・ニクソン米大統領の汚職が暴かれたウォーターゲート事件にちなんで、英語圏では政治スキャンダルに「ゲート」との接尾語を付ける傾向がある。「ジョウェルゲート事件」とは、労働党の重鎮だったテッサ・ジョウェル文化・メディア・スポーツ相の夫が、ベルルスコーニ元伊首相から賄賂を受け取っていた疑いがあるというもの。2006年に立件した伊検察によると、国際弁護士として活動していたこの男性は、裁判において偽証を行った見返りに、当時実業家として活躍していたベルルスコーニ氏から60万ドル(約6500万円)の謝礼を受け取った。またジョウェルと彼女の夫は共同名義で住宅ローンを組んでいたが、このローンは夫が受け取った賄賂の資金洗浄に使われていたとの疑いが。騒動の最中に夫婦は別居を決断。収賄疑惑に関しては裁判所が時効との判断を示して夫は無罪となった。ちなみに夫婦は現在は関係を修復している。

1976年

党首が元恋人を消すため殺し屋を雇った?
ソープ事件
ジェレミー・ソープ自由党党首 自由党

ジェレミー・ソープ保守党と労働党の2大政党制が定着した英国政治において、第3党である自由党の人気を取り戻したジェレミー・ソープ党首は、ある秘密を抱えていた。それは、同性愛者であるということ。彼が議員としての活動を始めた1960年代の英国では、同性愛者間の性交渉は違法だった。この状況に付け込んだ男性の元恋人が、長年にわたり秘密を守ることと引き換えに金銭を要求するなどしていたのである。同性愛が合法化された1970年代になっても恐喝は続き、やがてその事実は広く知られるようになって、76年にソープは党首を辞任。しかし、これだけでは話は終わらなかった。この元恋人は、ある男に飼い犬を射殺された上に自身も殺されかけたという経験を持つのだが、この一件はソープがお金を払って依頼したものであると容疑者が告発。ソープは殺害の共謀及び扇動の嫌疑で起訴されるも、最終的には無罪となった。

2010年

別宅手当の支払先は「秘密の恋人」
議員経費の不正請求
デービッド・ローズ主席財務相 自由民主党
(デービッド・キャメロン連立政権)

デービッド・ローズ英国では2009年より約1年にわたり、下院議員による経費不正請求の実態が次々と暴露された。保守党と自由民主党が連立政権を樹立した際、新内閣に入閣したデービッド・ローズ主席財務相も、この不正請求を追及された一人。ローズは、地方の選挙区出身の議員がロンドンの国会議事堂に通う際の拠点作りを支援する別宅手当を通じて、総計4万ポンドを経費として請求していた。ところが、この住居の持ち主が、半同棲状態にあった同性愛者の恋人であったことから問題に。法律上では、パートナーから借り受けた住居に議員経費を充てることは禁止されていた。ローズは金銭的な利益を得ることを目的としたわけではなく、自身が同性愛者であることを知られたくなかったがために住居の持ち主との関係を明かさなかったと釈明した上で、辞任。新内閣入りした直後のスキャンダルだったため、在任期間はわずか17日という記録的な短さだった。

 

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