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Tue, 17 July 2018

劇作家 / 演出家
永井 愛さん インタビュー

永井 愛さん日本のとある都立高校の音楽講師が、卒業式で「君が代」斉唱推進派と反対派の対立に巻き込まれる騒動を描いた芝居「歌わせたい男たち」のリーディング(朗読)公演が10月12日、ここロンドンで、日本人を始めとするアジア系の俳優たちによって英語で行われた。なぜこのような内容の作品が、英国で、英語で上演されたのか。上演に合わせて来英された作・演出の永井愛さんに、話を伺った。

Profile


ながい あい:東京都出身。桐朋学園大学短期大学部演劇専攻科卒。1981年に大石静と「二兎社」を結成。2人で同劇団の脚本、演出、出演をこなす。1991年の大石退団後、二兎社は演劇ユニットとして永井の作・演出作品を手掛けるようになる。1999年には「兄帰る」で日本の劇作家にとっては最も栄誉ある賞とされる岸田國士戯曲賞を受賞。「君が代」斉唱という社会問題に真正面から取り組み、ブラック・ユーモアとともに描き出した2005年「歌わせたい男たち」は、第13回読売演劇大賞最優秀作品賞 / 女優賞、及び優秀演出家賞を含む多数の演劇賞を獲得した。

今回リーディング公演された「歌わせたい男たち(英題: Got to Make Them Sing!)」は、「君が代」斉唱をめぐる都立高校内の騒動を描いた作品ですが、どのようなきっかけでこのようなストーリーを書こうと思われたのでしょうか。英国での上演が前提にあったと伺いましたが、なぜ海外公演でこのようなテーマを?

2004年の春、公立学校の式典で「君が代」の斉唱や伴奏を拒否したために、先生方が大量に処分されたという新聞記事を読んだことがきっかけでした。民主主義の世の中でこんなことが起きるのかと驚愕しました。処分された「250名」の数字の背後にある人間ドラマをどうしても知りたくなって書こうと思ったのです。  

もともとは、英国ブッシュ・シアターの当時の芸術監督から新作を依頼され、「日本で起きている問題なら、(国が変わっても)人類の普遍的な問題であることに変わりはないので、自由に書いていい」と言われました。これは非常に日本的な問題なのだけれども、「ローカルはかえってグローバルである」ということもあるのかなと思って。海外公演優先というよりは、日本語の公演を想定して書いています。

その後、「この芝居をロンドン市民に理解させることは不可能」という芸術監督の判断で、当時はロンドンでの上演には至りませんでした。今回、リーディング上演が実現したのにはどのような経緯があったのでしょうか。

まず、日本劇作家協会が海外に日本の戯曲を紹介するために発行した「ENGEKI」という雑誌に、マリ・ボイドさんがこの作品を選んで英訳してくださったこと、その英訳をイエロー・アース・シアター*1の芸術監督、クミコ・メンデルさんが読み、今回のリーディングで取り上げたいと推薦してくださったという幸運な流れがありました。さらに、この企画に大きく関わっていた白坂恵都子さん、演出のキム・ピアースさん、主演の森尚子さんなど、女性たちの連携プレーと、ストーンクラブズ・シアター*2、イエロー・アース、国際交流基金にご尽力いただけたことが大きかったと思います。

*1 イエロー・アース・シアター: Yellow Earth Theatre。英国に在住する東アジア系俳優の役柄の多様化を目指すカンパニー
*2 ストーンクラブズ・シアター: StoneCrabs Theatre。世界の演劇作品を紹介することを目的とする、ロンドン南東部ルイシャム拠点のカンパニー

歌わせたい男たち2005年、東京のベニサン・ピットで初演された「歌わせたい男たち」

今回の公演は英国在住の翻訳者、演出家が手掛けられました。また、英語上演でアジア系の俳優たちによって演じられるという形態でしたが、永井さんはどの程度、制作プロセスに関わられたのでしょうか。

私は制作プロセスには全く関わっていません。「こういう企画がありますが、どうですか?」と言われたので、「喜んで!」とお返事しました。キャスティングにも関わっておらず、滞在中は慌ただしくて、アジア系の俳優を選んだ理由を詳しく聞くことはできませんでした。

ロンドンでの上演ということで、戯曲の内容や演出などで大きな変更点などはありましたか。数人の登場人物が話す名古屋弁を英語公演でもあえて織り交ぜていましたが、それはなぜでしょう。

戯曲の内容を変えることは全くありませんでしたが、翻訳をアメリカ的な英語からイギリス的な英語に変えるということで、「台詞をマッサージする」という面白い言い方をして、演出家と主演俳優の森尚子さんがイギリス的な話し言葉になるように直されたと聞きました。名古屋弁をあえて残すのも(名古屋出身の)森さんから出された提案で、私は名古屋弁が英語にできるとは思わなかったので、面白いなと。グッド・アイディアでした。

日本人以外の観客も大勢いましたが、作品の意図は伝わったと思われますか。

私がアフター・トークで(参加者の感想を)聞いた際には、よく理解してくださったと思いました。日本で上演したときと同じところで笑いが起きたので、ホッとしましたね。

日本と英国で、観客の反応に大きな違いはありましたか。

観客は大体、同じところで笑っていましたけれど、細かい部分、まだ言葉がよくこなれていなくて、伝わらなかったのかな、という部分はありますね。もうちょっと稽古を積めば、もっと面白くなったかなと感じたところはありました。

日本で初演した際には、(「君が代」斉唱を訴える)校長先生の演説の場面で客席からずいぶん笑いが起こりましたが、再演では笑いが少なくなったのです。校長の演説が作者の言いたいことだと誤解した人がいましたので、ちょっと心配になりました。ロンドンの人たちはそのような誤解はなかったようですが、笑い声はあまり聞こえず、ここをブラック・ユーモアと受け止めていただけたのかどうかはよく分かりません。

今回はリーディング公演という形になりましたが、近い将来、ぜひ通常の公演の形でも拝見することができればと思いました。

私もぜひ公演できたらと望んでいます。実現した場合は、ディスカッションを重ねて、よりロンドンの観客に通じる言葉を探っていくのが翻訳公演の場合には非常に大事なことだと思いました。もし機会があったらアジア系以外の俳優にも出演してもらえたらうれしいです。

英国における昨今の演劇事情についてはどのようにお考えですか。最近は日本でも映画館で英国の演劇作品の映像を鑑賞することができるようにもなりました。

私は英語が苦手なのですが、日本でもナショナル・シアター・ライヴを通して日本語字幕付きで英国の演劇作品を観ることができるので楽しんでいます。「The Curious Incident of the Dog in the Night-Time(夜中に犬に起こった奇妙な事件)」も先に字幕付きで観ていて、衝撃的でした。デービッド・ヘア作の「Skylight(スカイライト)」も良かったです。

翻訳もたくさんされているので、日本語で観られるイギリス演劇は多いと思います。イギリス演劇は、シンプルでありながら多彩な仕掛けが施されているなど、舞台機構も優れていますし、身体性のあるステージングでも、その中心には会話劇としての面白さがあり、言葉を大切にする国としての伝統を感じます。ブロードウェイのお芝居ほど派手ではないのもいいですね。大人っぽい感じがしますし、幅広い年齢層の人たちが観に来ていて、日本と比べて演劇文化を人々が豊かに享受していることが客席からも感じられました。

 
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