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Tue, 25 July 2017

ー 6月8日に前倒し実施 ー
ブレグジットを賭けた戦いの行方は
2017年 総選挙を読む

6月8日、英国で総選挙が実施される。前回の総選挙からまだ2年しか経っていないが、英国の欧州連合(EU)からの離脱(「ブレグジット」)交渉に向けて政権基盤をより確かなものにするため、メイ首相が解散・選挙を呼び掛けた。どの世論調査も与党・保守党の圧勝を予測しているが、コービン党首率いる最大野党・労働党やファロン新党首による自由民主党は、一歩でもその差を縮めようと躍起だ。保守党は果たしてどこまで逃げ切れるだろうか。(小林恭子)

与党保守党党首のメイ首相
与党保守党党首のメイ首相

コービン労働党党首
コービン労働党党首

保守党圧勝は実現するか?

総選挙の投票日がいよいよ、1週間後に迫った。今回の選挙の注目どころは、メイ首相率いる保守党がどこまで最大野党・労働党を引き離し、「地すべり勝利」を達成できるか、だ。

首相が総選挙実施を提唱した4月末、どの世論調査を見ても保守党と労働党の支持率は20ポイントほどの差があった。「選挙をやるなら今だ」と慎重派と言われるメイ首相が思ったのも、無理はない。労働党は左派系ジェレミー・コービン氏が党首に就任して以来、内紛が続いており、コービン氏は1年に2回も党首選に立候補し勝つことで、ようやく党内の「コービン降ろし」の波を乗り切った。しかし、「党内をまとめられない党首」「実現不可能な政策を掲げる政党」という印象を完全に解消するには至っていない。

なぜ保守党がこれほど強いのか?

メイ首相は元内相であったものの、首相就任以前はそれほど著名な政治家と言うわけではなかった。しかし、英国の史上2人目の女性宰相ということで国内外から脚光を浴びた。靴フェチと大胆なファッションも好感をもって受け止められた。労働党のふがいなさとは正反対に、メイ首相は「強く、安定した指導力」を発揮したいというメッセージを発信。就任初日に「一部の特権階級のためではなく、国民皆さんのために政治を行いたい」と述べたことも強いアピール力を持った。富裕でエリート層の象徴でもあったキャメロン前首相とは違うことをはっきりと示したからだ。

ブレグジットを成功裏に導くことがメイ政権の最大の課題だが、自分自身は残留派であったにもかかわらず、首相になった途端に「ブレグジットはブレグジット」と繰り返し述べた。ブレグジットに向けての国民投票を実施させた仕掛け人とも言える英国独立党(UKIP)のお株を奪い、離脱派の支持を得ている。5月に行われた地方選挙が、これをはっきりと示した。146議席を有していたUKIPは1議席を除き、すべてを失ってしまったのである。UKIP党首ポール・ナッタル氏自身が下院選で議席を取れるかどうかも定かではない。

しかも、今回の保守党のマニフェストには、エド・ミリバンド前労働党党首によるマニフェストの影響がみられ、勤労者の権利を強くするような政策も入っている。労働党支持者をも奪うことを狙っていると思われる。5月末のマンチェスター・テロは選挙の大勢にはそれほど影響を及ぼさないと見られているが、テロを毅然と非難する首相の姿は、保守党にとって決してマイナスにはならないだろう。

5月18日の討論番組
5月18日にITVで放映された討論番組に出演したルーカス緑の党共同党首、ファロン自民党党首、ウッド・プライド・カムリ党首(写真左から右)

労働党、自由民主党が迎え撃つ

しかし、迎え撃つ労働党も黙ってはいない。中低所得者を中心に、緊縮財政に苦しむ人を支援する方策を主眼としたマニフェストを発表。「非現実的」と言われないよう、それぞれの提案にはどこからその資金を得るかを記した。選挙運動中の集会では聴衆からの質問を積極的に受けて、市民との対話を重要視。5月末時点で、保守党との差を数ポイントにまで縮小させた。

自民党も負けてはいない。前回2015年の選挙では議席を57から8に激減させてしまったが、ここまで底に落ちたらもう上がっていくしかない。EU離脱をめぐる昨年6月の国民投票では有権者の約52%がEUからの離脱を、48%が残留を希望。この48%からの支援を頼みにするのが、親欧州の自民党だ。ファロン党首は「国民は離脱を選択したが、どのようなブレグジットになるかを分からないままに離脱を選択した」が持論。このため、離脱交渉後にもう一度国民投票を行うことを提唱している。

解散前の議席数は、保守党が330議席、労働党229議席、スコットランド民族党(SNP)54議席、自民党が9議席。下院の定数は650なので、過半数を取るには326議席が必要だ。保守党と労働党との差は100議席ある。現時点では労働党が100議席以上を得て、保守党に代わり政権を担う可能性は高くない。しかし、与党との差を縮めることで保守党の政策を変更させることはできそうだ。

コービン労働党党首、ファロン自民党党首がどこまでメイ保守党の議席を崩せるだろうか。

5月18日の討論番組
5月18日にITVで放映された討論番組に出演したナッタルUKIP党首(写真左)、スタージョンSNP党首(同右)

各政党の支持率の変遷

世論調査
最新の世論調査7つの結果を用いて算出した移動中央値
Source: BBC

2015年総選挙の結果(合計650議席)

2015年総選挙の結果
Source: www.parliament.uk

主要4政党の主な政策とは

ここでは、保守党、労働党、自由民主党、スコットランド民族党の政策を、7つのテーマ別に比較してみる。

経済

  • 保守党
    2020年までに全国生活賃金を平均収入の60%のレベルにまで上昇させる。研究開発部門への投資を増加。企業が必要とする道路、鉄道、空港、高速ブロードバンドを提供する。経営陣の給与と勤労者の給与との比率を公表する。中小企業支援のため、次期会期の終わりまでに政府購入の33%を中小企業を通じて行う。
  • 労働党
    経済活性化のために今後10年で2500億ポンドを投資。超高速ブロードバンドを2020年までに普及させ、都市中心部や公共交通機関でのWi-Fiの利用範囲を拡大させる。2030年までに英国のエネルギー源の60%を再生エネルギーとする。フラッキング(石油・天然ガス採掘技術)の禁止。原発をエネルギー供給の一部とする。
  • 自由民主党
    インフラ整備のために追加で1000億ポンドを投資する。2020年までに財政赤字をなくす。高速ブロードバンドを地方に敷設する。民間資金が再生エネルギー投資に回るよう支援する。2022年までに年間30万戸の新規住宅建設を実現させる。ディーゼル車と小型バンの販売を2025年までに禁止する。
  • スコットランド民族党
    競争力を高めることを主眼に、企業への課税率を見直す。小企業支援策として、1万5000ポンド以下の資産価値を持つ企業には課税しない。2021年までに超高速ブロードバンドを全戸で使えるようにする。

税金

  • 保守党
    2020年までに個人所得の基礎控除額を1万2500ポンド(約180万円)に引き上げる。法人税を2020年までに17%に下げる。税金体制を簡素化。カウンシル・タックスの税率上昇に対して住民が住民投票を行えるようにする。VATの値上げはしない。税金逃れが起きないようにする。
  • 労働党
    年間所得8万ポンド以下の世帯に対する所得税の税率を上げない。納税者のうち95%は所得税率が上がることはない。上位所得者5%の税率のみ上がる。「税金透明性と実行プログラム」を立ち上げ、税金逃れを防ぐ。大企業には税金を少し多く払ってもらうことで、法人税を先進国の中で最も低い率にする。
  • 自由民主党
    法人税を20%から17%に引き下げる。セカンド・ホームへのカウンシル・タックスを200%上昇。高額所得者が公正な金額の税金を支払うようにする。法人税の支払い逃れに行動を起こす。新規ビジネスの立ち上げに新たに「スタートアップ用税金免除」を導入する。事業税の見直しをする。ゼロ・アワー契約による搾取を止める。
  • スコットランド民族党
    次期会期中に、所得税の基礎控除額を1万2750ポンドに引き上げる。中・低所得者を支援するため所得税の基礎税率を現状維持とする。高額所得者については最高課税率を2018年末までは現状維持とし、その後上昇させる。

医療・福祉

  • 保守党
    今後5年間で国民医療制度(NHS)予算を実質80億ポンド増。年金上昇率の「トリプル・ロック」(平均所得の上昇率、インフレ率、2.5%の3つの数字の中で最高を選択する)を2020年まで維持し、それ以降は「ダブル・ロック」(2.5%が外れる)とする。
  • 労働党
    次期会期中にNHS予算を300億ポンド増。資金源は高額所得者に対する所得税増など。一部民営化されているNHSを再国有化。次期会期中に80億ポンドを社会福祉部門に投入する。年金の「トリプル・ロック」制、冬期燃料支援費、無料バス・サービスを維持する。年金支給開始年齢の引き上げに反対。
  • 自由民主党
    所得税1ポンドにつき1ペンスをNHSや社会福祉サービスに回し、60億ポンドの投資を行う。高齢者が福祉サービスを受ける際の料金に限度を決める。NHSの内部告発者を保護。メンタル・ヘルス関連のケアを向上させ、治療を受けるまでの待ち時間を縮小。NHS職員の給与凍結を解除する。
  • スコットランド民族党
    高齢化社会に対応するため、今後5年間で13億ポンドを健康・福祉分野に追加投資する。NHSの民営化には同意しない。

移民

  • 保守党
    年間の移民流入の純増加数を数万人規模にする。非EU諸国からの移民を継続して減少させ、家族ビザで海外から人を呼び寄せる場合、ホストとなる英国民の最低年収額を上昇させる。移民統計に学生を継続して含む。学業終了後は帰国することを基本とする。移民を雇用する企業への課税額を増やす。
  • 労働党
    誰にとっても透明で公正な、新たな移民管理方法が必要。労組と協力しながら、移民を搾取する雇用主を駆逐する。流入数制限の数値目標を設けない。外国人の学生は移民数の計算に入れない。偽の大学の摘発に力を入れる。移民の適切な管理を行うが、移民流入数について嘘の約束はしない。
  • 自由民主党
    欧州人権条約からの離脱や人権法廃止の動きを止める。難民が安全で合法に英国にやって来ることができるようにする。今後5年で5万人までのシリア人難民を受け入れる。難民の子供たちで面倒を見る親がいない状態となった3000人を欧州他国から受け入れるプログラムを復活させる。
  • スコットランド民族党
    スコットランドの大きな強みは多様性であり、移民は経済と社会に大きく貢献する存在と見る。大学で学んだあとに働くことを可能にするビザの再開を望む。

欧州連合(EU)

  • 保守党
    EUの単一市場や関税同盟から撤退する。NHSで勤務する14万人のEU出身者が継続して働けるようにEU側と交渉する。次期会期の間は欧州人権条約に加盟し続ける。離脱交渉中は現行の人権法を廃止しないが、離脱後に人権に関する法律の枠組みをどうするか考える。欧州連合基本権憲章は英国の法律の中に組み込まない。
  • 労働党
    国民投票によるEU離脱という結果は認めるが、雇用と生活水準を維持し、EUと新しい関係を築くことを目標とする。英国に住むEU市民の権利を保障すると同時に、国外のEU諸国に住む英市民の権利も保障されるようにする。保守党の「大廃止案法」を却下し、「EU権利と保護法案」を提出する。単一市場へのアクセスを維持。
  • 自由民主党
    EU離脱交渉後に、合意内容の是非を問う国民投票を行う。英国に住むEU市民、及びEU内に住む英国民に同様の権利を与える。単一市場及び関税同盟に参加し続ける。EU市民の英国とEU諸国の間の自由な行き来を維持する。EU加盟国として保障されていた権利(育児休暇など)を維持する。離脱後の大学への投資縮小に反対。
  • スコットランド民族党
    保守党政権による「ハードブレグジット」に反対。もしスコットランドに利をもたらさないブレグジットが実現する見込みとなった場合、英国からの独立の是非を問う住民投票を実施する可能性もある。

教育

  • 保守党
    イングランド地方の小学校で7歳までの生徒全員に提供されている昼食制度を廃止する代わりに、年齢にかかわらず全小学生に無料の朝食を提供する。貧困家庭の子女は小・中を通じて無償の昼食が継続して提供される。グラマー・スクールの設立禁止を撤回する。
  • 労働党
    大学授業料を撤廃する。5~7歳児の学級の大きさを30人以下とする。すべての小学校での食事を無償化する。資金源は私立校の授業料への免税措置廃止。生涯教育を奨励し、無料で受講できる継続教育カレッジを設立する。
  • 自由民主党
    70億ポンドを教育分野に追加投資する。グラマー・スクール設置への動きを停止させ、地方自治体が入学や学校の新設に責任を持つようにする。低所得者家庭出身学生向けの生活支援費提供を復活させる。教師の給与上昇率を1%とする規制を解除する。性に対する固定観念や性的早熟化への対策を講じる。
  • スコットランド民族党
    生徒の学力差をなくすため、今後5年間で7億5000万ポンドを追加投資する。大学教育費は無料という伝統を守る。恵まれない家庭出身者の大学進学を支援する。

国防・外交

  • 保守党
    国内総生産(GDP)の少なくとも2%を国防費に充てる。毎年、インフレ率を少なくとも0.5%上回る比率で国防費を増やす。今後10年で新たな軍事兵器に1780億ポンドを投資。現在の軍事規模を維持する。戦略的核ミサイル「トライデント」システムを維持。退役軍人を雇用する企業には雇用保険への支払いを1年間免除。
  • 労働党
    戦争による人々の苦しみを緩和させる。中東和平の実現に力を入れる。トライデント・システムを維持。国際社会と協力して核がない世界を構築する。GDPの少なくとも2%を国防費に費やす。障害を持つ退役軍人に無料で住宅を提供する。国民総所得(GNI)の0.7%を継続して海外開発援助に投資する。
  • 自由民主党
    GDPの2%を国防に充てる。GNIの0.7%を海外開発援助に使う。サウジアラビアへの武器販売の停止。国際的な核軍縮で主導的役割を果たす。軍隊に12年以上勤務した人物が継続教育を無償で受けられるようにする。
  • スコットランド民族党
    トライデント・システムの更新に反対。英政府による防衛費の削減にも反対。2010年から14年の間に、スコットランドで国防産業に従事する人員は3300人減少した。

(資料: 各政党のマニフェスト、SNPについては公式サイトの「Policy Base」https://www.snp.org/policybase による)


総選挙の豆知識

  • 前回2015年選挙の投票率: 66.4%
  • 有権者数: 4576万6000人(2016年12月時点)
  • 投票できる人: 投票日に18歳以上で、有権者として登録している英国人。アイルランド共和国の市民及び英連邦加盟国の市民も18歳以上で有権者登録が済んでいれば投票できる
  • 今回の選挙の投票時間: 午前7時から午後10時
  • 総選挙の投票日はいつも木曜日に決まっているのか: 2011年施行の「固定会期議会法」は、5年に一度、5月の第1木曜日に投票日を設定していた。しかし、今回のように会期が終了する前に総選挙となった場合は、日にち・曜日を指定していない。固定会期議会法の施行以前は、首相が平日のいずれかの日を選択していたが、伝統的には木曜日に開催されてきた。前回、木曜日以外に開催されたのは、1931年10月27日。この日は火曜日だった
 
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