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Thu, 23 January 2020

第二の「世界のクロサワ」はいつあわられるのか 英国人が好む日本映画ってどんなもの?

英訳された日本の小説を読んでいる英国人や、日本の舞台演出家による演劇作品を上演するロンドンの劇場が珍しくなくなった現代において、少し寂しい存在に感じられるのが日本映画。最近ではアカデミー作品賞を受賞した「英国王のスピーチ」など英国映画が日本でも人気を集める一方、英国で日本映画が大々的に上映されることはまだ少ない。しかも、不思議なことに、時折出会う「日本映画好き」を自認する英国人たちが好む映画は、どうも私たち日本人が日頃接している作品とは異なるようだ。日英の映画業界に詳しい識者たちに話を聞いた。

英国で人気のある日本映画

第1位 となりのトトロ(宮崎駿監督、1998 年)
第2位 千と千尋の神隠し(宮崎駿監督、2001年)
第3位 タンポポ(伊丹十三監督、1985年)
第3位 生きる(黒澤明監督、1952年)
第3位 七人の侍(黒澤明監督、1954年)
第4位 東京物語(小津安二郎監督、1953年)
第4位 歩いても歩いても(是枝裕和監督、2008年)
第4位 電車男(村上正典監督、2005年)
第4位 座頭市(北野武監督、2003年)

*2010年に実施した本誌「英国で日本語を学ぶ100人に聞きました」企画アンケート調査結果

国際的な映画賞を受賞した最近の日本映画

うなぎ(今村昌平監督、1997年)
第50回カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞

HANA‐BI(北野武監督、1998年)
第54回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞

おくりびと(滝田洋二郎監督、2008年)
第81回アカデミー賞外国語映画賞

悪人(李相日監督、2010年)
モントリオール世界映画祭ワールド・コンベンション部門最優秀女優賞(深津絵里)

歴代日本映画興行成績

第1位 千と千尋の神隠し
( 宮崎駿監督、2001年、304億円)
第2位 ハウルの動く城
(宮崎駿監督、2004年、196億円)
第3位 もののけ姫
(宮崎駿監督、1997年、193億円)
第4位 踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!
(本広克行監督、2003年、173.5億円)
第5位 崖の上のポニョ
(宮崎駿監督、2008年、155億円)
第6位 南極物語
(蔵原惟繕監督、1983年、110億円 )
第7位 踊る大捜査線 THE MOVIE
(本広克行監督、1998年 、101億円)
第8位 子猫物語
(畑正憲監督、1986年、98億円)
第9位 借りぐらしのアリエッティ
( 米林宏昌監督、2010年、 92.5億円)
第10位 天と地と
(角川春樹監督、1990年、92億円)
第11位 ROOKIES - 卒業-
( 平川雄一朗監督、2009年、85.5億円)
第12位 世界の中心で、愛をさけぶ
( 行定勲監督、2004年、 85億円)
第13位 敦煌
(佐藤純彌監督、1988年、82億円)
第14位 HERO
(鈴木雅之監督、2007年、 81.5億円)
第15位 THE LAST MESSAGE 海猿
(羽住英一郎監督、2010年、80.4億円)
第16位 花より男子ファイナル
(石井康晴監督、2008年、77.5億円)

映画
左)宮崎駿監督「となりのトトロ」 右)滝田洋二郎監督「おくりびと」

高橋玄さん

1965年12月4日生まれ、東京都新宿生まれ。映画製作会社グランカフェ・ピクチャーズ代表。東映東京撮影所の装飾助手を経て、1992年に「心臓抜き」で劇場映画監督デビュー。香港のプロデューサーと合作した「CHARON(カロン)」、日本で100万部のベストセラーとなった同名小説の映画化「GOTH」などの作品を発表している。日本の警察犯罪の実話を描いた「ポチの告白」は、英国でもDVD発売中。「映画の市場は国際市場」がモットー。東映動画(現東映アニメーション)の創立者の一人である映画監督の藪下泰次氏を祖父に持つ。

単純に日本国内における
大量宣伝による効果なんでしょうね。

Q. 英国人が好む日本映画と、日本で流行っている作品は必ずしも一致しないようです。日本では莫大な興行収入を上げているのに、海外では存在すら知られていない映画が多くあるのはなぜなのでしょうか。

単純に、日本国内における大量宣伝による効果なんでしょうね。映画って、観る前にチケットを買ってもらって成り立つ商売ですから、内容以前に、宣伝が大きければ確かに有利なんですよ。米国では、一つの小さな独立系の映画が最初はロサンゼルスの3館で上映されて、それが人気を集めるうちに段々と広がっていって、全国1000館公開になるという展開を見せることがあるのですが、日本ではこういうことはありえません。映画館のすべてが一つの大きな組合組織になっており、よそ者は入れないようになっているからです。明らかに独占禁止法に違反している。映画館の支配人が、いわゆる独立系の映画作品を上映しようとしても、そうした動きを組合の力で潰していくわけです。その力に抗おうとすれば、あそこは組合の規定に反したからという理由で、次の夏休み期間には、毎年の人気商品である「ドラえもん」を回さない、といった仕打ちを受けることになります。

Q. なぜそのような歪んだ構造ができてしまったのでしょうか。

やはり、東宝、東映、松竹、日活といった代表的な映画会社しか供給元がないからです。映画館側からすれば、彼らのビジネスが成り立つためには、お客さんが継続して来てくれる映画というものを常に上映していなければならないわけですよね。新作を公開する一般的な映画館というのは、自分たちで映画を作っているわけではないから、安定的に新作映画を供給してくれる会社からそっぽを向かれてしまえば、もう食べていけないのです。

Q. 大手が幅を利かせるという仕組みは、何も日本の映画業界に限った話ではないと思うのですが。

日本の映画業界に関しては、その幅の利かせ方が随分と極端だと思うのです。米国では、20世紀フォックスとかワーナー・ブラザーズといった大手映画会社が、製作には関与せず、配給のみ担うというケースが多々あります。そうした場合には、映画製作者たちは「映画ができたら、20世紀フォックスが3000万ドルで配給権を買う」といった契約を結ぶ。だから信用取引で、銀行が3000万ドルを映画製作者に貸したりするわけですよね。

一方、日本の場合は、ほとんどの映画において、その製作や配給、映画館の運営をすべて同じ会社が担っています。映画産業が衰退しているのだから皆が独立独歩で働かなきゃいけないよってときに、いまだにそれぞれが依存し合っている状況にある。その依存関係の中にあって、頂点に立つのが大手映画会社です。映画館は敷地なりインフラがないと成り立たないビジネスなので、不動産を持っている大手映画会社の力を借りる必要があります。

でもそうした不動産を持つ大手映画会社の人々は、映画作りに対するこだわりを持っていない。仮に明日から映画業ができなくなるぞと言われても、「まあしょうがないな、では明日から不動産業だけ運営しましょうか」ということを平気で言うことができる人たちです。映画が好きで入社したとはいっても、所詮彼らは映画がなくなったら死ぬって言う人たちではないから。これが他の国の映画人との大きな違いですね。

日本の映画業界は、もう完全に会社化されています。

Q. 英国と日本の映画業界の違いは、製作の現場においても見られると聞きました。

私は19歳で東映撮影所からキャリアをスタートさせましたが、そこで保守的な日本映画界の構造を知り、「これでは駄目だな」と、数年後に自分で独立プロを作りました。個人が才能を発揮できる環境ではないと思ったわけですよ。例えば、助監督というのは、英国を含む欧州ではあくまで役職の一つです。ところが、日本では監督の弟子であるという考え方が一般的。どんなに才能を持っていたとしても、助監督から監督になるまでには、10、20年待たなければならない。

Q. 日本映画の製作現場は、なぜそのような仕組みになったのですか。

50、60年前の日本の映画産業は、ブームに湧いていました。当時の映画会社は、今の携帯電話会社とかIT企業のような盛況ぶりだったのです。だから作る作品の本数自体が非常に多くて、一つの映画会社が1週間に5本も10本も映画を作っていました。そういう状況においては、言わば仕事のサイクルが速いので、監督の下に助監督を置くという形で人を育てていく徒弟制度が機能していたのだと思います。しかし、今や日本の映画産業は衰退してしまいました。なのに、映画界もほかの日本社会の例に漏れず、いまだに終身雇用制が維持されています。その制度の中に若い人が入っても、要は使われるだけです。

Q. 旧態依然とした業界なのですね。

日本の映画業界は、もう完全に会社化されています。つまり天下りの文化で成り立っていて、官界と業界が癒着してしまっている。昔で言えば、「蟹工船」の小林多喜二を拷問で叩き殺した張本人が東映の宣伝部長をやっていたこともあったのですよ。日本の映画業界って、そんな社会なのです。映画を作るといっても、クリエイティブとかアートとかを論じる前に、まずは社会なり業界の仕組みに倣いなさいとでも言うかのような雰囲気ができあがってしまっている。しかも国民がそうした論調を理解するというか、決して逆らえないものであると思っているから、今さら変わることができないのですよ。

映画の35ミリというフィルムの規格は
万国共通なんですよ。

Q. 日本映画が海外で成功するためには、外国人が好むようなテーマを扱うべきだと思いますか。

仮に海外受けする日本映画を作って成功することができたとしても、それは、珍しいからという理由で評価されているに過ぎませんよね。世界的に成功した例としてよく語られるソニーの姿とは違います。英国の若い人の中には、ソニーを日本の会社だと知らない人だっている。日本の物珍しい商品だからということではなくて、品質が高いからソニーをみんな使うわけですよ。ジャパン・バッシングがあった時代でさえ、皆ソニーを使っていた。それと一緒で、日本映画に関しても、いつまでたっても日本の侘びさびが出ている、日本人の死生観がどうのこうのといったことを論じているのではなくて、本当に観客を引き付けるドラマを作れる作家として、演出家としてどういうことができるのかが大切なのだと思います。少なくとも僕は、そういうことにこだわっていきたい。

Q. 「日本的である」という点を前面に押し出さなくても、良い作品を作れば、世界の人々は日本映画を受け入れてくれると思いますか。

当然受け入れてもらえると思います。映画の35ミリというフィルムの規格は、万国共通なんですよ。映写機も含めて。テレビ放映だと異なる規格が色々ありますけど、映画の場合は35ミリのフィルムをそのまま持っていけば、どの国の映画館でも上映可能です。内容にしたって、例えばチャップリンの映画は、どの国の人が観ても面白さが分かりますよね。万国共通というのが、映画の原点です。

アダム・トレルさん

1982年11月8日生まれ、ロンドン出身、同在住。映画配給会社Third Window Filmsのマネージング・ダイレクター。米マサチューセッツ州のサイモンズ・ロック・カレッジ卒。英国に帰国後、アジア映画に関する歴史の講師などを経て、2005年にThird Window Filmsを設立。映画館への配給やDVD販売を通じて、日本を始めとするアジア地域で製作されている映画を英国の人々に紹介している。同社が配給を手掛ける「Villain(邦題:悪人)」は、ICACurzon Renoirなど英国各地の映画館で8月19日より公開。

映画好きの人たちは、
日本を始めとする海外の作品に目を向けていますよ。

Q. 英国にある映画館で、日本映画が上映されることは非常に稀です。英国では、日本映画の人気がないということなのでしょうか。

日本映画だけでなく、ハリウッド系以外の外国映画を上映する映画館が英国にほとんど存在しません。10年ぐらい前までの英国には独立系の映画館がたくさんあって、そうした場所ではフランス、ドイツ、スペインといった外国映画がよく上映されていたんですよ。でも、外国映画を上映する映画館って、多国籍都市と言われるロンドンでも今ではほとんど見かけませんよね。英国各地どこへ行っても「ハリー・ポッター」やらジェニファー・アニストン主演のラブ・コメディーといったようなものばかりです。

恐らく、人々が映画館に行く、という機会が減ってしまったからこのような状況になったのだと思います。確かに、5ポンド程度でDVDを購入できたり、違法ながらインターネット上から無料で映像をダウンロードできてしまうような時代に、10年前と同じような形で映画館への動員を期待するのは難しいのでしょう。映画業界全体がジリ貧になってきているから、関連会社はできるだけリスクを取らないようにする。手堅く動員を見込める、ハリー・ポッターのようなシリーズものが増えてくるのもしょうがないのかもしれません。

そして、失敗が許されないからと映画会社が大衆受けを狙えば狙うほど、本当の映画好きは興味を失っていく。そういう皮肉な現象が起きているのだと思います。でもだからこそ、そうした映画好きの人々は、ますます日本を始めとする海外の作品に目を向け始めているのだと思いますよ。

Q. ただ英国で「日本映画ファン」と名乗る人たちは、数十年前の名作には詳しい一方、私たち日本人が普段観ている作品にはあまり関心を持っていないような気がします。

英国では、これまで大きく分けて2種類の日本映画ファンがいたと思います。一つは、いわゆる海外の文化に興味を持つ、教養の深い、本物志向の中流層の人々。ロンドンだとサウスバンクのナショナル・フィルム・シアター、ICA、バービカンといった芸術施設で、黒澤明や今村昌平、北野武といった名監督の作品を観ているような人たちです。

もう一つは、主に日本のホラー映画を好む層。これは英国で立ち上げられた「Tartan Asia Extreme」という映画ブランドの功績が大きいと思います。中田秀夫監督の「リング」、深作欣二監督の「バトル・ロワイヤル」、三池祟史監督の「オーディション」といった、ホラーや暴力をテーマとした良作が日本で集中的に生まれた時期がありました。そこでこのブランドは、先に挙げた作品群と、韓国の「オールド・ボーイ」や香港の「インファナル・アフェア」といったホラーまたは過激なアクション映画を英国に供給するようになり、人気を集めたのです。日本映画やアジア映画と聞くと、ホラーを内容としたものを思い浮かべる英国人がときどきいるのは、こういう事情によるものです。

「日本では上映されない日本映画」が
作られるなんて事例もあります。

Q. 海外における日本のホラー映画人気の背景には、そのような事情もあったのですね。

ただアジア発のホラー映画を好むファンが定着すると、米国版「リング」を製作した韓国系米国人のロイ・リー監督のように、アジア映画のリメイクばかりを仕事とする映画監督が現れたりするようになりました。さらには西洋へ輸出することのみを目的とした、「日本では上映されない日本映画」が作られるなんていうおかしな事例も出てくるようになったのです。

極端な言い方をすると、現代の英国で暮らす映画ファンにとっては、ハリウッド大作か、「英国人向けに作られた外国映画」のどちらかの選択肢しかないのです。そうした人々は「本物の良い映画を観たい」という思いを強く持っています。私は、そういった人たちを満足させるような日本映画を見つけて、そして英国に広めたい。黒澤映画は敷居が高いと感じてしまうが、ホラー映画には食傷気味という日本映画ファンたちに、彼らがこれまで知らなかった作品を紹介したいと思っているのです。

そうした願いから、中島哲也監督の「Memories of Matsuko(邦題:嫌われ松子の一生)」や「Conffetions(告白)」、石井裕也監督の「Sawako Decides(邦の底からこんにちは)」、また今度公開される「Villain(悪人)」*といった作品の英国での配給に携わってきました。特に「Villain」は、私がこれまで配給に関わったものの中で最高の作品だと思うし、主演の深津絵里がモントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞したことが示すとおり、世界的な評価にも値する作品だと思います。

Q. 殺人の容疑者とごく普通の社会人女性との出会いを通じて人間の善と悪の両面を映し出していく「Villain」は、善悪がはっきり分かれていないという意味で、非常に日本的な作品であると思います。正義のヒーローと悪の権化が壮絶な戦いを繰り広げるハリウッド映画に慣れてしまった西洋の人々に、「Villain」のようないかにも日本的な映画を理解することができるのでしょうか。

「Villain」を例に取るならば、家族の一員が犯した罪を家族や親戚全体の恥とする、一種、日本独特の考え方が垣間見える場面を十分に理解できない英国人はいるのかもしれません。ただ根本的には、その映画がどの国で製作されたかに関わらず、良い映画というのは、「善と悪」や「生きる喜びと苦しみ」といった、ときに矛盾した、簡単には言葉に置き換えられないような複雑な事象や感情の機微を映し出すものです。そうした機微を、登場人物の行動を通して共感できたときに、観客は感動を覚えるだと思います。たとえあなたが殺人の容疑者を愛したことがないとしても、孤独に苛まれ、重大な欠点を持った人間を戸惑いながらも好きになってしまう、といった感情は理解することができるはず。そうした感情の機微に触れることに感動を覚える人は、どの国にもいると思います。

日本というのは、
ハリウッド、インドに次ぐ映画大国なのです。

Q. 日本映画が英国で大成功を収める可能性はあると思いますか。

日本というのは実は映画大国で、1年間に製作される映画作品の本数の多さは米国、インドに次いで世界第3位です。なのに、「Villain」のような素晴らしい作品がある一方、申し訳ないけれど、日本映画の大ファンである私でも駄作が多いと感じてしまうことがしばしばです。日本の歴史的な事実にメロドラマの要素を加えた作品がなんと多いことか。そういったメロドラマを好む日本の特定層のみに絞って映画作りを行っている、という感じがします。また日本では、テレビ・ドラマのスピンオフ作品が多く作られていますが、原作ドラマを観ることはほぼ不可能な英国人にとって、この種の映画はなじみにくいでしょうね。海外の映画祭への出品や、映画イベントへの参加などに興味を示さない日本の映画関係者も多いです。「私たちは日本人向けの映画を作っているのだから、海外での売れ行きには全く関心ない」と断言する日本の映画プロデューサーにも会ったことがあります。日本の映画関係者たちが海外での活動に本腰入れて取り組むようになれば、海外での日本映画ファンがもっと増えるかもしれませんね。

 
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