ロンドンのゲストハウス
Mon, 16 July 2018

在英邦人にとってのチャリティー 東日本大震災1周年企画1 - マーラ・ヤマウチ選手インタビュー「寄付を依頼された人と気持ちを一緒に盛り上げることが大事」マーラ・ヤマウチ選手

3月11日、東日本大震災の発生から1周年を迎える。
この1年間、ここ英国でも、在英邦人や英国人たちによる
東日本大震災の被災者に向けての様々なチャリティー活動が行われてきた。
震災の発生後、生まれて初めてチャリティー活動に携わったという人も少なくなかったはずだ。
これからの1年は、母国から遠く離れた地で暮らす私たちが、
日々の生活と折り合いをつけながら長期的な被災地支援を行うための一つの方法として、
チャリティー活動について思いを致す機会がもっと増えていくだろう。
異国に住む私たちができることを改めて考え直すため、
昨年にチャリティー活動に従事した著名人の方々へインタビューするシリーズの第1回。
まずは日本での長期在住経験を持つ女子マラソンのマーラ・ヤマウチさんに話を聞いた。

Mara Yamauchi
1973年8月13日生まれ、イングランド中部オックスフォード出身。8歳までケニヤの首都ナイロビで生活を送る。オックスフォード大学セント・アンズ・カレッジ政治経済学部卒、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学政治経済学修士課程修了。96年に外務省に入省。98年〜2002年まで日本に赴任。06年より休職し、競技活動を本格化させる。08年の北京五輪では6位入賞。夫であり、コーチでもある山内成俊氏とは日本駐在時に出会った。東日本大震災の発生後には、チャリティー・ウェブサイト「Run for Japan」の広報大使を務めた。
公式ウェブサイト(http://marayamauchi.blogzine.jp

公衆電話へと向かったけれど、半日くらい、
日本の知人たち とは連絡が取れませんでした。

ロンドン五輪への出場を視野に入れて、昨年の2月に、これまで夫婦で5年を過ごした東京を離れることになりました。私は主人より一足先にロンドンへと移動。3月1日からはロンドン西部の新居に移り、10日まで一人で生活していました。

主人は、10日の夕方にヒースロー空港に到着。その翌朝の6時半ごろに、私の母から携帯に電話がありました。早朝の電話なんてよっぽど緊急の用件なのだろうと思いながら話を聞くと、日本で大地震が起きた、という知らせ。自宅にあるテレビのスイッチをつけてみると、地震や津波の被害を映し出した映像が流れていて、大変驚きました。

まだロンドンに着いたばかりだった主人も、自分の両親や弟の家族、親戚、友人などのことをとても心配していて。彼の両親へ電話しようにも、引っ越したばかりの我々の自宅にはまだ電話を引いていない状態。携帯から国際電話をかけるには限界があるので、公衆電話へと向かいました。でも、なかなか日本の人たちとの連絡が取れない。半日くらい経ってからようやく電話がつながって、親戚一同の無事を確認しました。

「英国から何かできることはあるだろうか」と考えては、
無力感に苛まれていました。

Mara Yamauchi震災発生から3日後に、アテネと北京五輪に出場した女子マラソンのリズ・イェリング選手のご主人から電話がありました。彼自身も陸上選手であることから、自分たちの知り合いやそのほかの陸上選手たちの力を集めて、日本の被災者のために何か支援できないか、という話になって。彼の方から、ウェブサイトを立ち上げ、世界中のランナーたちに呼び掛けて、自分たちの走った距離の分だけ寄付を募り、東北の人々に送ろうという提案が出てきました。そして、この企画のいわば広報大使を務めないかと打診されたのです。私としては、「日本で大変なことが起こっている中、英国で暮らす自分が何か具体的な支援を提供する方法などあるのだろうか」と考えては無力感に苛まれていたときだったので、喜んでこの役割を引き受けることに。震災が発生してから約2週間後にはこのウェブサイトが立ち上がり、私も広報大使としてのメッセージを書きました。主人がこのウェブサイト運営の手伝いに加えて、私が書いた日本語メッセージの表現などに関して、色々とアドバイスをくれたので感謝しています。

私は日本人が英国人に比べて
チャリティーに対する意識が低いとは思いません。

東日本大震災のような大きな自然災害が発生すると、英国ではチャリティー団体が新聞に広告を掲載するなどして、大々的に募金を呼び掛けますよね。震災発生から数週間にわたり被災地の被害や暮らしぶりが報道されていたので、その内容を目にした英国人の多くが衝撃を受け、支援活動を行ったのではないかと思います。

「日本人は英国人に比べてチャリティーに対する意識が低い」とする意見を時折耳にしますが、私はそうは思いません。日本では個人単位での寄付がかなり多いと聞いています。日本人が納める寄付金額は、決して少なくないのです。今回の東日本大震災に関しても、募金活動を行った日本人の方々はたくさんいらしたのではないでしょうか。

チャリティーの出発点には、
苦しんでいる人々がいるという事実は変わりません。

ただ英国の方が、チャリティー団体が主催するイベントがより盛んに行われている印象は確かにあります。この国では、もう何十年も前から行われている慣習ですよね。チャリティー・イベントというのは、つまるところ、誰かが何か特別な試練に挑むことと引き換えに、家族や友人に寄付を募るという仕組みです。何もすることなしに「寄付してください」とお願いしても、他人の気持ちってなかなか動かない。でも、寄付を募る人が何か大きな試練を背負うことによって、寄付を依頼された人との気持ちを一緒に盛り上げることができれば、募金活動も上手くいく。そのための試練の一形態として、「走る」という行為はチャリティー・イベント向きなのかもしれません。実際、毎年4月に開催されるロンドン・マラソンは、チャリティー・イベントとしては最大級ですよね。

過去十年間ぐらいでこうしたイベントの規模が拡大してきたのに伴い、英国では募金活動がしやすいような体制が整えられました。昔は寄付をお願いした人のところに出向き、金額を書いてもらった小切手を集めて回っていたのですが、この方法だと時間も手間も掛かります。しかし今では、ソーシャル・ネットワーク・サイトを使って募金を呼び掛け、送金もインターネットを使って容易に済ますことが可能になりました。またTシャツなど関連グッズの販売やパーティーの開催などを通じての募金活動など、様々な趣向を凝らした試みが実施されています。

ただ、これらの仕組みがどれだけ発達したとしても、それぞれのチャリティー活動の出発点には、悩んだり、苦しんだりしている人々と、彼らを支える人たちがいるという事実は変わりません。例えば数万人単位のランナーが参加するチャリティー・レースにおいても、やはり病気を抱える家族や友人を持つ人々が、より積極的に支援を提供してくれます。家族の一員が肺がんになったから、肺がん治療薬の研究を支援するチャリティーのために募金活動をしよう、というように。こうした出発点から多種多様なチャリティー活動が展開され、規模を拡大させてきたのだと思います。

広く知られていない難病の患者の支援が
相対的に小さくなるという状況もあり得ます。

チャリティー・イベントの運営に関しては、様々な課題があることも事実です。例えば、乳がん患者を助けるための募金活動の一環として、女性の下着をユニフォームにして走るイベントを手掛けるチャリティー団体がありますが、これを「ふざけているだけじゃないか」と誤解してしまう人も一部にはいるかもしれません。

また乳がんのようにその危険が広く知られている病気の治療だったり、多くの人からの賛同を集めやすい動物愛護を目的としたチャリティーであれば、大々的な告知広告を打つことができるし、結果として大きな規模のイベントとなり、寄付金額が多く集まるという好循環を作り出すことができるでしょう。一方で、世の中には私たちが耳にしたことがないような難病が存在しますし、そうした難病患者の支援に取り組むチャリティーの存在感が相対的に小さくなり、寄付を必要としているにもかかわらず、お金が回ってこないという状況もあり得ます。

ロンドンマラソン
ロンドン・マラソンには、チャリティー団体の宣伝などを目的とする様々な衣装を着た参加者が集う

大きな目的のために、小さな問題は
後で少しずつ解決していくというのが現実的なのでは。

チャリティー活動とそれ以外の活動をどう共存させていくか、という課題に取り組む人もいるでしょう。今や英国最大のチャリティー・イベントとなったロンドン・マラソンでは、チャリティーの認知度を高めようと、仮装して走る人がたくさんいますよね。チャリティーを運営するには世の中の人々の関心を広く集めることが不可欠ですから、できるだけ目立つ仮装をすることが必要とされる場合があることは十分に理解できます。ただロンドン・マラソンは、チャリティーを目的とする人だけでなく、もしかすると比較的少数なのかもしれないけれど、真剣な競技の舞台として臨む人もいます。そういったランナーたちの中のごく一部には、ロンドン・マラソンが言わば仮装レースの場となることで、競技レベルが低下することを懸念する人もいるかもしれません。実際、1980年代には、ロンドン・マラソンで2時間半を切る競技者レベルのタイムを出す英国人の男性参加者がたくさんいましたが、今では毎年わずか5人前後です。

こうした種々の課題はあるけれども、やはり困っている人や苦しんでいる人を助けるという大きな目的のために、今、自分ができる範囲のことをして、小さな問題には目をつぶったり、もしくは後で少しずつ解決していったりというのがチャリティー・イベントに臨む人々が取ることのできる現実的なスタンスなのではないかな、と思います。

Run for JapanRun for Japan東日本大震災の被災地支援のため、世界中のランナーが、走った分だけ寄付、または寄付を募る仕組み。「Virgin Money Giving」というチャリティー運営の送金システムを使って、英国赤十字社を通じ被災地へと寄付金が送られる。マーラ・ヤマウチ選手のほかに、女子マラソンの世界記録を持つポーラ・ラドクリフ選手も広報大使を務めた。ウェブサイト運営開始後の約6カ月間で、延べ990人の走者が参加し、走行距離の総計は1万6975マイル(約2万7000キロ)、3万415ポンド53ペンス(約380万円)を集めた(現在、同サイトは休止中)。

ヤマウチ選手が広報大使を務めたチャリティー企画
「Run for Japan」のウェブサイト  http://runforjapan.com

 
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