ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Sun, 06 October 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 57

フラップジャック
Flapjack

Flapjack

オーブンから温かい空気とともに漂ってくる、濃厚に甘く、そしてどこか懐かしい匂い。その正体は「フラップジャック」。既に冬が遠くないことを感じさせる、9月の肌寒い午後のティー・タイムにぴったりの焼き菓子です。

オーツ麦とバター、砂糖とゴールデン・シロップ。ほかにドライ・フルーツやナッツ類、チョコレートなどを自由に組み合わせられますが、基本の材料は4つのみ。角形の平たい製菓用トレーに入れてオーブンで焼いたものを、冷めきらないうちに一口大に切ったそれは、ほかの英国のお菓子の例に漏れず(?)見た目はかなり地味です。

手作りしようと思ったきっかけは、著名なフード・ライター、ナイジェル・スレーターの自叙伝「Toast: The Story of a Boy's Hunger」。フラップジャックは、料理上手とは言えない彼の実母が作ってくれた、数少ないお菓子のレパートリーの一つでした。本書では、ある日、お母さんがこの簡単なお菓子を焦がしてしまったときの切ない思い出が綴られています。

作ってみれば、手軽さとおいしさに感激。かなり甘いのにもかかわらず、一口食べては紅茶を飲み、紅茶を飲んでは一口食べ……の無限ループにはまってしまうのは私だけではないはずです。

フラップジャックは、スーパーはもちろん、カフェや駅にあるキオスクのレジ前などでもたいてい売られています。多分、忙しい朝や小腹の空いたときに、紙コップ入りのコーヒー片手に気軽につまめるヘルシー・スナック、という位置付けなのでしょう。

でも、実際にはバターや砂糖がけっこう入っているので、クリスプスの小袋やビスケット1個に比べてカロリーはかなり高め。なのでダイエット食と考えるには無理があります。むしろ、ソファにどっしりと腰を下ろして、紅茶やコーヒーを飲みながらほっこりしたひとときを過ごすためのコンフォート・フードという方がぴったりです。

ところで、人の名前のようにも思える呼び名についてですが、米国でフラップジャックとは、パンケーキを指します。実は元々、17世紀の英国ではパンケーキの意味で使われていて(それが米英語に残っている)、「フラップ」はパンケーキをひっくり返す動き(flip)を表しているのだとか。それがいつのまにかオーツ麦の焼き菓子の名前にとって替わってしまったのです。「ジャック」の意味には様々あるのですが、ここでは「普通より小さい」というのが最も適切なのではと考えられます。その意味では、多分、小さめのパンケーキをフラップジャックと呼んでいたのだと思います。

もし米国でフラップジャックを食べたくなったら、「グラノーラ・バー」を探した方がよさそうです。でも、英国人は、米国のグラノーラ・バーとフラップジャックは似て非なるもの、などと言いかねないかもしれませんが。

フラップジャックの作り方(20×30cmトレー1つ分)

材料

  • オーツ麦 ... 250g
  • バター ... 100g
  • ソフト・ブラウン・シュガー ... 60g
  • ゴールデン・シロップ ... 110ml
  • 塩 ... ひとつまみ
  • ドライ・アプリコット、ドライ・クランベリー、サルタナ、かぼちゃの種、ひまわりの種など、好みのドライ・フルーツやナッツ類 ... 合わせて250g

作り方

  1. ドライ・フルーツやナッツ類を細かく刻んでおく(フード・プロセッサーを使っても可)。
  2. なべにバター、ソフト・ブラウン・シュガー、ゴールデン・シロップ、塩を加え、バターが溶けて全体がよく混ざるまで煮立てる(焦げないように注意)。
  3. ❷に❶とオーツ麦を加えてよく混ぜる。
  4. クッキング・シートを敷いた型に➌を広げ、木べらなどで上から押し付けるようにして表面を平らにする。
  5. 180℃に予熱したオーブンに入れ、20~30分前後、表面がきつね色になるまで焼く。
  6. 型に入れたまま冷まし、粗熱が取れたら好みの大きさに切る。完全に冷めてしっかり固まるまで待って出来上がり。
memo

私は時々、フラップジャックを手で細かくして、ヨーグルトをかけて朝ごはんにしたりもします。そう、まるでグラノーラのように。そう思うと、やっぱりフラップジャックとグラノーラ・バーは同じもの、とも言えるような?

 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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