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Thu, 10 October 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

仏難民キャンプ「ジャングル」、撤去問題はどうなる

フランスの北東部カレーにある難民用キャンプ、通称「ジャングル」で10月末から撤去作業が始まりました。

粗末なテントが並ぶキャンプを離れるリュックサック姿の難民たちの様子は、連日テレビで放送されましたので、皆さんも映像を目にしたことがあると思います。

カレー(Calais)はドーバー海峡の北海の出口に面した都市です。海峡の幅が最も狭い場所となり、グレート・ブリテン島と欧州大陸を結ぶ玄関口として重要な位置を占めてきました。

1990年代後半ごろからは英国に渡ることを望む難民や移民たちが一時滞在をする場所に。元埋立地だった約18万平方メートルに廃材やビニール、毛布などで作った小屋や簡易テントが林立。10月末時点では8000人がここで生活し、そのうちの約1000人は未成年の子供たちでした。衛生環境や治安が劣悪なキャンプは、いつしか、「ジャングル」と呼ばれるようになります。

この「ジャングル」にやって来る難民や移民たちの多くは、内戦や紛争が続くシリア、アフガニスタン、エチオピア、エリトリア、スーダンなどの出身者。経済が好調な英国に渡れば仕事が見つかる、生活が安定すると考えて、渡航仲介業者に大金を払い、母国からカレーまでの危険な道のりを経てたどり着いたのです。キャンプ到着後は海底トンネルを通って英国に向かうトラックに隠れるなど、ありとあらゆる手段を講じて英国に渡る試みを続けてきました。

そんな無謀な旅の途中で死亡する事故が相次ぎ、地元住民や自治体からキャンプ撤去の声が上がり、フランスのオランド大統領が年内の完全撤去を宣言したのが昨年の9月。撤去開始に向けて、キャンプにいた子供たちの中で、英国に家族や親戚がいる、または「脆弱である」と判断された約200人が少しずつ英国に渡航しています。「子供」とは18歳未満の未成年を指しますが、大衆紙が子供たちの一部の顔写真を掲載し、「本当にこれが子供なのか」と疑問を呈しました。6月末の国民投票で英国は欧州連合からの離脱=ブレグジット=を決めましたが、賛成に投票した人の懸念の一つは「無制限な、移民の流入」でした。「際限なく人が流入するのは困る」という国民感情を反映した記事だったのではないでしょうか。

キャンプに滞在していた難民・移民たちはフランス国内の400カ所に設置された「オリエンテーション・センター」にバスで運ばれました。ここで難民申請をするかどうかを決め、もしするとなった場合、申請者用施設に移動させることになります。

果たしてこれで英国行きを望む難民・移民たちが一カ所に集まって、大きなキャンプを形成する事態はなくなるのでしょうか。「なくならない」という見方が出ています。というのも、ジャングルから数キロ先にあるサンガットに1500人を超える難民・移民が集まったのは2000年ごろ。そして英仏両政府が協力の上、サンガットのキャンプが撤去されたのは2002年12月。その後、今度はカレーにキャンプができてしまったからです。実際に今回の大規模撤去作業時、どうしても英国行きを望む難民・移民たちは近くの森や近辺の場所に一時避難をして事態を静観しています。

シリアの内戦がきっかけとなり、中東やアフリカからやって来る難民たちの数は近年、急速に増えています。昨年1年間で欧州諸国は約100万人以上を受け入れましたが、それでもまだまだ足りません。最終的には「元を絶つ」、つまり難民・移民たちの祖国の政情不安を解消することが必要ですが、たやすくは実現できない中、より良い生活を求めて欧州を目指す人は絶えそうにありません。

オランド大統領のジャングル撤去宣言には、来年の大統領選を有利にさせるためという目的もあったと言われています。国内では反移民の右派勢力が人気を得ているからです。英政府側も移民流入に否定的な離脱派の声を無視できない状態にあります。人道面よりも政治が重視される状況が続きそうですね。

 

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