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Mon, 17 June 2019

知って楽しい建築ウンチク
藍谷鋼一郎

セントポール大聖堂

セントポール大聖堂は、数あるロンドンの建物の中で、最もロンドン市民に親しまれる建物ではないだろうか。特にルネサンス調の美しいドームは、ロンドンにあるどの小高い丘からでも眺めることができるようになっているが、これには、景観コントロールというユニークな操作が施されている。

セントポール大聖堂
市内どこからでも見えるセントポール大聖堂


どこからでも見える大聖堂

ロンドン市内の主要な場所に行くと、そこからセントポールを一望できることに気付く。これは偶然、ドームが見えているのではなく、ビュー・コリドーという景観規制があるからこそ成立する作られた風景だ。例えばハムステッド・ヒースやプリムローズ・ヒル、あるいは東部にあるグリニッジ展望台など8つのポイントから、このドームがはっきり見えるように建物に高さ制限がかけられている訳だ。すなわち、見晴らしの良い丘と、セントポールのドームを結ぶライン上には、ドームを隠す建物や、輪郭を損なうような建物を建ててはいけない。この規制を「ビュー・コリドー(眺めの廊下の意)」と呼ぶ。

隙間をぬって立つビル群

世の中、法には必ず抜け道があるように、このビュー・コリドー規制にも死角がある。金融街シティの一画にある超高層ビル群がそれだ。では、一体どうすればそのようなことが可能なのか。ロンドンの地図上に8本のビュー・コリドーを重ね合わせると、シティのある部分に、全く規制のかからないエリアを見出すことが出来る。その死角に開発の魔の手が忍び寄り、低層の街並みに空を突き破る摩天楼(スカイスクレーパー)を出現させたわけだ。世界中のどの金融街にも超高層ビルが立ち並ぶように、遅ればせながらロンドンのシティにも富を象徴するシルエットが築かれようとしている。このタワー・クラスターと呼ばれる一帯には、ナット・ウエストのあるタワー42や、ガーキン(スイス・リー)が建設済みだが、今もいくつもの超高層ビルが認可され、また、計画されている。

ロンドン市民の希望の象徴

では、なぜセントポール大聖堂はこれほどまで特別扱いされているのだろう。歴史をひも解くとその答えは簡単に見つかる。今ある姿は、1666年に発生したロンドン大火の時に倒壊した後、1710年にクリストファー=レン卿という大建築家によって再建されたものだ。ロンドンを火の海に包み、そのほとんどを焼き尽くした第一次、二次世界大戦の戦火の中でも、再建された大聖堂は奇跡的にその焼失を免れた。焼け野原の中、堂々とそびえるドームの勇姿に、ロンドン市民は大いに励まされた。そして人々の心の支えとなり、果ては英国の戦争復興のシンボルとなって今日に至っている。

現在、セントポール大聖堂は2010年に迎える300周年に向けて、約80億円の資金を投入して内装・外装ともに大改装工事が施されている。長い歳月の間に破損・風化した外壁や内壁、そして、彫刻や絵画に至るまで、全て補修するという大計画だ。これにより今後、何世紀にもわたって、英国のランドマークとしてあり続けるだろう。

 
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藍谷鋼一郎:九州大学大学院特任准教授、建築家。1968年徳島県生まれ。九州大学卒、バージニア工科大学大学院修了。ボストンのTDG, Skidmore, Owings & Merrill, LLP(SOM)のサンフランシスコ事務所及びロンドン事務所で勤務後、13年ぶりに日本に帰国。写真撮影を趣味とし、世界中の街や建築物を記録し、新聞・雑誌に寄稿している。
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