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Sun, 08 December 2019

知って楽しい建築ウンチク
藍谷鋼一郎

田舎と都会が合わさった理想郷 ~ガーデン・シティ~(その2)

英国の経済学者エベネイザー・ハワードが提唱したガーデン・シティ構想はその後、世界各地に飛火した。前回取り上げたレッチワースが誕生してから約20年後となる1920年、同じくハワードによる田園都市ウェルウィンが、ロンドンから35キロの地に誕生。この2つの町を比べれば、対照的な相違点に気付くはずだ。

都市と田舎の要素がチグハグと合わさったような田園都市ウェルウィン
都市と田舎の要素がチグハグと合わさったような田園都市ウェルウィン
都市と田舎の要素がチグハグと合わさったような田園都市ウェルウィン

家庭内別居のような街?

鉄道駅のあるウェルウィンのタウン=センターに辿り着くと、レッチワースとの雰囲気の違いに驚くだろう。長閑なレッチワース鉄道駅の佇まいから一転、商業主義の牙がガブリと噛み付いた様子が一目で分かるのだ。

田園都市の生みの親ハワードに因んだ「ハワード=センター」は、鉄道駅を兼ねている。と言うよりもむしろ、駅舎が商業ビルに飲み込まれた格好だ。小さな町のスケール感を大事にしているレッチワースの商店街とは全く違う。計画人口も5万人と多めだが、明らかに町の性質が異なる。町を散歩する人も少なく、圧倒的に車での移動が目立ち、大型ショッピング・センターまである。さしずめ郊外型ベットタウンといった様相だ。ただ救いなのは、駅前に広がる広大なオープン・スペース、そして緑豊かな並木道や戸建住宅群から、当時の田園都市構想を読み取ることが出来ることだ。

都市の良い所と田舎の良い所を融合させるという田園都市構想とは、分かりやすく言えば都市と田園の結婚のようなものである。この融合は、ウェルウィンでも形式的には実現されているようだ。しかし、ある一定の地域に都市と田舎の要素がそれぞれ白々しく同居しているようなチグハグさはぬぐい切れない。レッチワースには存在する渾然一体とした雰囲気に欠けている。離婚はしていないが、一緒に暮らす「家庭内別居」と言えば、表現が悪すぎるか・・・・・・。

Welwyn
Welwyn
田園都市ウェルウィン

田園都市財団の役割

ここで、レッチワースを資本主義の侵食から守るある財団の役割を紹介したい。レッチワースはやがてその資産価値が評価されるようになり、投資家達の恰好のターゲットとなる。町の所有者である会社自体が、買収の対象に晒される危機にも瀕するようになった。しかし住民の反対運動を後押しするように、1963年には国会でレッチワース公社法が成立。町の運営は民間から公社へと移行する。さらに、1995年には歴史的価値のあるものを保存する目的で、レッチワース田園都市財団法が成立した。財団法人(Letchworth Garden City Heritage Foundation)の誕生だ。

財団の大きな役割は土地や建物の管理で、公園や緑地の管理・運営のほか美術館やギャラリー、映画館、そして商店街の経営支援など。前回紹介したデザイン・ガイドラインの規制をかけることで町の雰囲気の維持に役立っていることは言うまでもない。財団の援助金は、チャリティー目的だけで年間20億円も費やされているそうだ。

レッチワースが伝えるもの

高度に発達した資本主義社会の国では、どうしても経済原理に則った開発が先行するきらいがある。それは時に、その町の持つ雰囲気や環境を破壊し、魅力のない町に変えてしまう危険性を孕んでいる。そういった経済の落とし穴に陥らないためには、ある一定のルール作りが必要だろう。レッチワース田園都市財団が、資本主義の侵略に歯止めをかける組織として設立され、その住環境を維持しているように。

 
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藍谷鋼一郎:九州大学大学院特任准教授、建築家。1968年徳島県生まれ。九州大学卒、バージニア工科大学大学院修了。ボストンのTDG, Skidmore, Owings & Merrill, LLP(SOM)のサンフランシスコ事務所及びロンドン事務所で勤務後、13年ぶりに日本に帰国。写真撮影を趣味とし、世界中の街や建築物を記録し、新聞・雑誌に寄稿している。
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