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Thu, 20 February 2020

映画「天気の子」Weathering With You
イギリス公開記念
原作・脚本・監督
新海 誠 氏 インタビュー

Weathering With You

映画は大勢の観客との
コミュニケーション

今月17日、日本で社会現象となったアニメーション映画「君の名は。」に続き大ヒットとなった「天気の子」の英国公開が始まった。これに先立ち、プレミア上映会のため新海誠監督がロンドンを訪れたのは小雨が降る昨年12月。忙しいスケジュールの合間を縫って、本作品に対する思いや諸外国での反応などを語っていただいた。新海監督の作品はその美しい風景描写と切ない台詞回しからしばし「新海ワールド」と形容されるが、丁寧な語り口で言葉をつむぎ出す監督の姿から、作品の世界観に通ずる緻密さ、そして優しさが透けて見えた。(取材・文: ニュースダイジェスト編集部)

新海 誠 
Makoto Shinkai 新海 誠
Makoto Shinkai
1973年生まれ、長野県出身。大学卒業後ゲーム会社で働くかたわら、アニメーション制作を始める。2002年に短編作品「ほしのこえ」でデビュー以来、発表する作品はどれも国内外の映画賞を受賞。「君の名は。」(16年)はメガヒットとなり、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」(01年)に次ぐ歴代2位の興行収入を記録した。

映画「天気の子」について

前作「君の名は。」から約3年。世界中のファンが新作を待ち望んでいたと思います。製作にあたりプレッシャーは感じませんでしたか。

「君の名は。」がヒットしたから次もヒットさせなければいけない、というようなプレッシャーは特になかったと思います。面白い映画を作りたいというシンプルな気持ちはありましたし、つまらない映画を作って観客をがっかりさせたら良くないな、という意味でのプレッシャーはありましたが、ただ「売れなければ」ということはあまり考えませんでした。それは配給会社やプロデューサーの仕事であって、監督としての自分の仕事は「まずは面白いと思える映画を作ることだ」と考えていました。

「君の名は。」と比べ、子供たちが置かれている生活環境や家庭事情が随分異なっていました。主人公など題材のリサーチはご自身で行っているのでしょうか。

「君の名は。」の時はキラキラした生活を描いていました。ただ、「天気の子」を作り始めた時に、前作と同じような生活を描いても若い観客はそこには憧れてくれないんじゃないか、という感覚はありました。前作を作り始めたのが2014年ぐらいだったのですが、あの頃は三葉の家のようなキラキラした家を描けば、あそこに行ってみたい、あの家に住んでみたいという共感を得られるのでないか、と考えていました。ところが「天気の子」を作り始めた2017年ぐらいにはそういう気持ちは自分の中から消え失せていて、むしろそういう生活を描いたら反感を持たれるのではないか、感情移入してもらえないのでは、と思い、本作は少し貧しい主人公に設定しました。リサーチというよりは、僕も同時代に生きているので、僕自身が感じる感覚というのは他の多くの人も共有していると思いますし、調べるというよりは自然に、身の回りから感じることですよね。もちろんスタッフの意見も聞きますが、時代的なものを読もうと思っても読み切れるものではないので、最終的には自分の感覚を頼りにするしかないですね。

劇中の英語字幕で「先輩」が翻訳されず「Senpai」とそのまま表記されていたのが新鮮でした。字幕の監修には携わったのでしょうか。

英語字幕版を観て字幕のタイミングなどについて話し合うような機会をいただきましたけれども、内容に関しては基本的にお任せしていました。例えば「晴れ女」を「Sunshine girl」と訳すのは結構苦肉の策なんだろうなと思いますし、それによって意味合いも変わってくるような気もしますが、一方で他にどうしようもないと言いますか。その点、「Senpai」という言葉はある種アニメ・リテラシーの高い、外国のアニメ・マニアにとってはすごく楽しい単語だと思いますね。マニアたちは学園モノに親しんでいるから、「先輩好きです」みたいなシチュエーションをたくさん見ているわけです(笑)。自分より年下の少年に対し主人公の帆高がこの単語を使うそのギャップの面白さに笑ってくれるのだと思いますが、それはアニメ・ファンへ舵を切った思い切った訳し方であり、また一つの正解なんだろうな、と思いながら見ていました。

海外のレビューサイトでは「ロマンティックなティーンの物語だ」というコメントが多かったのですが、日本と外国のファンの映画の捉え方、感じ方の違いを感じることはありますか。

国によって受け止め方の違いというものはありますけど、それよりも個人における違いの方がはるかに大きいと思うんですね。日本でも、この映画が好きだという人もいれば気に入らなかったという人もいる。それと同じように、一人ひとりの嗜好の違いの方が映画の印象に違いがあると思います。ただ、今回プレミア上映のために多くの国を訪れて印象に残ったのは、気候変動に関しての各国の受け止め方です。例えばこの映画を見て気候変動のことを連想する国としない国というのがはっきり分かれるような気がしています。日本は気候変動による災害があれほど頻発しているのにもかかわらず、メディアからもその話題はほとんど出なかった。ある種特殊な国だと思います。同じように気候変動を気にしていないという印象を受けた国はロシア、中国ですね。韓国も近かったかもしれませんが、その中間ぐらいかもしれません。ただ、英国が最大に気候変動のことしか聞かない国(笑)。インドや米カリフォルニアでも質問はされましたが、環境への意識の高さに関して、やっぱり英国は桁違いだなと感じました。

天気の子

新海監督と英国の思い出

2008年にロンドンに滞在されていたそうですが、その時のことについて教えてください。

中心部ホルボーンにある語学学校に行っていました。その前に国際交流基金から中東3カ国でアニメーションのワークショップをするという仕事をいただいておりまして。そこから一番近い英語圏というのが英国だったので、そのまま足を延ばしてしばらく英語の勉強をさせてもらおうかなと思い、滞在していました。当時35歳ぐらいだったのですが、大学生の留学生に混じって勉強して、今思えばバケーションのようなものでしたね。BFI(ブリティッシュ・フィルム・インスティチュート)でイベントもさせてもらったりして、2回目の学生時代が戻ってきたようでとても楽しい思い出です。印象深かったことはロンドンの街並みの美しさですかね。僕は海外に住むのがその時が初めてで、ここは日本に比べて彩度も明度もはるかに低い街だなと思いました。存在する街の色も限られているし、全体的に夜は暗い。生活空間における光の在り方が全く違うのだ、というのが当時の自分にとって興味深かったところです。それから建物の古さや街並みそのものですね。シティのようなビジネス街もありますけれども、基本的には大まかな街並みの構造はキープされ続けていて。建物の価値は基本的に下がらず、古ければ古いほど高い、という日本とは全く逆の考え方で、そこがすごく面白かったです。違う街に住んでいると人の行動様式、また価値観も変わるんだな、ということを実感できたのが、僕にとって貴重な経験でした。

食事はいかがでしたか。

ちょっとびっくりするくらいまずいお店がいくつかありましたね(笑)。今とは随分違うんでしょうけれども、何気なく入ったイタリアンが驚くほどまずい、という経験を何回かして、だんだん自炊するようになりました。

映画製作とこれから

2002年の自主制作「ほしのこえ」から始まり、現在は大きなチームで製作を進めておられますが、体制が変わったことでの面白い点、反対に難しい点などがあればお聞かせください。

人数が少ないときと多いときで、やりやすさ、やりにくさはどちらにもありますね。ただ製作スタイルが変わってきているのは自分自身の興味の対象も変わってきているから、というのがとても大きいです。「ほしのこえ」の頃はとにかく自分だけで何ができるのかを知りたかったので、全てを一人で作ってみました。そのうち自分より他の人の方が得意な部分というのも見えてくるわけですが、今僕が一番興味があるのは物語の構築そのものです。どのような物語を作ればどれぐらいの規模の観客とコミュニケーションできるのか、どれほどの規模の観客にリーチできるのかというところなんですね。今、日本で東宝と一緒に作品作りを行っていますが、ここがターゲットとしているような数十万人から数百万人、「天気の子」でいうと1000万人以上、それほどの大きなスケールの観客にどのような物語を届ければいいのだろう、と。ヴィジュアルのデベロップメント *1 などは数百人いるスタッフの力を借りるところがすごく大きいですが、僕が一番力を注ぎ、自分一人で考えている部分は「膨大な観客とのコミュニケーション」であり、そこで何ができるのか、自分の役割は一体何なのかを探求することが今一番楽しく感じられる部分です。興味の対象が変化してきているので、製作体制も必然的に変わってきているという気がします。

*1 ヴィジュアルの視覚デザインを確定する作業

Weathering With You

東宝の夏休み映画として公開されましたが、もし時期が違っていたら題材は変わっていたかもしれない、と?

7月に公開するつもりで今回の題材を選んだので、まずは日本で夏に見てもらう映画として作りました。映画、特に全国各地で公開される映画というのは時事的なお祭りに近いと思うのです。そのタイミングで観客に何が言えるのか、その時の観客が何を感じるのか、というのが大規模な映画を作る醍醐味だと今は思っています。映画に十分な力があれば、結果的にその映画が5年、もしくは10年先まで残るということもあるかもしれません。この作品がどれほどの風雪に耐えうる映画なのか、それは時が経ってみないと分からないことですね。今回、僕は最初から5年10年、あるいは50年残る映画というものは全く目指していませんでした。シンプルに同時代の表現としての夏休み映画を作りたいと。それがその先冬まで、春まで生き延びるのであればそれは幸せなことですが、そこは最初の目標の外側ではあります。

Weathering With You

欧州を舞台にする予定は……?

各都市、各地域でそう言ってもらえること自体が、もしかしたら僕たちチームのストロング・ポイントなのかな、と受け止めています。英国を描くかは分かりませんが、自分たちのいる場所を僕たちに描いて欲しいと願ってもらえる、そういう欲望を抱いてもらえる映画作りをこの先も行っていければ僕たちにとって名誉なことだと思いますし、そういうことを今後もやっていきたいです。

これから映画を見る読者にメッセージをお願いします。

英国で日本のアニメーション映画を観るという経験がどういうことなのか想像になりますが、日本で観ていては気付かない何かをきっと発見できると思います。僕は宮崎駿さんプロデュースの映画「耳をすませば」を映画館で最初に見た時はあまり何も感じなかったんですが、英国で一人暮らしをしている時にDVDで見たら泣いてしまったんですね。そういう日本で気付かなかった当たり前の部分を英国にいるからこそ感じ取れる、というのは多分僕の映画にもたくさんあるはずだと思います。ぜひ英国にいる間に観ていただいて、日本にいた時には気付かなかった日本の良さないしは良くない部分なりを映画の中から探していただけると、僕としてはものすごくうれしいです。

あらすじ

離島から抜け出した高校1年生の家出少年、森嶋帆高は、偶然の出会いから東京にあるオカルト雑誌のライターとして働くことになる。奇妙なほど連日雨が降り続いたその年の夏、帆高は一人の少女、天野陽菜と出会う。その子は、祈るだけで空を晴れにできる不思議な力を持っていた。

天気の子 Weathering With You
イギリス各地にて公開中

監督:新海誠
声の出演:醍醐虎汰朗、森七菜、本田翼、小栗旬 他
※英語吹き替え版もあり
https://weatheringwithyoufilm.co.uk

 
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