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UKchiken
Fri, 05 March 2021

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

来年の歳出計画が発表公共部門の給与凍結海外援助金、削減へ - コロナ禍による緊急事態で借入金が3940億ポンドに

新型コロナウイルスの感染が拡大してから、政府はさまざまな経済支援を企業や国民に提供してきましたね。イングランド地方のロックダウンは終了しましたが、感染阻止のための活動規制が各地域で続いており、経済の先行きは不透明です。「いつまで政府は経済支援を続行できるのか」、「大きな増税につながるのでは」と不安に駆られた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

11月25日、リシ・スナク財務相が政府の歳出計画を示す文書「歳出見直し」(2020年スペンディング・レビュー)を議会で発表し、経済の現状と今後について説明しました。通常は今後3カ年を対象とするのですが、新型コロナによって「異例の不確実性」(財務相)が出たため、単年度(2021~22年度)の予算計画となりました。

議会演説の冒頭で、スナク財務相は英国の「健康の危機はまだ去っていない」、「経済の緊急事態は始まったばかり」と述べました。英国に住む人の「生活とその手段を守ること」を最優先するそうです。ここですでに「これからも支援策を継続する」と腹をくくった宣言をしたことになります。

現状ですが、休業者の給与支援を含む新型コロナ対策の総額は2800億ポンド(約39兆円)に上ったそうです。財政の持続性に関する検証と報告を行う「予算責任局」(OBR)の分析を紹介しながらの説明では、今年の実質経済成長率の予測はマイナス11.3%で「過去300年以上で最大の落ち込み」となります。コロナ禍による「経済的打撃は傷となって残り」、2025年時点でも3月の政府予測よりも3%縮小しているそうです。この困難を乗り切るには「借り入れや負債を増やす」ことが必要になり、今年の借入額はGDPの19%にあたる3940億ポンドに膨れ上がります。負債額はGDPの91.9%、2025~26年度でも97.5%に上昇。失業率も現行の4.8%から来年第2四半期には7.5%に。恐ろしいほどの危機状態です。

では来年度からどのように予算を振り分ける予定なのでしょう。まず削減が噂されていた公共部門で働く人の給与ですが、現在の金額で「凍結」に。「民間部門で働く人の多くが職を失い、一時休業、賃金カット」という状態にあり、公共部門職員の給与一律増加を「正当化できない」と考えたからです。ただし、国営の国民医療サービス(NHS)の職員約100万人と、給与が平均金額(年間2万4000ポンド)を下回る約200万人の給与は増額されます。対外支援は国民所得総額の0.7%に固定されてきましたが、0.5%に減額されます。「財政状態が許せば、元に戻すつもりだ」と財務相は述べましたが、歴代政権の数値目標を翻すことになり、議会内では非難の声が複数上がり、閣外相が抗議の辞任をしています。

新型コロナ対策関連としては、継続して主要な役目を担うNHS、ホームレス救済、イングランド地方のカウンシルおよびスコットランド、ウェールズ、北アイルランド自治政府への資金提供を含む550億ポンドを投入予定。ほかには再雇用プログラムに30億ポンド、イングランド地方の教育費を22億ポンド増額、防衛費に今後4年で240億ポンド増額、また、地域ごとの格差を解消するために「レベリング・アップ」資金として40億ポンドの投資などが挙げられました。

演説を聞いて疑問が出てくるのは、巨額の借入金や債務を減らすための施策が明確には見えてこない点です。財務相は、負債の大きさに言及した後で「この状況は中期的には到底維持できない」、経済が復興した時点で政府には「持続可能な財政状態に戻る責任がある」と述べています。危機状態から抜け出すための施策を今は優先しながら経済の好転を待ち、将来は大幅な増税を計画しているという指摘がされています。

増税を含む財政健全化への大きなかじ取りはもう少し先になりそうですね。

キーワード

Spending Review(歳出見直し)

1997年のブレア政権発足後、中長期的な予算編成を行うことを目的として98年から導入された仕組み。財務省が作成し、原則として隔年で発表される、今後3カ年を対象とする政府各省庁の歳出計画を指す。「包括的歳出見直し」(Comprehensive Spending Review)と呼ばれることも。公共部門で働く人の給与計画も含む。コロナ危機で経済成長の予測が困難になったため、今年は単年度(2021年4月からの1年)での見直しとなった。

 
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