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Thu, 28 March 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

90%の感染を予防新型コロナのワクチンを米ファイザーが発表 - 英政府は4000万回分の供給を確保

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、ようやく明るいニュースが出てきました。米製薬大手ファイザーとドイツのバイオ企業ビオンテックが、9日、共同開発中のワクチンについて、臨床試験(治験)参加者の感染予防で「9割超の有効性」を暫定的に確認した、と発表したのです。両社は米国、ドイツ、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカ、トルコでワクチン開発の最終段階となる治験を行ってきましたが、外部の独立した委員会が治験のデータを分析し、高い成功率を見せたことが分かりました。臨床試験の対象者4万3538人の中で新型コロナの感染が確認されたのは94例。90パーセント以上の人々の感染を予防する結果となりました。ファイザー社のアルバート・ブーラ会長は「グローバルな健康の危機を終わらせる突破口になり得る」と述べています。

ファイザー社とビオンテック社は今月末までに接種完了後2カ月間の観察結果を含めたデータを収集し、米食品医薬品局に対して緊急使用の許可を申請予定です。供給の見通しですが、年内に5000万回分(効果を出すには2回分の接種が必要となるため、2500万人分)、来年には最大13億回分の生産が予定されているそうです。英政府はすでに4000万回分の供給を確保しており、そのうち1000万回分は年内に供給予定です。英国を含む欧州が感染の第2波に襲われるなか、感染予防の大きな味方が出てきたというのは、大変心強いですね!

さて、4000万回分のワクチンは誰が利用できるのでしょう? 政府は、感染リスクの高い順から優先される人のリストを作っています。最初に来るのが「ケア・ホームにいる高齢者およびケア・ワーカー」。次は「80歳以上およびヘルスあるいはソーシャル・ケア・ワーカー」。「75歳以上」、「70歳以上」、「65歳以上」と年齢ごとに区切っていき、健康上のリスクが高い人を入れながら、次第に年齢を下げていきます。でも、これは暫定的なリストで詳細はまだ確定的ではないようです。例えば、免疫力が低い高齢者にどのように作用するのかは実際に使ってみないと分からない部分があるのです。いったんワクチンを摂取すればもう新型コロナに感染しなくなるのか、それとも感染の可能性はあるにしても病状が重くならないのか、なども不明です。

接種体制は国営の国民医療サービス(NHS)が担うことになりますが、頭が痛いのはワクチン配送後の保管です。このワクチンは超低温で保管する必要がありますが、通常は一般医(GP)が診察を行うクリニックでは十分な冷蔵保管体制が整っておらず、英医師会はGPらが共同で使えるワクチン・センターのような施設の設置を考えているようです。

治験の最終段階に到達しているのは、今回のワクチンだけではなく、少なくともほかに10個のワクチン開発がこの段階に来ています。また、英政府はほかのワクチンの供給も確保しています。例えば、英製薬大手アストラゼネカとオックスフォード大学のワクチンを1億回分、米ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループの傘下にあるヤンセンファーマ社のワクチンを3000万回分、フランスのバイオ企業ヴァルネヴァ社のワクチンを6000万回分、英GSKと仏サノフィ社によるワクチンを6000万回分、米ノヴァヴァックスによるワクチンを同じく6000万回分を確保しています。こうしたワクチンがいつ使えるようになるかは不明ですが、ファイザー社とビオンテック社のワクチンに続いてほしいですね。

でも、ワクチン開発が成功したからといって、すぐにロックダウンやそのほかの行動制限の解除につながるというわけではないようです。広くワクチンが行きわたるようになるには時間がかかりますので、感染症を診断するためのPCR検査の増加、手を洗う、マスクを付ける、ソーシャル・ディスタンシングを維持する、などの生活様式がしばらく続きそうです。

キーワード

mRNA Vaccine(mRNA ワクチン)

米製薬大手ファイザーとドイツのバイオ企業ビオンテックが共同で開発したワクチンのタイプを指す。「メッセンジャーRNA」(Ribonucleic Acid リボ核酸)と呼ばれる人工遺伝子を使って、新型コロナウイルス表面の突起を再現し、免疫反応を引き起こす。ウイルスが体に侵入した際に感染を防御する抗体を先に作っておく仕組みを利用する。

 
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