自称ミソジニストでインフルエンサー
アンドリュー・テイトとは絶大な人気を誇るが、人身取引や性犯罪容疑も
自分は女性を嫌悪あるいは蔑視する「ミソジニスト」(Misogynist)であると公言するアンドリュー・テイトなる人物が、このところ世間を騒がせています。女性という属性だけで人を判断して嫌悪する、低く見るというのは、現代の英国ではなんとも前時代的で、差別的に聞こえますよね。公言して開き直っているようであることも驚きです。でも、テイトの発言に賛同し、フォローする人が実はたくさんいるのです。テイトには英国内外で複数の人身取引や性犯罪容疑がかけられているのですが、それでも人気は減じていないようです。いったいどんな人物なのでしょうか。
現在38歳のテイトは英米の二重国籍を持ち、米国人の父と英国人の母の間に生まれました。その後両親が離婚したため、テイトは母と2歳下の弟トリスタンとともに英国に移住することになりました。2005年からはキックボクシングの選手としてリングに上りましたが、有名になっていくのは、その後のオンラインを利用したキャリアです。知識やノウハウをネット上で売買するビジネスを、弟と2人で始めたのです。中核となるのが21年に開始した「ハスラーズ・ユニバーシティー」で、いかにお金を儲けるかを指南。現在までに「リアル・ワールド」として刷新され、利用者は80万人に上ります。テイトはそのほかにも無数の動画に出演し、高級車、プライベート・ジェット、ヨットなどの贅沢なライフスタイルを「君も実現できる」と呼び掛けました。スカイ・ニューズによると、昨年末時点でリアル・ワールドは月440万ポンド(約8億6200万円)もの売り上げがあったそうです。Xのフォロワーは1000万人を超えています。テイトは「リッチでマッチョな男性」を代表する人物となり、若い男性たちに憧れを抱かせる存在となりました。
テイトを全国的に有名にしたと同時にそのミソジニスト的傾向が露わになったのが、2016年に出演したリアリティー番組「ビッグ・ブラザー」です。この中でテイトがベルトで女性を殴打する動画が流出し、番組を降版させられました。テイトは「動画は編集されていた」として暴力行為を否定しています。また、ユーチューブのある動画の中では自分は「完全なミソジニストだ」、女性は「本質的に怠け者だ」「『独立した女性』というものは存在しない」と述べています。全国警察本部長協議会(NPCC)が昨年夏に発表した女性や女児に対する暴力行為についての報告書は、テイトが若い男性や少年たちにオンライン上でミソジニーを広めていると結論付けました。「特に少年たちへの影響力は恐ろしいほどだ」と。テイトは「レイプ被害者にも責任がある」などの女性蔑視発言を続け、一時はツイッター(現X)からアカウントを凍結されたこともあったのですが、Xになってからアカウントが再開されたという経緯があります。
2022年12月、テイト兄弟は滞在中のルーマニアでレイプ、人身取引の容疑で逮捕され、24年8月には未成年者との性行為および人身取引容疑が加わりました。兄弟はいずれの容疑も否定していますが、現在もルーマニア内に足止めされています。
一方、英国でも逮捕状が発行されています。今年5月、公訴局(CPS)が発表した起訴状によると、テイトには3人の女性へのレイプ、暴力行為、人身取引、売春強制など10の容疑がかけられており、トリスタンには1人の女性に対する同様の11の容疑がかかっています。兄弟の弁護士は「メディアの誤情報だ」と反論しました。しかし、ルーマニア当局は英国当局によるテイト兄弟の引き渡し要請に同意しており、ルーマニアでの案件が解決次第、2人は英国に送還される予定です。でも一連の事件が片付くには相当の時間がかかると見られ、兄弟が英国に戻るのがいつになるのかは、現在も予測がつかない状況です。
ミソジニスト(Misogynist)
女性に対する嫌悪や蔑視を意味するミソジニー(misogyny)を持つ人。ギリシア語のmisos(憎しみ・嫌悪)とgune(女性)が語源。「女は感情的」などの発言、女性を性的存在としてしか見ない扱い、女性を意思決定の場から排除する、女性への暴力行為など。男性への憎悪・蔑視はミサンドリー(misandry)。