ロンドンのゲストハウス
Mon, 16 July 2018

東日本大震災チャリティー公演を実施 吉田都インタビュー

昨年、大勢のバレエ・ファンに惜しまれつつ、ロイヤル・バレエ団を去った元プリンシパル、吉田都が20日、再び同団の本拠地、ロイヤル・オペラ・ハウスの舞台に立った。東日本大震災の被災者救済のためのチャリティー公演。前半はロンドンの音楽学校に通う日本人/日系の生徒による演奏、そして後半は吉田都を始め、同団の日本人ダンサーが総出演したこの公演の会場が決定したのは、何と18日。正味2日もない準備期間で公演を実現させたその裏には、ダンサーや同団オフィス、そして生徒の母親らボランティアの存在があった。公演翌日、吉田さんに公演当日までの道程を語ってもらった。 (本誌編集部: 村上 祥子)

吉田都
吉田都1965年生まれ。東京都出身。83年、ローザンヌ国際バレエ・コンクールでスカラシップ賞受賞後、ロイヤル・バレエ・スクールに留学。84年にサドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ団 (現バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)に入団、4年後には最高位のプリンシパルに。95年にロイヤル・バレエ団移籍後は英国でも有数の実力派として人気を集めたが、2010年、惜しまれつつ同団を退団した。

地震発生時には、英国にいらっしゃったのですね。

ちょうどバーミンガムにいました。バーミンガム・ロイヤル・バレエの日本公演が5月にあるので、リハーサルでたまたまこちらに来ていたんです。

震災のニュースを聞いたときにはどう感じましたか。

何と言っていいのか……。震えがくるというか、本当に嫌な感覚でしたね。体全体がふわっときて、軽いパニック状態でした。

チャリティー公演を行う決意をされるまでの経緯をお聞かせください。

月曜日(14日)にロンドンに戻りまして、皆すごい心配してくださって。「家族は大丈夫か」など声を掛けてくれた中で、昨日も出演してくれたエドワード *1エドワード・ワトソン: ロイヤル・バレエ団プリンシパルがまず私の顔を見て最初に言った言葉が、「You must do something」だったんです。「何かやらなくちゃ。チャリティーをやろう」と言ってくれて、せっかく私もいるし、という感じになったので色々調べ出して。そうしたら、オペラ・ハウスのメイン・ステージはどの日曜日も使われていたのですが、昨日、1日だけリンブリー(中劇場)が空いているということが分かったんです。でも、1日だけしか公演がないということは、ステージ・リハーサルや照明のリハーサルなどがきちんとできないということで、オフィスのマネージメントと話していて、無理だね、という話になったんです。そうしたら、私の友人で、昨日もコンサートに出演していた子のお母さんから、募金を集めるためにミニ・コンサートを行いたいのだけれども、どこか人通りの多い良い場所を知らないかという話がきて。で、「ミニ・コンサート、子供たち……」と考えたときに、あ、できるかもしれない、と思って、そこからまたロイヤル・バレエ団に交渉に行って、リンブリーを押さえてもらって。そこから始まったんですよ。その時点でもう金曜日になっていました。

でも金曜日に決まったにしては、当日はすべてがスムーズに進んでいましたね。

色々ありましたけれどね。だめってなって、えーって言うようなことも2度ほどありましたけれど(笑)、スタッフの方が交渉してくださって。私も長い間、オペラ・ハウスで仕事をしていますけれども、バレエ・サイドしか知らないわけです。でも手伝ってくれる友人がオフィスにいたので。昨日も一人、表で手伝ってくれた人なのですが、チケットの件だったり、セキュリティーだったりそれぞれ話を進めてくれて。本当にたくさんの人がかかわっているんだなって今回、実感しました。昨日もチケットの手配をしてくれたのは、事務局長のケビンで、あんな偉い人がって、知っている人はびっくりしたと思いますよ(笑)。皆オファーしてくれるという感じでした。ピアニストも土曜日になって、「チャリティーやるって聞いたけど、ピアニスト必要じゃないの?」って。それで即答で「Yes, please」と(笑)。

公演は、前半が音楽学校に通う子供たちのミニ・コンサート、後半がバレエという構成になっていましたね。

コンサートがメインでしたからね。バレエだけだったら多分、公演をすることは難しかったです。お母様方は「ロイヤル・バレエ団のダンサーの方たちと一緒の舞台に立てるような子供たちじゃないんですけれど……」と驚かれていましたが。

ダンサーの方々も、練習する間もなかったと思いますが。

そうですね。しかもtba(出演未定)になっていた健太君 *2蔵健太: ロイヤル・バレエ団ソリスト茜ちゃん *3高田茜: ロイヤル・バレエ団ファースト・アーティストは、足に痛みがあったりして万全じゃなかったんです。これからも公演が続くし、私としては、「もう出ちゃだめ!体を休ませなくちゃ」って感じだったんですけれども、本人たちは出る気満々だし。モニカ *4モニカ・メイソン: ロイヤル・バレエ団芸術監督はきっと心配だったと思いますけれども、あまりにも2人がどうしてもという感じだったので、その気持ちを酌んで、出てもいいよと言ってくださったのもありがたかったです。モニカは「私、行くから」ってまずチケットを買ってくれましたね。こういうのはすごく励みになるというか、うれしかったです。皆、本当に何かしたいと思っていたんですよね。私はダンサーとしてできることとして、踊りでということになりましたが、皆さんそれぞれできることで頑張っている、その気持ちが伝わればいいですよね。

日本人ダンサーのほかに、現プリンシパルのエドワードさんとマーラさん *5マーラ・ガレアッツィ: ロイヤル・バレエ団プリンシパルも出演されていましたね。

はい。しかも、(2人の作品の振付をした)ウェイン *6ウェイン・マクレガー: ロイヤル・バレエ団常任振付家が、作品を上演していいという許可をくれただけでなく、当日リハーサルまでしてくれて。しかももうチケットがないということで、立ち見でご覧になっていたんですよ。もう「えっ」てなっちゃって。そういうところがイギリスは凄いですね。こちらはやはり、チャリティーに慣れていますよね。

まもなく帰国されるということですが、今後どうやって震災とかかわっていこうと考えていらっしゃいますか。

私にできることを続けていきたいと思っています。昨日、私の髪を担当してくださった方が関西の方で、阪神・淡路大震災の話を聞いたのですけれども、やはり物事が起きているときは皆注目しているし、お金もわっと集まるし、でもそれが何年も経ってしまうと、忘れるわけではないけれども、日々新しいニュースが入ってくるし、どんどん遠い話になってしまうというか……。そのときだけというのではなくて、継続的にサポートするというのが大切だなということを、彼女と話していて感じましたね。表面的に町が元通りになったように見えても、元の生活に戻れなかった人が多かったみたいで。そうはならないように、地道に続けていけたらいいなということを実感しました。

 

折り鶴と募金箱公演当日。ロビーでは子供たちが募金してくれた観客に折り鶴を渡し、オペラ・ハウスの職員たちが笑顔で手際良く、チケットをさばいていた。突然の大舞台に緊張しつつも、一人ひとり立派に演奏し、観客からの温かい拍手を受けた子供たち、そして本番では舞台裏の混乱を全く感じさせることなく煌びやかな世界をみせるダンサーたち。プロフェッショナルの凄みと人々の素朴な温かみが交錯する1日となった。翌日、吉田さんはロイヤル・オペラ・ハウスのオフィスで、昨日協力してくれた各方面への礼状をしたためていた。長時間にわたったというその作業こそが、いかに多くの人々がその1日を支えていたかを物語っているのかもしれない。


 
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