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Sat, 16 February 2019

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

家計を直撃する鉄道運賃の値上げ - 遅延や時刻表の混乱には見合わない?

今月2日から、英国の鉄道運賃は平均で3.1%の値上げとなりました。前年の3.4%よりは低くなりましたが、毎年恒例となっている値上げに不満を持つ方も多いのではないでしょうか。

特に通勤で列車を利用する人にとっては、ほかの選択肢がない場合、値上げを受け入れざるを得ません。また、昨年5月のダイヤ改正で大混乱が発生したイングランド北西部のノーザン鉄道や、ゴヴィア・テムズリンク鉄道のロンドン行き路線の利用者、あるいは常態化した遅延、キャンセルに遭遇している人は「なぜ、こんなサービスなのに値上げなの?」と思いますよね。

先ごろ発表された英国鉄道事業の規制監督組織「鉄道及び道路オフィス」(Office of Rail and Road)によると、昨年上半期における英国の列車の定時運行率は85.6%で、目標の92.5%を下回りました。「一部の鉄道会社の運行性や確実性は過去5年で最低」だそうです。

それを考えるとますます理不尽に見える値上げですが、払った運賃は一体どのように使われるのでしょうか? 鉄道会社が加盟する業界組織「鉄道運営グループ」(Rail Delivery Group=RDG)によると、利用客が支払う運賃1ポンドにつき98ペンスが鉄道運営サービスに使われているそうです。歳出の内訳をみると、最も大きな割合(35%)となったのが、車体のメンテナンス、管理、セキュリティー・カメラの設置、請負業者への支払いなど。これに続くのが従業員に対する支払い(25%)です。ほかには車体のリース料(13%)、インフラ費用(12%)、営業権利費用(8%)、燃料費(5%)と続きました。

実際の額では、2016年から2017年5月までの1年間の運賃収入は97億ポンド(約1.34億円)で、車内での飲食による収入が8億ポンド。2つを合わせると、2016年~2017年の利用客からの収入は105億ポンドに上りました。この年の歳出総額は103億ポンドでしたので、確かに利用客からの収入の98%を運営サービスにつぎ込んでいました。

でも、日々の運行はカバーできても、利用客からの収入だけでは将来的な投資を行うことが難しくなります。RDGは2021年までに7000両の新車両を導入し、週6400本の追加運行を予定。これらは民間投資のほかに政府の直接支援、つまり税金が使われる予定です。ただし収入の中で税金が占める割合は年々減少し、「使う人が払う」ことが主流になってきています。例えば2010年~2011年では総収入の57%が利用客から入っていましたが、2015年~2016年では70%に上昇しています。

英国の鉄道事業が民営化されたのは1990年代。利用者数は過去25年で2倍に増えましたが、遅延やキャンセル、そして毎年上がる運賃に、「果たして民営化は成功と言えるのか」という議論が今も熱く続いています。

ただし、運賃の値上げには一部例外もあります。例えば、ロンドンやマンチェスターなどの大都市には運賃の設定に一定の裁量が認められており、ロンドンのサディク・カーン市長は運賃体系の一部凍結を発表しています。

また全国的には、今年から26歳から30歳の利用者を対象とした新たな「レールカード」(運賃割引証明書)が発売されました。これを使うと30%のチケット割引が可能です。更に夏には16歳と17歳向けのレールカードが発表される予定で、こちらは50%の割引になるそうです。

「ガーディアン」紙が運賃節約のアイデアを提案していますが、それによると「オフ・ピークの廉価チケットを探す」、「前売りチケットを利用」、「毎年の値上げの前に定期券を買っておく」、「レールカードを使う」、「グループ割引を利用」、「遅延あるいはキャンセル時、払い戻しを要求する」などつつましいものです。

1825年、英国は世界で初めて蒸気機関車による商業鉄道のサービスを開始しました。新たな投資によってそのサービスも世界一を目指してほしいですね……。夢物語かもしれませんが。

キーワード

鉄道及び道路オフィス(Office of Rail and Road)

略称「ORR」。英国の鉄道の経済性及び安全性と、イングランドにおける高速道路の経済性監視に責任を持つ、独立規制・監督組織。2004年に「鉄道規制オフィス」として発足後、業務拡大に伴い、2015年から現在の名称に変更された。任期5年の取締役会の人員は政府が任命する。
 
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