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Tue, 18 June 2019

知って楽しい建築ウンチク
藍谷鋼一郎

ペッカム公立図書館 Peckham Library

ロンドンのサザーク区ペッカム中心にあるこの特異な形態をした建物は、実は公立図書館。治安悪化の一途をたどる同地域のスラム・クリアランスの一環として作られた。この図書館の建つ広場に近付くと、実際明らかに周囲とは異なる文化的な雰囲気が漂ってくるから不思議だ。

ペッカム公立図書館 Peckham Library
遠方からでもすぐに目に付くペッカム図書館の外観

スラム・クリアランス

英国当局は、公共工事による再開発によってスラム(不良住宅など)を一掃し、環境改善に努めるという政策をよく用いる。19世紀に鉄道路線がロンドンに進出した時にも、インフラを整備するという大義名分の下、スラム街は一網打尽に取り除かれた。

一般的に今でもテムズ河以南には低所得者・移民が居住する治安の悪い地域が多いと言われ、ペッカムもまた、そういった街の一つとされる。そこでサザーク区では、ペッカム中心部に公共の広場を建設し、コミュニティー再生の核として位置付ける計画に乗り出した。設計者に選ばれたのは、ある意味アヴァンギャルド、常識外れの形態とド派手な色彩を多用することで知られる建築家、ウィル・オルソップ(現SMCオルソップ)だ。

ペッカム公立図書館 Peckham Library
建物の入り口付近

逆L型ビルの魅力

遠くからでもすぐに発見できるほど、この建物の存在感は圧倒的だ。L字を逆さにした形態は、見る者に「あの建物は何だろう?」との好奇心を抱かせるに十分である。

図書館と言えば、その使用目的からこれまで権威的なスタイルが好まれてきた。これは「知識の収蔵庫」といったイメージから来るものであろう。しかし近年、その概念は崩壊しつつある。人が集まる情報センターとしての役割が付加され、むしろ気軽に立ち寄れる場所、カフェのような気楽さが好まれたりするようになった。2000年にオープンしたペッカム図書館は、そういった傾向に拍車をかけることになった建物と言えるだろう。緑青銅板を葺(ふ)いた外観、大きく張り出したエントランス部は、斜め柱により支えられている。コンクリートを内部に充填(じゅうてん)した金属柱は見た目以上に強度を発揮するが、今にも倒れ掛かってきそうな不安定感を拭い去るには至らない。観る者はまさに、オルソップの術中にはまってしまうのだ。

ペッカム公立図書館 Peckham Library
内部にあるキノコのような形をした小空間

建物の中にも建物が

上部は、空中庭園のように地上から持ち上げられている。ここでなら本を読みながら、気分転換として周りの景色を楽しむことも出来るだろう。またこの空間の中には、3つのキノコのような小空間が作られている。会議室、子供室、そして、アフロ・カリビアン関連の展示室といった3つの異なる機能(建物)が大きな建物の中に収まっていて、合理性とは程遠いが、それだけデザイン性が重視されているのだ。

オルソップの遊び心は、北側外壁にも如何なく発揮されている。赤、黄、緑と通常は建物にはあまり使用しない色ガラスが象徴的だ。確かに派手な色と奇妙な形態だが、チグハグさは全くなく、むしろ全体的なまとまりさえ感じられる。これは、オルソップのセンスに他ならない。図書館のあり方を問う意味でも、間違いなく建築界に一石を投じた建物であろう。

ペッカム公立図書館 Peckham Library
ルービック・キューブを思わせるような色使いをした北側外壁

 
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藍谷鋼一郎:九州大学大学院特任准教授、建築家。1968年徳島県生まれ。九州大学卒、バージニア工科大学大学院修了。ボストンのTDG, Skidmore, Owings & Merrill, LLP(SOM)のサンフランシスコ事務所及びロンドン事務所で勤務後、13年ぶりに日本に帰国。写真撮影を趣味とし、世界中の街や建築物を記録し、新聞・雑誌に寄稿している。
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