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Sat, 17 August 2019

知って楽しい建築ウンチク
藍谷鋼一郎

英国の橋(1)

橋には、人々に高揚感を抱かせる何か詩的なものがある。それは「別世界への架け橋」といった幻想的なイメージから生まれるのかも知れない。産業の発展で世界の先駆けとなった英国では、鉄を使った長大橋のほか、近年では歩行者専用橋として優美を極めたものが多く建設されている。

世界で最初の鉄橋

英国の橋梁(きょうりょう)史をさかのぼると、1779年にイングランド南部シュロップシャー州のセヴァーン川に架けられたアイアン・ブリッジに行き着く。鋳鉄を使ったこの世界最初の鉄橋は、ユネスコの世界遺産でもある。当時、産業革命の中心地となった地域に架けられた全長60メートルのアーチ橋は、石造やレンガ造と比べると軽快で、当時の人々には衝撃的に映ったに違いない。実際、それまでの重厚な組積造(そせきぞう)の橋とは一線を画した、鉄を使った繊細なディテールは、新しい時代の到来を予見させるに相応しいものだった。

世界最古の鉄橋、アイアン・ブリッジ 世界最古の鉄橋、アイアン・ブリッジ


ローマ建築から続くアーチ構造

フォース鉄道橋
三角形を組み合わせたトラス構造
のフォース鉄道橋
一般に川や渓谷などに橋を架ける際、橋桁(はしげた)を支える支柱の建設が困難な場合が多い。そのため支柱なしで橋桁をできるだけ長くして建設する技術こそが、橋梁界の至上命題だった。例えばローマ建築の代名詞の一つである「アーチ」。これは水平方向や垂直方向に自由自在に連続させることができるため、高さや長さを求める構造体にはうってつけだったのだ。

アイアン・ブリッジにも、アーチが採用されている。その後、橋梁技術は劇的に進化を遂げて、100年後の1890年にはスコットランドのエジンバラ近郊のフォース湾に全長2500メートルのフォース鉄道橋を架けることに成功する。これもユネスコの世界遺産に登録されているが、ここでは「トラス」形式が採用された。トラスとは鉄や鋼鉄で出来た部材で三角形を作り、大小様々な三角形を組み合わせることで、長さや高さを追求する構造体のこと。三角形は四角形に比べて非常に安定した形態で、変形に対しても強いのが特徴だ。しかも一辺少ないので、部材の数も少なく経済的。パリのエッフェル塔や東京タワーが、このトラスを応用した構造体となっている。

構造物を支える3種類の力

タワーブリッジ
外装の色調が美しいタワー・ブリッジ

構造体には、大きく分けて3種類の力が作用している。軸方向に部材を引っ張ったり押し縮めようとする「軸力」、直角方向にずらす「せん断力」、そして回転させようとする「モーメント」だ。鉄は特に引っ張りや曲げに強い抵抗力を発揮するため、巨大構造物には最適である。

近年では、「吊り橋」や「斜張橋」が長大橋建設における常識となっている。ロンドンの観光名所であるタワー・ブリッジには、この「吊り橋」が採用されている。メルヘンチックな色調や中世風のタワーに隠されて見過ごされがちだが、よく見ると、橋を支える鉄骨構造には信じられないほどの高度な技術が潜んでいる。

タワーブリッジ
タワー・ブリッジに架かったケーブルの構造美

このように橋には、2点間を繋げるという物理的な機能のほかに、都市を特徴付けるランドマークとしての役割もある。都市の境界を明確にし、人に自分のいる位置を確認させる役目も担っているのだ。優れた技術を用いて造られた新旧の橋の数々は、英国のシンボルとして今日も優美で堂々たる姿を見せている。

 
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藍谷鋼一郎:九州大学大学院特任准教授、建築家。1968年徳島県生まれ。九州大学卒、バージニア工科大学大学院修了。ボストンのTDG, Skidmore, Owings & Merrill, LLP(SOM)のサンフランシスコ事務所及びロンドン事務所で勤務後、13年ぶりに日本に帰国。写真撮影を趣味とし、世界中の街や建築物を記録し、新聞・雑誌に寄稿している。
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