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Sun, 26 May 2019

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

日立、原発建設凍結、ウェールズ地方に打撃
- 約9000人の雇用が消える?

このところ、日系企業が英国から「手を引く」動きが次々と報道されました。

1月中旬には日立製作所が、英中西部ウェールズや隣接する地域での総事業費200億ポンド(約3兆円)相当の原発建設計画を凍結すると決定し、2月上旬には日産自動車が英北東部の工場でスポーツタイプ多目的車(SUV)「エクストレイル」の生産を断念すると発表しました。後者は、なかなか展望が見えない「ブレグジット」(英国の欧州連合からの離脱)が理由の一つだったようですが、日立の場合は建設費の高騰が理由として挙げられました。今回は、地元経済や英国の原発産業全体への多大な影響が懸念される、日立の決断に注目してみましょう。

日立は英子会社ホライズン・ニュークリア・パワー社を通じて、ウェールズ北部のアングルシー島に新たな原発を建設する「ウィルファ・ネーウィズ・プロジェクト」(建設費約130億ポンド)を進めてきました。地元に住む若者にとって、専門技術が必要とされる、長期間の雇用を約束するものです。約9000人が原発2基(合計出力2900メガワット、耐用年数60年)の建設に関わり、2020年代半ばには稼働予定でした。ウェールズ地方に隣接するグロスタシャーのオールドベリーでも原発建設予定があり、これを含めると付近一帯に大きな経済効果が波及するとみられ、その見積額は57億ポンドとも言われていました。「過去30年で最大規模のプロジェクト」(ウェールズ大臣アラン・ケアンズ氏)と大きな期待がかかったのも無理はありません。

しかし、2011年の東京電力福島第1原発事故以来、世界的に安全対策が強化されたため、原発建設には巨大な費用がかかるようになっています。日立の場合も当初の計画から1.5倍に増えました。総事業費のうちの3分の2を英政府と英金融機関が融資し、残りを日立、日本企業、英企業が分担して出資する枠組みを作りましたが、事業費がかさむリスク、事故発生時の場合の巨額賠償などがネックとなって民間企業からの協力が滞り、日立はとうとう凍結を決めざるを得なくなりました。

現在、英国の電力の21%が原発によって生み出されており、民生用原発産業で働く人は約1万5500人(2014年、国家統計局調べ)に上ります。国内8カ所で原発が稼働中ですが、老朽化した原発が順に稼働停止になるため、2020年代末に残っているのは英東部サフォークにある「サイズウェルB」のみ。この原発も2035年には稼働停止の予定です。これを補うため国内の6カ所で原発の新規建設計画があるのですが、既に3カ所の計画が頓挫しています。建設費の高騰もあって、なかなか一歩を踏み出す企業が出てこないのです。現在、フランスの電力公社EDFによる建設が予定されている「ヒンクリー・ポイントC」原発(英南西部サマセット)は、当初は2025年から電力供給が開始されるはずでしたが、EDFはこれを27年以降と修正しました。EDFは中国広核集団(CGN)の支援を得て「サイズウェルC」の建設計画を立てており、また、CGNによる英南東部エセックスの「ブラッドウェルB」の建設計画にもEDFは資金関与しています。しかしこのままだと、2030年には稼働中の原発が1基だけになる中で、実際に建設中なのはヒンクリーCポイントのみという事態になってしまいます。

そうした状況で、企業の資金調達問題を解決するために浮上しているのが、「規制資産ベース(RAB)モデル」と呼ばれるシステムです。出資者が原発建設開始時から一定のリターンを受け取る仕組みで、狙いは投資リスクの縮小です。

政府はウィルファ計画を完全に諦めたわけではなく、今後も新たな担い手を探してゆく予定で、今夏には英国のエネルギー政策を示す白書を発表するそうです。一方で、再生エネルギーの開発にもっと力を入れるべきという声も次第に高まっています。

キーワード

ウィルファ・ネーウィズ(Wylfa Newydd)

ウェールズ語で「新しいウェールズ」の意。日立製作所の子会社「ホライズン・ニュークリア・パワー社」がウェールズのアングルシー島に建設を予定した新たな原子力発電所の名称。かつて稼働していた2基の原発の隣接地に建設予定で、「ウィルファB」とも呼ばれた。長期にわたる雇用と地域経済の活性化が期待されていた。
 
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