ロンドンのゲストハウス
Sun, 21 October 2018

犬の保護施設「ドッグズ・トラスト」訪問 犬の幸せ、探します。

ロンドンの街や公園を歩いていると、
至るところで犬を連れた人たちと出くわす一方で、
野良犬の姿を見かけることは、驚くほど少ない。
迷い犬や捨て犬、飼い主が
飼えなくなってしまった犬たちは、
一体、どこにいて、どのような扱いを
受けているのだろうか。
今回は、全国17カ所に施設を持つ、
英国最大の犬の保護団体
「ドッグズ・トラスト」を訪問。
日本の保健所とは大きく異なる方針を掲げる英国の施設の
日常生活を垣間見ることで、犬に対する英国人の思いを感じる一日となった。
(本誌編集部: 村上 祥子)

Dogs Trustドッグズ・トラストとは

国内に17のリホーミング・センターを持つ、英国最大の犬の保護団体。政府からの資金援助を得ることなく、独自の資金調達により運営されている。1891年、世界最大級のドッグ・ショー「クラフツ」の第1回大会が開催された際に、貴族の称号を持つガートルード・ストック氏が、数人の紳士たちとともに同団体の前身となる「ナショナル・ケイナイン・ディフェンス・リーグ」を設立した。2003年、「ドッグ・トラスト」に改名。捨て犬や飼い主が飼えなくなった犬を引き取り、新しい飼い主を探すリホーミング活動に加え、犬に対するマイクロチップの埋め込みや、去勢不妊手術の推進活動、学校への訪問教育などを行っている。

Dogs Trust (Head Office)
17 Wakley Street London EC1V 7RQ
Tel: 020 7837 0006
www.dogstrust.org.uk

Dogs Trust
ロンドン西部オックスブリッジにあるドッグズ・トラストのリホーミング・センター。広大な敷地には、ゆったりとした造りのセンターと、犬が思い切り走り回れる広々としたグラウンドが

床暖房にBGM

シャーロットさん
今回、センターを案内してくれたシャーロットさん

建物に足を踏み入れた瞬間、獣臭とでも言うのか、生き物特有の臭いが、かすかに鼻を突いた。入り口に設置された椅子には、白い毛が多少、付着している。しかし、明るく広々 としたロビーに、塵一つ落ちていない床、そして満面の笑みで迎えてくれる職員たちの姿からは、日本人の多くが想像する、いわゆる「動物の保健所」のイメージは全くもってうかがうことができない。

西方面へ向かうピカデリー線の終点間際の駅、イッケナム。駅前の住宅街を車で抜けると、5分ほどで突如、住居の姿が消え、目の前に林と草地が広がる。さらに5分ほどその草木 に覆われた地を走ると、英国最大の犬の保護団体「ドッグズ・トラスト」のリホーミング・センターの一つが見えてきた。「リホーミング」とは、里親探しのこと。捨て犬や、事情により飼い犬を手放さなければならなくなった人たちから譲り受けた犬たちに、新家を見つける施設である。

ロビーでは、静かにお座りをしている犬に話掛けている中年の男性や、元気が有り余っている犬に引きずられるように走っている女の子と、その様子を見守る両親の姿がある。果たして、彼らは新しい飼い主なのだろうか、それとも飼い犬を手放す人々なのだろうか。そんなことをぼんやり考えていると、一人の若い女性に声を掛けられた。シャーロット・ピーターズさん。所長のリチャード・ムーアさんとともに、今回の見学ツアーのナビゲートを務めてくれるセンターの広報官である。犬に出くわす度に笑顔で声を掛けながら、早口で話続けるシャーロットさんの後に続き、いよいよセンター内の見学が始まった。

まずはロビーから中央部へ向かう廊下を歩く。外はコートなしではいられないほどなのに、半そででも大丈夫なほど、暖かい。シャーロットさんいわく、建物内は床暖房が完備さ れているのだとか。静かな館内には、会話の邪魔にならない程度の音量で音楽がかかっている。まるで上質な宿泊施設の中にいるみたいだと言うと、音楽を流すのは犬を日常生活に慣れさせるための措置なのだと教えてくれた。一般家庭では、テレビや音楽の音、その他生活雑音が始終、鳴っている。無音の環境で生活させると、家庭に引き取られた後に些細な物音に怯えてしまうため、あらゆる音に慣れさせているのだという。ちなみにかける音楽は、クラシックからパンクまで様々。時にはBBCのニュース番組やサッカーの試合中継まで聞かせるというのだから、徹底している。

スティッキー・ドッグ
6カ月以上引き取り手が現れない犬は「スティッキー・ドッグ」と呼ばれる。
彼らに飼い主を見つけるため、センターでは写真やメッセージを使って大々的にアピールしている

問題のある犬を人気者に

そして始めに見学したのは、「Rehoming」エリア。大多数の犬が収容されている、センターの中核とも言える場所だ。細長い廊下の片側は中庭に面していて、もう片側には、左右をタイルの壁に、正面をガラスで区切られた部屋がずらり。各部屋には、種類の違う犬が2〜3匹づつ、収容されている。「ここにいる犬はあまり吠えないから、静かでしょう」とリチャードさんが言うや否や、数匹の犬が短く吠える。思わず苦笑するリチャードさん。だが、その吠え方は、怯えているからというよりも、見知らぬ侵入者に対する警戒の表れといった雰囲気で、ある意味、犬としては健全な反応と言えるかもしれない。

各部屋のガラスには、それぞれの犬の紹介文が貼り付けられている。紙面には、名前や犬種、年齢などに加え、各犬の性格が克明に記された文章も。「走り回ることが大好きで、活発な女の子です。一緒に遊ぶのは大好きですが、あまり触られるのには慣れていません」。犬の長所だけでなく、短所も上手く表現されている。

現在、このエリアに収容されている犬の数は約30匹。種類は様々だが、中型犬や大型犬が目に付く。グレイハウンドやボーダー・コリーが多いのは、ドッグ・レースを引退した犬や、猟犬として活躍するには年老いてしまった犬が持ち込まれるため。年齢を見てみると、5歳から10歳以上の、いわゆる壮年〜老年犬が大勢を占めているようだ。

一つの部屋のガラスには、所狭しとカードや手紙が貼り付けられている。なんでも、同施設では健康問題や複雑な過去を抱えていて、一般家庭で飼うことのできない犬をセンターで無期限に世話する代わりに、スポンサーを募り、資金を集めているのだという。1週間に1ポンド払えば、誰でも特定の犬のスポンサーになることができる。スポンサーには、ステッカーやマグネットなどのグッズや機関紙「Wag!」が支給されるほか、年数回、犬からカードが送られる(といっても実際に送るのはもちろん職員だが)ことになる。健康な犬は決して殺処分にしないという「No Kill」をモットーとする同施設。引き取り手のない犬を施設のマスコット犬としてアピールするとは、何とも鮮やかなる逆転の発想だ。

そのほか、ほとんどの部屋は装飾のない極めてシンプルな外観であるにもかかわらず、数部屋だけ、ハロウィンのデコレーションが施されていることに、気が付いた。「こうやってデコレーションをしているのは、なかなか飼い主が見付からない犬の部屋なんです。こうすれば、見学に来た人たちの目を引くでしょう?」とリチャードさんが得意気に語る。ちょうどその時、小さな子供連れの家族が、興味深々といった面持ちで、デコレーションされた部屋を覗いているのが目に入った。

徹底した管理統制

「Rehoming」エリア見学の後は、子犬を専門に扱う「Nursery」エリアへと移動。リチャードさんによれば、このエリアは一般には開放していないという。理由は「そうしなければ、子犬ばかりに人気が集中してしまうから」。特別なケースを除いて、一般客が子犬と顔を合わせることはない。日本にある同様の施設では、老犬の引き取り手を探すことは本当に大変なのだと聞いたことがある。この施設では、こうした管理統制によって老犬を優先的に扱うことで、引き取り手を増やしているわけだ。ちなみにこの日、子犬の姿は皆無。だが来週には、数十匹単位でやって来るという。

VETエリア
犬の健康診断を行う「VET」エリア。窓の奥には、
グラウンドの青々とした芝が広がる

センターに到着した犬の身繕いを行う「Bath & Groom」エリアや犬の健康診断を行う「VET」エリア、広々としたキッチンを通り過ぎて、次に到着したのが「Admin」エリア。新入りの犬が7〜10日間を過ごす場所だ。犬たちはこの間に、マイクロチップを埋め込まれることになる。マイクロチップとは、犬がたとえ迷子になっても、すぐに居場所を特定できるように装着する、電子標識器具である。ここドッグズ・トラストでは、施設内のすべての犬へのマイクロチップの埋め込みを行うのみならず、20ポンド前後の料金で一般の犬への装着も受け付けている。器具を体内に埋め込む、という言葉に、少々の拒絶反応を覚えないでもないが、迷い犬減少のためにはこの方法が一番であり、予防接種並みに手軽で痛みもなく作業を終えられると語るシャーロットさんの口調は自信に満ち溢れていて、迷いがない。このほか、同施設では犬の数が増えすぎないように、去勢不妊処置を施すことも奨励しているという。

新入りの犬はグラウンドに面した部屋にいるから、と言って、シャーロットさんが外に連れ出してくれた。いくつかのコンパートメントに分けられた檻付きの部屋に、10数匹ほどの犬がいる。私たちが姿を現した瞬間、20数個の瞳が一斉にこちらを向き、ほぼすべての犬が同時に鳴き出した。檻の間から身を乗り出すようにして、何度も吠える彼らの姿は、先程の「Rehoming」エリアの犬たちのそれとは、明らかに異なる。その様子をカメラに収めようとしたとき、シャーロットさんから待ったがかかった。犬が檻に入れられている姿を公にすることは、イメージ的に悪いので、ここでの写真撮影は控えて欲しい、というのである。徹底したマイナス・イメージの排除。ここまで徹底することで、明るく健全な施設の雰囲気が保たれているのだ。

Rehoming エリアRehomingエリアの部屋

まるで高級ジムのシャワー室のような
「Rehoming」エリア。
それぞれの部屋のガラスには、
各犬の説明書きが張り出されている。
どれもそれぞれの犬の特徴を掴んだ、
細やかな文章ばかり




不況と犬の関係

グラウンドのはるか彼方。豆粒ほどの大きさのボランティアの女性が、犬と一緒に走り回っている。そんな光景を横目に見ながら、見学最後の場所となる「Cafe」エリアへと向かった。驚くほどに高い三角屋根の天井と、赤と白のギンガム・チェックのテーブル・クロスが郊外の山小屋を彷彿とさせるこのカフェは、週末のみオープン。平日のこの日、しんと静まり返った広々とした室内で、シャーロットさんとの話が続く。

今回の訪問で是非聞きたかったこと。それは、近年、英国の人々の生活を圧迫する不況の影響だ。人は、自分に余裕があるときには他人や動物に優しくできても、自分が苦境に陥ったときに、その姿勢を保ち続けていくことは難しい。実際に昨年、施設に持ち込まれる犬の数はかなり増えたという。長引く不況からの脱出の糸口が掴めない今、持ち込まれる犬の数は増え続けているのではないか、そう尋ねると、意外やシャーロットさんは、あっけらかんとした口調で「確かに持ち込まれる犬は多いけれど、同時に引き取りたいと訪ねてくる人の数も増えたから、プラスマイナス・ゼロといったところかしら」と答えてくれた。

引き取られた犬たち
今年引き取り手が現れた犬の数が一目で分かるようになっている表(写真右)。青がオス、ピンクがメス、緑がスティッキー・ドッグだ。「今年は今の時点で昨年1年の記録を超えそうなの」と嬉しそうなシャーロットさん。その隣には、飼い主の決まった犬たちの幸せそうな写真が(写真左)

Cafe
週末にオープンする「Cafe」エリア。観光地のペンションにでもいるかのような可愛らしい雰囲気だ。奥には、犬に関するレクチャーを行うスペースもある

リストラや賃金カットにより一軒家を手放したり、引越しせざるを得なくなった人たちが、これ以上はペットを飼うことができないとセンターに持ち込むケースはやはり増加したという。しかし、一方で、外出を控えるようになった家族が、家での生活を重視するようになり、ペットを飼おうと考える人たちもまた、増えたというのだ。「800ポンドもする血統書付きの犬がセンターに持ち込まれたりするのよ。そんな犬を75ポンドで引き取れるんだからお得でしょう?」冗談めかして肩をすくめるシャーロットさんの言葉に、良い意味でのしたたかさとでも言おうか、社会に溶け込んだ英国のチャリティー団体のタフさが伺える。政府の援助が一切ない中で、2度の世界大戦の時期を乗り越え、100年以上にわたり活動を維持してきたドッグズ・トラスト。理想を追い求めるだけでなく、現実を見据えた上で犬の置かれた状況を改善しようという思いが、センターのあちらこちらに息づいている。

建物内部を一周し、ロビーに戻ると、センターに到着した際に見かけた、中年男性と一匹の犬の姿が目に入った。到着時に心に浮かんだ疑問を、思い切ってここで解消することにする。「その犬はこちらのセンターから引き取った犬なんですか」。こう尋ねると男性は、傍らで静かにお座りをしている犬の頭をポンポンと撫でながら、こう答えてくれた。「いや、こいつは知り合いの家で生まれたのをもらってきたんだ。今回は、こいつの友達を探しに、このセンターに来た。こいつはちょっとおとなしすぎるからね。仲間がいた方が楽しいかなと思ったんだ」。今日見かけた犬のいずれかが、彼らの家に引き取られることになるのだろうか。2匹の犬がじゃれあいながら庭を走り回る姿が、見えた気がした。

数字で見るドッグズ・トラストの活動

リホーミング・センターの数
17カ所
ドッグズ・トラストで活動するスタッフの数
500人以上
ドッグズ・トラストで活動するボランティアの数
500人以上
昨年、ケアした犬の数
1万5162 匹
昨年、行った去勢不妊手術数
5万2615回
昨年、行ったマイクロチップ埋め込み数
1万9964 回

犬を引き取るまでの10のステップ

1. 質問用紙に必要事項を記入する
2. スタッフと詳細を相談する
3. 犬舎を見学する
4. スタッフの力を借りつつ、候補犬のリストを作成する
5. 選んだ犬と面会する
6. スタッフが自宅を訪問する
7. 犬の健康診断を実施する
8. 犬を引き取るにあたってのディスカッションを行う
9. 犬とともに帰宅する
10. 犬と生活する上でのアドバイスとサポートを受ける

※ちなみに犬の引き取り料として60〜100ポンドをセンターに支払う

ドッグズ・トラストの資金調達法

スポンサー Wag!新しい飼い主がなかなか見付からない犬をドッグズ・トラストお抱えの犬とし、スポンサーを一般から募集する。費用は1週間1ポンド。スポンサーにはグッズや機関紙「Wag!」支給などの特典がある。
寄付 ● オンラインで行う直接寄付。
● ドッグズ・トラストが発行するくじを購入。
● 遺産を遺す。
など
企業からの
援助(一部)
My Cartridge: プリンターのカートリッジを「My Cartridge」で購入すると、費用の一部がドッグズ・トラストに寄付される。
Click Now: ドッグズ・トラスト独自のインターネット検索エンジン「Click Now」を利用するだけで、同団体へ寄付金が渡る仕組みになっている。
Welcome Holidays: 英国、フランス、アイルランドに点在するコテージを紹介・斡旋する「Welcome Cottages」が、犬と一緒に泊まれる施設を紹介してくれるのに加え、売上の10%をドッグズ・トラストに寄付する。
イベント参加 地元でのドッグ・ショー開催から、北極圏での犬ゾリ体験ツアーまで、大小様々なイベントを企画。その参加費の一部が寄付される。
 
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