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Fri, 29 March 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

米映画界の大物にセクハラ疑惑浮上 - 英国にも飛び火

ここ1カ月ほど、米映画プロデューサー、ハービー・ワインスティーン氏(62歳)のセクハラ・性暴力疑惑が次々と報道されています。ワインスティーン氏が手掛けた作品には、「恋におちたシェークスピア」、「英国王のスピーチ」、「アーティスト」などがあり、米アカデミー賞を受賞した作品も多数で、同氏はハリウッドの超大物と言ってよいでしょう。その影響は映画界のみならず、ファッション界、政界にも及んでいました。ワインスティーン氏は米民主党の強力な支持者で、オバマ前米大統領や昨年の米大統領候補クリントン氏に多額の政治献金をしていました。

10月上旬になって、米「ニューヨーク・タイムズ」紙や「ニューヨーカー」誌が暴露記事を出しました。ワインスティーン氏が過去何十年にもわたって女優や自分が経営する映画会社で働く従業員に対してセクハラやレイプなどの性的暴行を行っていたという疑惑です。自分がシャワーを浴びている姿を見るように強制したり、マッサージをするよう求めたそうです。レイプされたという人もいました。報道からも間もなく、ワインスティーン氏は自分の名前を冠する映画会社から解雇されました。本人はセクハラ・性的暴行を行ったことを認めておらず、レイプ疑惑については「合意なしの性行為ではなかった」と述べています。現在までに、70人を超える女優、女性従業員らが「自分も被害に遭った」と声を挙げています。その中には米著名女優グウィネス・パルトローやアンジェリーナ・ジョリーもいます。疑惑は米国だけの話に収まりませんでした。英女優ロモラ・ガライもセクハラの対象となったことを明らかにしていますし、ワインスティーン氏の元アシスタントで英国人のゼルダ・パーキンスさんは、1998年にセクハラ行為の口止め料として12万5000ポンド(約1800万円)を受け取ったことを暴露しています。

ワインスティーン氏はアカデミー賞を主催する米映画芸術科学アカデミーから追放。英国映画協会は映画界に大きな貢献をした映画人に与えるフェローシップという称号をワインスティーン氏に授与していましたが、今回の件でこれを取り消すことを発表しました。

ワインスティーン氏のセクハラ・性的暴力は業界内の「公然の秘密」であったそうです。先日、訪英していたクリントン氏は「知らなかった」と述べていますが、複数の映画でワインスティーン氏と仕事をしたクエンティン・タランティーノ監督は「ニューヨーク・タイムズ」紙に対し、セクハラ行為を知っていたことを認めました。

なぜこれまで明るみに出なかったのでしょうか。女優たちは著名な映画プロデュ―サーから仕事を干されることを怖がっていましたし、元従業員たちは口外しないことを約束する契約書に署名をしていたのです。ワインスティーン氏の名声や政界への影響力を考えると、「黙っていた方がいい」と考えた人がほとんどでした。疑惑がどこまで事実だったかは今後の捜査が明らかにするでしょうが、ワインスティーン氏が自分の強い立場を利用していた可能性は大いにあると言ってよいでしょう。一連のセクハラはパワー・ハラスメント=パワハラでもありました。

性差別をなくすための運動を続けているローラ・ベーツさんは「セクハラはワインスティーン氏だけに限らない」と表明しています。BBCの調査によりますと、対象となった2031人のうち、職場でセクハラに遭った経験を持つ人は37%いました(BBC ニュース、10月25日)。女性だけに限ると53%が、男性では20%が経験していましたが、大多数がその事実を誰にも話していませんでした。

ワインスティーン氏の事件が明るみに出てから、ツイッター上では「私もセクハラをされた」という意味を持つ「#MeToo」というハッシュタグが流行っているそうです。10年前にこのメッセージの発信を開始したのがタラナ・バークさんです。ワインスティーン氏の事件をきっかけに、セクハラがなくなるよう「声を挙げ続ける運動にしたい」とバークさんは語っています(同BBC ニュース)。

 
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