活動禁止の親パレスチナ団体支援で異例の500人超が逮捕「パレスチナ・アクション」とは?
「虐殺に反対する。パレスチナ・アクション(Palestina Action)を支持する」。8月9日、ロンドン市内ではこう書かれたプラカードを持って多くの人が座り込みデモを行いました。親パレスチナ団体「パレスチナ・アクション」の活動を禁止した政府の決定に対する抗議デモです。参加者の中で532人が逮捕され、1990年の人頭税反対デモでの逮捕者339人を大幅に上回りました。逮捕者の平均年齢は54歳で、年齢層でも多かったのは60代だそうです。BBCは、かつて気候変動活動に関わってきた経験を持つ高齢者たちが、禁止措置は「言論の自由の保障を侵害する」として参加したと分析しています。一体、パレスチナ・アクションとはどんな団体なのでしょうか。
その創設は5年前になります。共同創設者の1人フーダ・アモリ氏(31)はパレスチナ人の父とイラク人の母の間に生まれました。1930年代半ば、当時英国の委任統治下にあったパレスチナで独立戦争が起きたのですが、このときアモリ氏の曽祖父は英兵に殺害され、先祖代々の家も破壊されたそうです。
2015年以降、マンチェスター大学の学生時代から政治運動に参加するようになり、当時の労働党党首で親パレスチナ派のジェレミー・コービン議員の支持者となりました。卒業後は国内最大のパレスチナ支援を目的とした団体「パレスチナ連帯キャンペーン」に参加し、パレスチナ人の権利擁護や、イスラエルによる占領・入植・差別政策に反対するための活動に従事するようになりました。19年の総選挙でコービン氏率いる労働党が大敗し、現行の政治体制や通常の支援活動で達成できることの限界を感じたアモリ氏は20年7月、強硬な直接行動に訴える団体としてパレスチナ・アクションを結成しました。共同創設者となったのが気候変動の危機を訴える「Extinction Rebellion」(絶滅への反抗、略称「XR」)のベテラン活動家リチャード・バーナード氏(52)です。
創設以来、パレスチナ・アクションは「イスラエルの大量殺害への関与を終わらせる」(公式サイト、現在は閉鎖)ことを目的として活動しています。その一環として、イスラエル政府に武器を供給する防衛企業の業務を妨害する破壊行為を行ってきました。最も注目を浴びたのは6月20日、オックスフォードシャーにある英空軍ブライズ・ノートン基地に侵入し、軍用機2機に赤い塗料を吹きかけた事件です。その被害額は700万ポンド(約13億円)相当に。これを受けて、英国議会は7月、パレスチナ・アクションをテロ組織に指定し、活動を禁止する法案を可決しました。この指定により、同団体への加入や支援は刑事罰の対象となり、最長14年の懲役刑が科される可能性があります。パレスチナ・アクションはイスラム組織ハマスや過激派組織イラク・シリア・イスラム国(ISIS)などと同列に扱われることになりました。
イヴェット・クーパー内相は今回の措置は「中東に関する合法的な抗議活動や市民運動には影響しない」と述べていますが、禁止法案の可決以降、ロンドン市内で抗議デモが発生しています。国連の人権高等弁務官フォルカー・テュルク氏は、同団体へのテロ組織指定を撤回するよう政府に求めています。「テロという言葉が持つ重大性と影響力を乱用している」、と。
パレスチナ・アクションは措置を不服として解除を求めていましたが、7月30日、高等法院は同団体のテロ組織指定が再検討されるべきだとの裁定を出しました。活動禁止解除の申し立ては退けられましたが、今秋、内相の決定に対する本審理が行われることになりました。連日、ガザの惨状が報道される英国にいると、パレスチナ・アクションの直接的な破壊行為には賛同できなくても、その声を封じ込める動きには抵抗があるというのが、多くの英国市民の本音ではないでしょうか。
Palestine Action(パレスチナ・アクション)
2020年発足の親パレスチナ団体。パレスチナ人が暮らす地域でのイスラエルの統治や差別的措置に抗議する活動として武器産業への直接行動を展開。昨年3月には、イスラエル建国を支持し、パレスチナ人の強制退去を引き起こしたバルフォア宣言を出したバルフォア卿の肖像画に赤いスプレーをかけ、複数回切りつけた。