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Mon, 16 September 2019

「ランボルギーニ減税」の狙い – 2014 年度予算案

オズボーン財務相が2014年度の予算案を発表した。話題を呼んだのは「55歳になったら私的年金を一括して受け取ってランボルギーニのスーパーカーが買えるようになる」というニュースだ。「将来の年金を取り崩して大丈夫?」という心配は、独立不羈(どくりつふき)の英国人には、余計なお世話のようだ。

「フィナンシャル・タイムズ」紙の世論調査では、わずか4.5%がこれまで通り「一時払い終身年金(Annuity)」を購入すると回答、42%が拠出金と運用益による「年金原資(Pension Pot)」を取り崩すと答えた。

 

英国の年金も国民年金などの公的年金と私的年金がある。私的年金の枠組みの一つとして、現役時代は個人や企業の拠出金や運用益(日本でいう確定拠出型年金)などで年金原資を積み立て、年金受給開始時に保険会社から一時払い終身年金を購入することが半ば義務付けられてきた。年金原資を取り崩そうと思っても、非課税なのは原則25%だけで、残りには55%という懲罰的な税率が課せられてきたからだ。保険会社は年金原資を元手に英国の長期国債などを購入して運用しているが、英中央銀行・イングランド銀行の超金融緩和策で長期金利は2.7%という低水準。キャメロン政権は財政再建に取り組んでいるため、長期金利は当分上がりそうにない。年金生活者の間では「年金原資を自分で運用していたら、もっと利回りの良い投資先を選べたはず」という不満がうっ積していた。

そこで、オズボーン財務相は知恵を絞った。25%の非課税措置を残したまま、55%の懲罰的税率を通常の所得税率(基礎税率20%)に引き下げてはどうか。そうすれば、これから定年を迎える有権者の不満を和らげられる。年金原資を一括して取り崩す人が増えれば一時的な税収増も期待できる。「1921年に年金制度ができて以来、最も広範囲な年金課税の制度改革だ」とオズボーン財務相は会心の笑みを浮かべた。「年金原資でランボルギーニを買えるということか」と質問されたウェッブ年金担当相が「それはその人の選択だ」と答えたことが、大きな反響を呼んだ。

今年の国民総生産(GDP)成長予想は2.7%に上方修正され、18年度には財政黒字が出る見通しだ。消費者物価指数も1.7%まで落ち着いている。これで支持率が上がらない方がおかしい。「サンデー・タイムズ」紙の世論調査では、保守党36%、労働党37%、自由民主党9%、英国独立党11%。最大で16ポイント離されていた労働党との差は、わずか1ポイントにまで縮まった。しかし、5月の欧州議会選で英国独立党が台風の目になるのは必至で、英国政治研究家の菊川智文氏は「今回の予算にも英国独立党を意識した政策が盛り込まれている」と分析する。それが年金や預金で暮らす人たちへの対策だという。冒頭の「年金原資取り崩し減税」が実施されるのは来年4月からで、平均的な年金原資は1人当たり1万7700~2万5000ポンド。ランボルギーニは1台16万5000ポンドもするので、購入できる人はほとんどいない。しかし、見せ方がうまい。

 

上院の権限が弱い英国では、総選挙で勝てば4~5年の任期が約束される。キャメロン首相とオズボーン財務相のコンビは、世界金融危機で致命傷を負った英国の経済と財政を不屈の闘志で立て直してきた。

片や、日本では総選挙と参院選が目まぐるしく行われ、現在の安倍晋三首相が誕生するまで、約1年で首相が交代する異常事態が続いていた。経済政策アベノミクスが息切れし始めた最大の原因は目先の結果だけを追い求め、中・長期的な経済・財政改革を棚上げしてしまったことにある。日本は英国から「小選挙区制・二大政党制」という政治システムを導入したが、「政策中心の政党政治」という政治風土・文化までは移植できなかった。英国では「善政を行うのは我が党だ」という強い信念が政治権力を追求する原動力となり、考えに考え抜いた政策を生み落としている。

鉄の「政官財」トライアングルが1990年代のバブル崩壊とともに消え去った日本では、歌舞伎役者と同様、世襲政治家が政治という舞台を支配するようになった。官僚が以前の力を失った今、日本に変化を求めるのは難しいだろう。アベノミクス第三の矢(成長戦略)は果たして放たれるのか。

 
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木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
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