ロンドンのゲストハウス
Sat, 21 April 2018

青シャツを愛する事件記者、NOTW盗聴事件を語る

英国で一番気になるジャーナリストはと聞かれれば、最盛期は部数840万部超を誇った日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド(NOTW)」を廃刊に追い込み、告発サイト「ウィキリークス」と組んでアフガニスタン・イラク駐留米軍文書、米外交公電をスクープした「ガーディアン」紙の事件記者ニック・デービス氏を挙げるだろう。

デービス氏は革ジャンの下に、いつもライト・ブルーのワイシャツを着ている。ジャーナリズムのサマー・スクールで会ったとき、珍しく白シャツを着ていたので、「今日はライト・ブルーじゃないね」と冷やかしてみた。デービス氏は「髪が白くなってきたから、ダーク・ブルーにしているんだ。白いのを着てきたのは頭がおかしかったからだ」と照れ笑いした。ブルーを好む理由は「取材相手に安心感を与えるからだ」という。

デービス氏は60歳を過ぎても健筆を振るい続けている。名門オックスフォード大学卒。調査報道を専門にする事件記者として数々の賞をものにしている。筆者も38歳まで16年間、事件記者一筋で文字通り1年365日夜討ち朝駆けに明け暮れたが、60歳まではとてもできない。デービス氏の気力、体力は衰えることを知らない。男の色気があって映画スターのように格好良い。

 

NOTW盗聴事件では元編集長アンディ・コールソン被告に有罪、米ニューズ・コーポレーション会長ルパート・マードック氏の側近レベッカ・ブルックス被告(英新聞統括子会社社長)に無罪の評決が言い渡された。警察内部からの情報提供が端緒とばかり思い込んでいたが、真相は異なっていた。

盗聴事件は、2006年にウィリアム王子の携帯電話を盗聴したとしてNOTW王室担当記者や私立探偵が逮捕されたことに端を発する。2人はこのほかスーパーモデルや下院議員、プロ・サッカー協会関係者ら5人の携帯電話も盗聴していた。「取材は繊細なジグゾーパズルを埋めるようなものだ。ウィリアム王子以外の5人を盗聴した背景は完全には解明されなかった。取材はここから始まった」。

信じられないのは、デービス氏の主要なニュース源がNOTW記者20~30人だったことである。「友人だったの?」と確認す ると、「最初は初対面の人たちばかり。パブで近づいたりした。6年以上は取材した。みんな盗聴ネタで記事を書くのが嫌だったのさ。そして編集局内のパワハラ(いじめ)がひどかった」と打ち明けた。

デービス氏がウィキリークス創設者ジュリアン・アサンジ氏にアプローチしたのも「ベタ記事」がきっかけだ。アサンジ氏に関する小記事を読んで、同氏が入手した機密文書を新聞で報道できないかと考えたという。「世紀のスクープ」も隅から隅まで新聞を丹念に読む地道な作業から誕生していた。

 

ブルックス被告が無罪になったのは、マードック氏が常に法廷に18人の法廷弁護士を配置する体制を組んだことが大きい。これに対して検察側は事務弁護士1人、助手1人。最初から勝負は見えていた。マードック氏がキャメロン首相の報道局長まで務めたコールソン氏を見捨てる一方で、数百万ポンドの費用をかけブルックス被告を守った理由は何なのか。

「マードック氏は米企業による外国公務員への賄賂を禁じた米連邦海外腐敗行為防止法に問われることを防ぎたかった」とデービス氏は解説する。米国ではロッキード事件を受け、1977年に米連邦海外腐敗行為防止法が制定され、企業に高額の罰金、役員・従業員には罰金・懲役が科せられることになった。ブルックス被告が警察官など情報提供者への贈賄で有罪になった場合、米国の本丸ニューズ・コーポレーションに火の手が及びかねない。

「それに」とデービス氏は付け加えた。「レベッカには生まれついて人を惹きつける魅力がある。回りの人はみんな彼女を好きになってしまう。マードック氏もそうだと思う」。

デービス氏は2008年に出版した著書「フラット・アース・ニュース」で、PR(パブリック・リレーションズ)会社の情報や通信社の配信を確かめもせず、書き直すことが多くなっている英メディアの現状に警鐘を鳴らした。英国では当時、PRパーソンが4万7800人に対してジャーナリストは4万5000人。高給を求めてPR会社に転職するジャーナリストが後を絶たないという。

 
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木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
ブログ: 木村正人のロンドンでつぶやいたろう
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