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Mon, 20 November 2017

新聞のデジタル化
「ガーディアン・アンリミテッド」の終焉

世界の先頭に立って新聞のデジタル化を進めてきた「ガーディアン」紙(日曜紙は「オブザーバー」)が今後3年間で予算を20%(5400万ポンド)削減して、黒字化を目指す方針を発表した。同紙はいち早く「ガーディアン・アンリミテッド」と銘打ち、無料ですべての記事や写真、映像のコンテンツを閲覧できるオープン・ポリシーを掲げてきた。その看板戦略と決別し、月5~60ポンドのメンバーシップ制を導入するというのだから、かなり大きな衝撃を受けた。新聞のデジタル化をめぐっては「メディアの帝王」ルパート・マードック氏傘下の「タイムズ」紙が2010年6月から「ペイ・ウォール」を導入して有料化に踏み切り、黒字化に成功している。

 

産経新聞時代に社長秘書をした筆者は首都圏の夕刊廃止、新聞のデジタル化という核心戦略にかかわった。特にデジタル化では2007年にプロジェクト・マネージャーを務め、在英メディア・ジャーナリストの小林恭子さんのアドバイスを受け、「ガーディアン」紙のオープン・ポリシーを採用した。社内の猛反対を説得するプレゼンテーションも担当した。その後、ロンドンに赴任して12年に独立し、現在はインターネットを中心に執筆活動を続けている。デジタルの世界はまさに日進月歩だが、ようやく新聞のデジタル化にも大きな方向性が見えてきた印象が強い。

紙の新聞の販売・広告収入を食いつぶす形でデジタル化に対応してきた新聞社だが、今回の「ガーディアン」紙の方針転換は、もはやそれが限界に達したことを明確に物語っている。

無料で良質のコンテンツを提供し続けるのは無理がある。原稿の書き手からすると、収入を確保できないと十分な取材ができず、良い記事は書けない。時代が変わっても「コンテンツが王様」という大原則は変わらない。しかし従来通りの手法で書かれた記事は読まれなくなった。新聞を「情報の百貨店」に例えると、媒体として流通を独占している間は良かったが、インターネットの発達でその優位性は完全に失われた。新聞が提供する情報の希少性はなくなり、品ぞろえは豊富だが欲しい読みものが見つからない「情報の百貨店」は集客力を失った。

 

インターネット時代の情報発信には「拡散」「収益」「コンテンツ」を考える必要がある。新聞社だけでこうした問題を解決できなかったことをガーディアン・モデルの敗北は教えてくれる。紙の購読者が減少する中で、「ガーディアン」紙は広告収入も落ち込み1億ポンド以上の損失を出した。同紙はラスブリッジャー前編集長時代にマードック氏の日曜紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」(廃刊)の組織的盗聴事件、告発サイト「ウィキリークス」が入手したアフガニスタン・イラク駐留米軍文書と米外交公電、米国家安全保障局(NSA)や英政府通信本部(GCHQ)の市民監視プログラムを暴露したスノーデン・ファイルを連続スクープし、黄金期を築いた。主張は左寄りだが、コンテンツは非の打ちどころがないほど充実している。しかし「拡散」「収益」という面で新聞社がグーグルやフェイスブック、アマゾンといったネット企業に勝つのは難しくなった。記者に記事は書けてもプログラムは書けない。

日経新聞は「フィナンシャル・タイムズ」紙を1600億円で買収。いずれも経済紙で「情報の百貨店」というよりは「情報の専門店」である。日本国内のデジタル読者を増やし、アジア・マーケットに食い込めるかが勝負の分かれ目になる。だが、どれだけデジタル化にオカネをつぎ込めるのだろう。アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は伝統ある米紙「ワシントン・ポスト」を買収、「拡散」と「収益」はネット企業が引き受け、コンテンツは新聞の編集局がデジタル・スタッフと一緒になって展開する新境地を切り開いた。「ワシントン・ポスト」紙はアマゾンの悪い話は書けないという欠点があるが、大きな可能性を示している。

筆者は「タイムズ」紙電子版の有料読者だが、記事というより、映画や劇場、トーク・ショーやレストランの割引サービスの方が魅力的だ。日本の新聞社が洗剤やトイレットペーパー、プロ野球の入場券、液晶テレビまで使って販売部数の維持に必死になる姿と似ていなくもない。

 
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木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
ブログ: 木村正人のロンドンでつぶやいたろう
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