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Tue, 25 July 2017

「The Financial Times」紙って、
一体どんな新聞なの? - 小林恭子

第8回 将校が読んで、作戦を練る新聞

インフォグラフィックス
FTの読者層を示すインフォグラフィックス
(FTのウェブサイトより)

毎朝、ピンク色の新聞「フィナンシャル・タイムズ(FT)」紙は「タイムズ」や「ガーディアン」、「サン」などとともに小売店の陳列棚に並んでいます。でも、経済専門紙であること、そして1部売りが平日版2.70ポンド(約400円)でほかの新聞の2倍以上もするせいなのか、買っていく人の姿をなかなか見かけません。一体どんな人が読んでいるのでしょうか。

連載の第2回目でFTの読者は「世界中に住む政策決定層・エリート層」と紹介しましたが、その中身をもう少し詳しく見ていきましょう。

FTのウェブサイトに掲載されている読者層情報によりますと、まず目を奪われるのが読者の平均世帯年収の高さ(16万2225 ポンド、約2900万円)。首相の給与である約15万ポンドを超えているのです。13% が大富豪で、71%が国際企業に勤務しています。

またFTは紙版(平日版)を約20万部販売し、その半分以上が海外での販売です。約55万の電子版購読者も大部分が英国外に住む読者ですので、まさに国際的な新聞と言ってよいでしょう。

一方、FT グループを買収した日本経済新聞社ですが、「媒体資料 2015」によりますと、日経読者の平均世帯収入は924万円です。FTは世界の富裕層、政策立案者が多く読む新聞ですが、日経ははるかに幅広い読者層を持つ、ビジネス・パーソンを中心とした新聞ですから、大きな差があるのは不思議ではありません。

金融現場では両紙はどんな使われ方をしているのでしょう。ロンドンの投資銀行に勤めるある人に聞いてみました。彼によると、日経は「日本の投資家がどう動くかを読むために必須の新聞」。日経の報道が市場の動きを探るための鍵となるというのです。機関投資家、証券マン、銀行員などの金融関係者が広く読む新聞=日経、ということでした。一方のFTは「将校が読み、戦略を練るための新聞」。例えば英国の投資銀行は「命令系統のピラミッドが厳格な軍組織」であり、「将校が決めた戦略に部下は絶対服従する」風潮があるのだとか。将校、つまりチームの指揮系統の上に立つ投資銀行のトップや政策立案者のような人物がFTの「独自のコラムや論評を読み、作戦を決定する」ために読むのがFTだそうです。階級制度が残る英国らしいですね。

それでも、「FT =世界の富裕層・政策立案者が読む」、「日経=ビジネス・パーソンが読む」だけとも言い切れません。日経の読者は約55%が会社員ですが、次に多いのが主婦(14. 1%)、無職(9. 4%)、学生(6.3%)と続きます。45%が非会社員なのです。

FTの方は、土曜日発行の週末版が経済に関心のない人の間でも人気があります。また「高額」には実はからくりがあるのです。電子版の年間購読(270ポンド)を申し込むと、月で割ると約3480円に相当します。日本の新聞の月額購読料と比べても決して高い額ではなく、フリーのジャーナリストとして働く筆者でも払える金額です。年間購読料の金額はここ数年変わっておらず、学生あるいは中程度の所得者も読者に取り込みたいというFTの戦略が見えてきます。高額所得者しか読めないというわけではない、実はこれがFTの知られざる秘密なのかもしれません。

 
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小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi
フィナンシャル・タイムズの実力在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社) など。

「フィナンシャル・タイムズの実力」(洋泉社)
日本経済新聞社が1600億円で巨額買収した「フィナンシャル・タイムズ(FT)」とはどんな新聞なのか? いち早くデジタル版を成功させたFTの戦略とは? 目まぐるしい再編が進むメディアの新潮流を読み解く。本連載で触れた内容に加えて、FTに関するあらゆることが分かりやすく解説されている一冊。

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