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Mon, 23 April 2018

一変した「政治の言葉」の伝わり方―スコットランド独立

スコットランド独立の是非を問う18日の住民投票は反対55%、賛成45%で否決された。夜行列車で投票日の早朝、エディンバラに着いた筆者は丸2日間、駅前や通り、投票所、列車や大衆酒場で住民たちの声に耳を傾け続けた。スコットランドの独立と英国の分断という事態は既すんでのところで回避されたが、住民投票という極めて民主的な手続きによって英国と民主主義の形が一夜にして変わったことを実感させられた。

独立に賛成する人たちは全身から情熱を発散させていた。これがナショナリズムの魔力なのか。それに対して英国に留まり、自治権を拡大しようとする人たちは住民投票という熱狂とは距離を置いていた。1707年にイングランド王国とスコットランド王国が合併されてから300年以上も経つというのに、スコットランド人の中には今なお民族の血と魂が熱くたぎっている。

 

紛争が拡大するイラクやシリアとは異なり、暴力や流血は一切ない。スコットランドと英国の未来について数え切れないほどの言葉が語られた。「ウェストミンスター・モデル」と呼ばれる英国の議会制民主主義は、選挙によって構成された議会が絶対的な主権を持つ。「国民主権」ではなく「議会主権」、聞こえは悪いが「民主独裁」の政治システムだ。議会は一応、二院制の形を残しているが、事実上は下院優越の一院制である。大政党が圧倒的に有利になる単純小選挙区が二大政党制を支え、チャーチルやサッチャーのような強い国家指導者を生み出してきた。しかし、最近の地方選や欧州議会選の傾向を見ると、英国は自由民主党、英国独立党(UKIP)も含めた4党時代に入っている。

そして今回の住民投票で、強い国家指導者に率いられるリーダー政治の時代が幕を閉じたことを目の当たりにした。スコットランドのテレビを通じて流れる保守党・キャメロン首相の演説は、まるで腹話術の人形がしゃべっているように空虚に響いた。ロンドン(中央政府)を起点にする首相の言葉はスコットランド人(地域政府)の心には届かない。

「独立反対キャンペーンは旧態依然としたトップダウン型。これに対して、スコットランド民族党(SNP)の独立賛成キャンペーンはソーシャル・メディアを通じて人から人へうまく伝わっていました」。こう分析するのは大手世論調査会社YouGovのピーター・ケルナー会長だ。

 

イングランドの侵略と支配に抗してきたスコットランドの歴史に立ち、独立に未来を見出すSNP党首でスコットランド自治政府のサモンド首相は、有権者とのコミュニケーション能力に長けている。「出て行けるものなら出て行ってみろ。しかし、英国の通貨ポンドは渡さないぞ」という独立反対派の主張を逆手に取り、このままいけば独立という土壇場までキャメロン首相を追い詰めた。流れを変えたのは、保守、労働、自由民主3党首がスコットランドへの「自治権拡大」を誓約したことと、スコットランドで強い信頼を得ている労働党・ブラウン前首相の言葉だった。投票前夜、グラスゴーでのブラウン演説は英国の歴史に残るだろう。「ナショナリストたちに言ってやろう。これはお前たちの旗でも、文化でも、国でも、通りでもない。すべての人たちのものだ」。偏狭なナショナリズムに自らの意思で決別を告げることにこそ、21世紀を生きるスコットランドのアイデンティティーがあるという高邁な宣言だった。

住民投票の結果を受けて、労働党の年次党大会でミリバンド党首は「ワン・ネイション」ではなく「トゥゲザー」という言葉を50回以上も使った。

自治体国際化協会ロンドン事務所の平松哉人次長は、英国の地方分権の現状について「英国は伝統的にかなり中央集権的であると言えますが、ブレア政権時代から現在にかけて少しずつスコットランド政府、議会に権限が委譲されてきました」と語る。英国の形を変える究極の地方分権はまだこれからだが、住民投票に16歳以上の約85%が参加し、自分たちの未来を熱く語った意義は大きい。

ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)の米国部門シチズンズ・フィナンシャル・グループは24日、ニューヨーク証券取引所に上場、株価は一時8.6%も上昇した。スコットランドの決断に世界は好感した。

 
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木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
ブログ: 木村正人のロンドンでつぶやいたろう
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