ロンドンのゲストハウス
Wed, 12 December 2018

アンハッピーな新年にしないために

皆さん、Happy New Year! 筆者は妻と一緒にシャンパンを飲みながら、テムズ河の花火を眺めた。前回は50万人が押し寄せた。事故を避けるという名目で今回から1人10ポンドの有料制になり、10万人に限定販売された。ロンドン市にとって単純計算で100万ポンド、日本円にして1億8600万円の臨時収入だ。筆者の秘密スポットは自宅近くの公園、だから入場料は無料。やって来たのは2~3の小グループだけ。木の枝が少し気になるものの、ロンドン・アイと花火が見える光景は最高だった。テムズ河沿いの混雑と喧騒とは正反対の静かな空間で新年を迎えることができた。

 

新年、何が英国のビッグ・ニュースになるか考えてみた。一に、5月の総選挙。英国伝統の2大政党制が崩壊するばかりか、保守党と労働党の大連立による「挙国一致内閣」が成立する可能性があると「フィナンシャル・タイムズ」紙が予想していたのには正直、驚いた。二に、イングランド銀行(中央銀行)が日米欧中銀の先頭を切って利上げに踏み切るか否か、三に、バブル気味の不動産市場が急落するかだ。この3つのトピックはそれぞれ密接に関連している。

挙国一致内閣が誕生することになったら、大恐慌の経済危機から先の大戦に至る1930年代以来の出来事になる。国民統計局によると、国内総生産(GDP)の成長率は予想を0.4%下回ったものの、昨年第3四半期までの1年間で2.6%。1年前には7.6%だった失業率は6%に改善。消費者物価指数も過去12年間で最低の1%に落ち着いている。なのに、なぜ、英国の政治は約80年ぶりという大混迷の時代を迎えようとしているのか。英メディアが危機をあおっているだけなのか。

夜、2階建てバスでロンドン市中を走っていると、電気が消えたままのフラットの数の多さに驚かされる。その一方で、高層住宅や商業ビルの新築ラッシュが起きている。雨後の筍のように出店する不動産屋。世界金融危機以来の超金融緩和で巨額マネーがロンドンに流れ込んだおかげで、「キャピタル・リッチ、インカム・プア」の二極化が進んだ。不動産や株などの資産を持つ富裕層 はますます豊かになり、汗水たらして真面目に働く勤労者は逆に貧しさを感じるようになった。ロンドンの住宅価格は下落傾向がみられるものの、1年間で20%上昇した。が、英国経済は生産性と実質賃金の低下に苦しんでいる。

 

とてもハッピーになれない新年挨拶がニュースになった。労働紛争の解決を支援する政府外公共機関Acasのバーバー議長が、英国の労働生産性は時間当たりのGDPで見た場合、2007年には先進7カ国(G7)平均を9%下回っていたが、そのギャップが13年までに19%まで広がったと警鐘を鳴らしたのだ。国立経済社会研究所によると、実質賃金は08年から13年の間に8%も低下、若者の実質賃金は14%も下落している。国際通貨基金(IMF)は昨年、生産性の低さは将来、英国経済の健全性を損なう恐れがあると指摘している。

昨年6月、「今後3年間で政策金利は現在の0.5%から2.5%に引き上げられる」と表明したイングランド銀行のカーニー総裁は、総選挙が終わるまで動かないという見方が今では強まっている。有権者が景気回復を実感できていないからだ。米連邦準備理事会(FRB)やイングランド銀行がいずれ利上げに踏み切れば、英国の不動産市場は冷める可能性が高くなる。中銀の超金融緩和は景気後退の深刻化を和らげる代わりに生産性の低いゾンビ企業を存命させる。雇用者の必要に合わせて働くゼロ・アワー契約やアプレンティス(見習い)制度を通じて低賃金で働かされる労働者の勤労意欲は低下する。

「安かろう、悪かろう」の悪循環を断ち切るカギは、時間はかかるかもしれないが、一にも二にも教育しかない。労働者一人ひとりの技術水準や、企業統治を向上させ、より高い収益が期待できる新しい産業に資金を流れやすくし、実質賃金の上昇を実現する。より公正で効率の良い経済、社会、政府を実現させ、参加者全体の満足度を高めていく努力が欠かせない。筆者も正確で質の高い記事を1本でも多く書けるよう努めていきたい。というわけで新年もお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。

 
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木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
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